104.蘇生
「クロ、君……」
創造主が話しかけてくるがそれに返事ができない。
果てしない喪失感が俺の心を埋めていく。
「消えていく………」
創造主のつぶやきが聞こえてきた。
恐らく創造主には見てているのだろう。消えゆくスズの魂が。
スズは何も言わなかった。それでもスズと一つになったことでスズがどうなっているのかが何となくわかる。
本来死んだ者の魂は蘇らず輪廻へと帰り転生する。しかしスズはテウメの力を借り無理を通し一時的に蘇った。
その代償を受けているのだろう。
魂の消滅。
世界が異常をきたしたスズの魂を消しにかかっているのだ。
どうすればいい。
それを止めるには何をすればいい。
「主様」
「ッ!?」
唐突に神界に響くもう一つの声。
俺でも創造主でもない、もう一人の女の声。
「誰だ」
「シルスですよ。主様」
俺の誰何に答えたその声の主が姿を現す。
白いワンピースをふわりとさせ、薄紫の髪が舞う白い翼をもった天使だ。
「シルス、なのか?」
俺は今まで一度もシルスの姿を見たことはない。
いつも脳内でのやり取りしかしたことがなかったからだ。
「クロ君。その子は本当に君のサポーターだよ。ボクが作ったんだから間違えるわけない」
「そうか。それがお前の姿なのか」
「そんなことよりです。サポートします主様」
「サポート?何のだ」
「皆さんを蘇らせることですよ」
「できるのか!?」
「私にはできません。でも、今の主様ならできるはずです」
「今の俺なら?」
そういえば、五十嵐と戦っている最中に何かの力が俺の中に入ってきた感じがする。戦いのほうに気を取られていたからよく覚えてはいないが。
「今の主様は世界のシステムを半分近く飲み込んでいる状態です。謂わば世界のシステムの一部となっているのです」
「その力を使えば蘇らせることができるんだな?」
「できます。ただし主様お一人では無理です。元の素体が人間のものですから世界のシステムの行使に脳が耐えられません」
「それを君が補うってことなんだね?」
「はい、創造主様」
「でもそれだと君の脳回路が焼き切れるんじゃないのかい?」
「………」
「死ぬ気かシルス?」
「皆さんを蘇らせるためです」
「やめてくれシルス」
もう仲間を失ったときの喪失感を味わうのは嫌なんだ。あの寒さはどれだけ強くなっても俺の心を蝕む。創造主が懸念していたことの意味がよく分かった。
「自分を犠牲にするのはやめてくれ……」
「主様……」
弱くなったなぁ。力は強くなっていく癖に中身が伴ってない。
若干トラウマになってるのかもな。
本当に弱くなった……。
「君だけのスペック足りないだろう。だからボクも手伝うよ。ボクだって創造主だからね」
「大丈夫なのか?」
「創造主舐めないでよ?」
「分かった。それじゃ頼む。あいつ等を助けるために手を貸してくれ」
「はい」
「うん」
俺は目を瞑り集中する。全身の神経を脳に集め手に入れた力を制御することだけに専念する。
創造主とシルスの手が肩に触れる。するとスゥっと脳にかかっていた負担がどんどん軽減していく。
すごいな、この二人は。
流石創造主と創造主が作ったサポーターだ。
「これから輪廻へと帰ろうとしている魂からスズ様、ロベリア様、ミサキ様、ゼロ様の魂を探し出します」
「わかった」
俺の意識が深い暗闇に飲み込まれる。
その先には夥しい数の小さな白い光玉が浮遊していた。
そのうちの三つ、他の白い光玉に比べるまでもなく強い光を放つ光玉があった。
『あれが恐らくロベリア様、ミサキ様、ゼロ様の魂でしょう。あの魂を確保してください』
頭の中に響くシルスの声が指示を出してくる。
『彼らの魂を入れる器はボクの方で作っておくよ。丁度イガラシタイチ君が彼らの体を持ってきてくれたからね。それを少し弄って器に最適化させておくよ』
『分かった。頼む』
今もなおゆっくりと奥に向かって遠ざかっていくロベリアたちの魂を力を使い引き寄せる。
まずはロベリア。
邪を司る邪神だというのにその魂は神々しく純白に輝いている。
ロベリアと初めて出会ったとき。あれは衝撃的だったな。あと一歩でこいつに殺されてたんだよな。丁度タイミングよく俺の格が上がったおかげで助かったけど。なんとなくで力を行使し助け出した途端、惚れたとか言われて頭おかしいんじゃないかとか思っていたのが懐かしく感じる。
俺と同じく戦闘狂の気があって結構気が合うんだよな。
次に美咲。
穢れを感じさせない純粋な光を放っている。
昔からの幼馴染でずっと俺に寄り添ってくれた。まぁそのせいで地球にいたころはイジメられていたりしたが、あれはさっさと敵を潰さずに平和的に済まそうとか甘いことを考えていた俺が悪いよな。それでも周囲の反応に気付かない美咲の鈍感さにはちょっと呆れたが。俺以外に興味がないとか言うちょっと狂気じみた愛も感じるが、それも美咲のいいところなんだよな。
最後にゼロ。
何者にも崩されないような堅牢さを感じさせるように輝いている。
こいつは真っすぐで、魔物とは思えない程いい奴なんだよな。忠義に厚いし信頼できるいい従者だ。正直初めはいらないとか思ってたけど、女ばかりの中に1人いるより男の友人がいてくれた方が心休まるんだよな。俺にとっては従者とかより友人という思いが強い。
その三人の魂を集め終わる。
『これでいいのか?』
『はい、十分です』
『こっちも器の用意はできてるよ。いつでも大丈夫』
『了解』
魂をシルスの手伝ってもらいながら器へと移動させる。
細心の注意を図って魂を傷つけないように。これに失敗すると後遺症として記憶が欠損したりしかねないらしい。
恐る恐る、割れ物を扱うように優しく運んでいく。
『よし、成功だよ』
後はスズだ。
スズの魂を回収して肉体に移し替えればそれで終わる。すべてが終わる。
だというのに。
一向にスズの魂は見つからない。
まるですべて消えてしまったかのように、既に輪廻へと帰ってしまったかのように。
残滓の一欠けらも見つかることはなかった。




