102.仲間の暖かみ
殺せ、殺せ、殺せ。
頭で考える前に魂で体を動かす。
頭で考えていれば奴の動きには追い付けない。
そんなんじゃ、奴を殺せない。
「グラあぁァァぁァアアアッッ!!」
「ひ、いひヒヒヒッ!?」
狂ったように、怯えたように嗤う五十嵐。
あぁ、あの顔を見るだけで殺意があふれ出てくる。
ぐちゃぐちゃにして、引き裂いて、磨り潰して、切り刻んで、引き千切って。
ダメだ、怒りが抑えきれない。
「っ!あ゛ぁ゛ぁぁぁああ゛ああ!!!」
「い、いひっ……ひぃっ、ひヒヒヒいひひヒイイヒっッ」
「死ねっ!しね死ね死ねシねシネしね死ねしねシネ死ねえぇぇぇえええッッ!!」
「あひゃひゃヒヒヒいひひひいひいイヒヒヒヒっ」
骨が軋み、筋が切れ、頭が沸騰しているかのように熱い。
体が悲鳴を上げている。
当然か。
体のリミットを無理やり外して、本来出せるはずのない力を出しているんだ。
次々に体が壊れていくのがわかる。
でも、止まることはできない。
こいつを、この男をぶち殺すまでは。
溢れ出す俺の影。
神界を染めつくすように広がっていく。
あ?
なんだ、なにか違和感を感じる。
体の中、力、いや、存在が変わって行くような。
どうでもいいか。
奴を殺すのに問題はない。
それどころか、力が湧いてくる。
「いひっ、ヒヒヒひゃはっ」
力が湧いてくる。
それでも足りない。
奴を殺せない。
敵わない。
スズ……。
死んだ。
美咲も、ロベリアも、ゼロも。
なんで、こうも寒いんだ。
寒い、寒い、寒い。
それに反比例して体はどんどん熱くなっていく。
孤独。
創造主は言っていた。
心を蝕む。
辛そうに、寒そうに。
俺は、仲間がいたから?
スズ、ロベリア、ミサキ、ゼロ。
あいつらがいた。
創造主はただ一人。
創造主は、こんな寒さを味わっていたのか。
わかっているつもりだったが、これはキツイ。
消えてしまいたくなる。
あいつらのもとに。スズの、もとに。
仇を討てなかった。
今の俺じゃ、あいつには勝てない。
腕を切り飛ばされ、腹を抉られ、足を潰され。
五十嵐は怯えたように、楽しそうに攻めてくる。
体が自分のものじゃないみたいだ。
全くいう通りに動いてくれない。
限界だ。
限界だから。
限界だから?
だからどうする。
このまま殺されるのか?
あいつらを殺した五十嵐に。
「く、くハハッ。クはははハハハッ」
「ひひひっヒひゃハははッ。ひひ?」
ダメだ、笑ってしまった。
俺が、諦めて死ぬ?殺される?
あり得ないだろ。
ここで諦めたら、スズに、俺を好いてくれているロベリアやミサキに、付き従ってくれたゼロに、幻滅されてしまう。
あり得ないよな。
死んでも構わない。
それでも、
「貴様だけは必ず殺すッ!!」
かすれゆく視界に真っ白な狐の姿が現れる。
スズ。
――クロ。
スズの名前を頭の中で呟くと、名前を呼ばれたような気がした。
――私も、一緒に。
暖かい。
寒かった心が、じんわりと暖められていく。
仲間の、最愛の暖かさ
あぁ、一緒に。
奴を、
――殺すッ!
殺すッ!




