30.死刑な
新章ですよぉ
魔大陸北東に位置する平原にて、2つの大小異なる魔人族の集団が向かい合っていた。その魔人族は皆、防具と武器で体を固め直立不動の姿勢を保っている。
その集団の先頭に立つ2人の男女。小さな集団の前に立つ女はまだ少女と言っていい外見をし、頭からは黒い悪魔の角を生やし髪は少し赤の入った黒髪。赤と黒を基準の色としたドレスと鎧を混ぜたような防具を纏い、赤黒い先端が2本に分かれた槍、わかりやすく言えばロンギヌスの槍。オタ風に言えば某「知らない天井だ」で有名な中学二年生がサードふにゃふにゃを始めた時にピアノ上手な少年が打ち込んだ槍と酷似したもの。
もう1人の大きな集団の男は聖騎士が着るような派手な鎧を黒く塗り替えたような防具で、頭に白い山羊の角とくすんだ金髪を腰のあたりまで伸ばし、武器は装飾の多いクレイモア。
そんな2人がまるで戦争でも始めるかのように対峙していた。
静寂が包むその場を刻々と時が刻む。そしてそれを破るように少女が男に話しかける。
「なぁクルド。辞めないか?こんな事」
その言葉を聞いたクルドと呼ばれた男がニヤリと笑う。
「こんな事だと?くくっ。負ける事がわかっているこの勝負が怖くなったか?負けて魔王の座を下されるのが?くくくっ。皆の者!闘いを前に逃げようとするこの小娘を本当に魔王の座につかせたままで良いのか⁉︎否だ!我々は魔王エマ・S・ハイアットを打倒しこの私、クルド・レーバンが新魔王クルド・S・ハイアットとして人間族を滅ぼしてやる!」
「クルド様バンザーイ!」「人間族を滅ぼしてやるー!」「小娘に魔王を任せれるかぁ!」「クルド様!」「「クルド様!」」「「「クルド様!」」
クルドの掛け声に士気を上げるクルド陣。その声に気圧されるエマ陣。
「争いなどして何になる!争いが生むのは沢山の意味のない死と哀しみと恨みと人間族と魔人族の蟠りだけ。そんな事をして何の意味がある!今は魔人族が一体になり人間族の攻勢を受ける準備と和睦の用意をするんだ」
「和睦だと?くくっ、攻めてきた相手に和睦を求めると?あーっはっはっはっは。わざわざ攻めてきたというのに相手が和睦をすると思っているのか?笑わせてくれる。奴ら人間族に身の程というものを知らしめるのだよ。そして奴等の大陸資源と労働力の確保、我ら選ばれた種族、魔人族が、大魔王クルド・S・ハイアット様が世界を統べるのだよ!」
「くっ、クルド…貴様それが目的か!」
「くふっ、貴様のような甘えた小娘が魔王だと?巫山戯ている。だがまぁ貴様は容姿はまぁまぁ良い方だ。愛人にでもしてやろうか?くふっ。お前らぁ、この闘いに勝ち戦果を挙げたものには好きな女をくれてやる。殺すも犯すも壊すも好きにしていいぞ。くくくっ」
更にクルド陣の士気が上がる。
「どこまで落ちるつもりだクルドっ。貴様をこのまま放っておくわけにはいかないな。我ら魔人族は誇り高き種族。命を尊び弱きものを助ける。それが我ら力を持つ種族であろう!この戦いに勝ち必ずや魔人族の誇りを護ろうぞ!」
「おぉぉぉ!」「あんな奴に魔人族は任せられぬ!」「必ずやエマ様に勝利を!」
エマの言葉にエマ陣の士気も上がる。
両者共に十分士気が高まる。そして争いの幕が落とされようとした時、
「何だよこいつら。皆武装して戦争でもする気か?」
「する気か?じゃなくて、するんだと思う」
「なんじゃなんじゃ楽しいことするのか?妾も混ざって良いかの?」
「ダメだよロベリア。本当に喧嘩してるのかもわからないのに喧嘩ふっかけちゃ。こっちが加害者になっちゃうよ」
「むぅ〜そうか」
「相変わらず戦闘狂だな」
「クロには言われたくないぞ!」
「なんだよ。俺そこまで戦闘狂じゃないぞ?」
「あの戦いを見たら、戦闘狂って思うのは、仕方がない」
「そんなにひどかったか?」
「酷かったよぉ〜。『いいねぇ、楽しいねぇ。さぁさぁもっと足掻け!もっと楽しませろ!フハハハハ!』って言ってたよ」
美咲が臨場感たっぷりにクロのモノマネをする。
「なんだよそれ。そんなこと言ってねぇよ」
「んーん、言ってた。しかも一字一句間違えずに、さっきのミサキより、ノリノリで言ってた」
「言ってたのぉ。『俺も最近手応えのある奴が居なくてつまらなかったんだ。いくらでも貸してやるから精々足掻いてくれよ!』とも言っておったの」
「まじかよ……俺そんなに戦いに飢えてんのか」
「じゃからな?じゃからな?妾と遊ぼうぞ!」
緊張が張り詰めていた空間に突然の緩い空気。緊張の空振りをした兵士たちはなんとも言えない表情を緩い空気を持ってきたやつら、1人の男と3人の少女、2mはある大きな鎧の人形に向ける。魔人族たちはその鎧が人では無い何かだと気づく。
その4人と1体は先ほどから言っている通りクロたちだ。
「なぜここに人間が…。くくっ。だが丁度いい。まだ幼いが顔は整っているし、まぁ許容範囲だ。人間族の性奴隷第1号としてお前たちを私の所有物にしてやる。くくくっ」
クルドはクロたちがただの人間と侮って事もあろうかスズたちを性奴隷にするとかほざき出す。まぁそれをクロが逃すはずが無い。
「なぁ」
クロは下を向きクルドに問いかける。
「あ?男か…いらんな。殺せ」
俯いているのが怯えているのだと思い興味をなくしたように部下に命令する。
「なぁ」
それでもクロは問いかける。
「うるさいな、何の用だ」
再度の問いかけにイラついたようにクロへと振り返る。其処には顔を上げてクルド初めてクロの表情を見た。それは深い憤怒などでは言い表せないくらい黯い表情。
「その性奴隷とかってのは……もしかしてスズ、こいつらのことか?」
「っ、くっ。あぁその通りさ。お前は要らないがこいつらは使えるからな」
一瞬クロの表情に気圧され、その事に苛立ちが走る。
「御愁傷様」
「は?」
この人間に絶望を見せようと「お前は捨てスズたちは使ってやる」の様な発言をするとスズがクルドに合掌する。
「あー、クロを怒らせたな。どんまいじゃ。生きてられたら良いの」
「え?なんのことだ?」
さらにはロベリアに心配され戸惑いが加速する。
「クロくんすっごい怒ってるよぉ。はぁはぁ、いいなぁ。その表情いいなぁ」
「なんなのだ⁉︎」
突然息を荒くして興奮しだした美咲にひく。
「其処の魔人族よ。生きてられれば僥倖じゃ。主を怒らせて体の欠損だけで済めば良いがの」
そして遂に人では無い鎧にまで励まされる。
「なんなのだお前たちは⁉︎今心配するのは私の心配ではなく自分たちの心配だろう?何故そんな可哀想な目で私を見る、っ」
戸惑いスズたちに問いかけるクルドの肩に手が置かれる。ビクッとしながら振り向くとそには笑顔のクロが。
「な、なんだ貴様。貴様の様な人間が私に触れるなど「死刑な?」…は?」
「聞こえなかったか?死刑な?」
「し、死刑?」
「そ。あ、それとゼロ。俺をスズたちのことで怒らせて部位欠損で済むはず……無いだろう?」
「そ、そうだな。スズ殿たちを貶そうとしたのだ。し、死刑は当然だ。うん、そうだ」
「て事で………楽に死ねると思うなよ?精一杯苦死ね」
クロの、公開残虐死刑が始まった。




