100.絶望
新作投稿始めました。
『イジメですか?』が完結した後のメイン投稿作にする予定の物です。
良ければ読んでいってください。
「っっ!」
眼前を過ぎ去る黒い爪に冷や冷やしながらさっと距離をとる。
飛び退った俺と入れ替わるように創造主が十字状の剣を振るう。
一撃が俺を殺し得るほどの力を秘めたその剣を五十嵐は獣染みた動きで軽く避けている。
……この間までは俺にとっては雑魚も雑魚のモブ以下の存在だったのに、今じゃ俺より強くなってるし。
「あの靄が邪魔で本体が捉えづらいね」
「そうだな。あの靄のせいで距離感がつかめずに何度か攻撃を喰らったからな」
今五十嵐は黒い靄を纏っている。それは本体がはっきりと見えないほどに濃く輪郭を捉えきれないのだ。
そのせいで俺と創造主の攻撃は殆ど当たっていない。
当たったとしても傷は浅いだろう。
それに加え身体能力もかなり上がっている。
はっきり言うとかなり戦いにくい相手だ。
「ひひひひゃひゃひゃっ!!」
五十嵐の笑い方にイラっとしながらもどうにか現状を打破できる策を考える。
五十嵐のステータスが見えれば策も広がるのかもしれないが、五十嵐の纏っている靄が邪魔しているのかステータスが見えないのだ。
結界のように五十嵐を守っているあの靄もかなり厄介だ。
創造主戦でボロボロになった体に鞭を打ちながら五十嵐に突っ込む。
右手に持った影の剣を振るうが斬った感覚はない。外した。
五十嵐の背後から創造主が近づき一閃。黒い液体が飛ぶが五十嵐の笑い声は絶えない。
戦闘開始から何時間たったのか。
俺たちは押すどころか逆に押され始めていた。
底なしのように湧き出る黒い靄を操る五十嵐の攻撃は着々と俺たちにダメージを積ませている。
「や、やばいねこれッ!どうするっ!?」
「――――――!!!」
五十嵐の攻撃を避けることに精一杯すぎて創造主に返事を返せない。
どうする。このままいけば五十嵐に殺されるのは確定だ。
何も思いつかず諦めの文字が頭を過った瞬間。
五十嵐の靄が揺らいだその奥に。
白い毛が映り込んだ。
「スズッ!?」
「ッッッ!!!」
五十嵐の肩のあたりに噛みついた白い大きな狐。ふさふさとした特徴的な尻尾が九本生えているその狐は、憑依状態のスズの姿だ。
何が起こっているのかわからないが、スズが来た。
「スズくん!?」
創造主も驚いているようだ。
スズは五十嵐から離れるとこちらに駆け寄ってくる。
そういえばこの状態のスズと近くで会うのは初めてだな。
偽神戦の時は殆ど遠くから見ていただけだし、助け出した直後にすぐに元のスズに戻ったから憑依状態のスズを堪能できずなかったのはとても悔しかったな。
足元にすり寄ってきたスズの頭を撫でる。ふわりとした毛並み。所々血に汚れいくつもの怪我を負っているようだ。かなり酷い怪我もあり呼吸も荒くなっている事から相当無理をしているようだ。
猫の手も借りたい現状だが、こんな状態のスズをこの戦いに巻き込むのは得策ではない。
「スズ、下がってろ。その状態じゃ戦えないだろ?」
――嫌だ!
憑依状態のスズが返事できるかわからなかったが頭の中に直接話しかけてくるとは思わず少し驚いてしまった。
念話みたいなものだろうか?
それにしても、スズにしては珍しいほど強い拒否だな。
「それ以上は危険だ。とにかく下がって――」
――嫌だ!!あいつは、あいつは!!仲間をッッ!
美咲?あれ、そういえば美咲にロベリア、ゼロの姿が見えない。
……なんだ、胸騒ぎが。
――あいつが、あいつが皆をッ!!皆を、殺したッ!
………………は?
――全員、死んだ。皆を、殺した!!
スズはグルルと唸り牙を剥きだし、俺はスズの言葉を飲み込めずにいた。
ミンナヲ、コロシタ?
皆を、殺した?
ころ、は?
「…………殺した?」
あいつらを?
美咲もロベリアもゼロも?
殺した、のか?
こいつが、皆を、殺したのか。
「ッッッ――――――!!!!」
言葉の意味を理解した瞬間、全身からブワッと殺気が噴き出す。
「あひゃひゃひひひひひぐっぐひひひっ」
「ふぅぅ………」
今の俺では出せるはずのないスピードで五十嵐に接近し、顔があるだろう位置を鷲掴みにする。
その顔を握りつぶさんとするが五十嵐はあまり効いていない様に笑っている。
「殺す」
鷲掴みにした顔面をそのまま地面にたたきつける。
叩きつけ叩きつけ、更に叩きつけて叩きつける。
ガッガッガッガッガッガッっと音を立てながら何度も何度も地面に叩きつける。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」
「きひひひひひひひゃひゃひゃひゃひゃっ」
「クロ君っ!」
創造主が十字状の剣を突き出している。
瞬時にその意図を読み取り顔面を捕まえたまま創造主に向かって振りかぶる。
確かに創造主の剣は五十嵐の胸部を貫いている。
だというのに、未だ五十嵐は笑い続けている。
「キヒヒヒヒヒッ!アァ、アァ、ソノ顔ガ見カッタ!」
「っ!?」
ずっと笑い続け意味のある言葉を発さなかった五十嵐が、突然喋りだす。
「俺ノコトヲ虫ケラヲ見ルヨウニ見ミテキタソノ眼ガ、諦メニ染マリカケテイルナンテ……。コレホド愉快ナコトハナイ!」
手を広げ、役者のように芝居がかった動作で五十嵐は話す。
「ダケド、ソレダケデハコノ屈辱ハ消エヤシナイ」
ずっと五十嵐に纏わる付き離れることも消えることもなかったその黒い靄が少し膨らみ、そして空気に溶けるように薄くなっていく。
「ダカラ、俺ノ手デソノ顔ヲ絶望ニ染メテヤルコトニシタ」
薄くなる靄の奥、そこに四つの人影影が浮かび上がる。
三つは小柄の恐らく少女で、一つは大柄の大男。
「自分ノ愛シタ存在ガ、生キテイルコトニ安堵シテイタダロウ?」
待てよ、待てって。
なんで、だって……。ここに……、。
「消耗シテイタカラカ、オ前ノ愛ガソノ程度ノモノダッタカラカ。ドウデモイイカ。オ前ガ苦ルシムナラ、ドウデモイイ」
嘘だろ。なんで気付かなかった?
俺が、偽物に気付かなかった!?
「オ前ノ仲間ハ皆死ンダ。ソウ言ッタダロ?」
仲間を、皆を、全員を殺した。
「ミーンナ。俺ガ殺シテヤッタ」
俺の背後にいたスズ、白い狐が黒い靄を発しながら解れるように崩れていき、五十嵐の元へ向かっていく。
「絶望ヲ前ニシタ気持チハドウダ?」
スズ、ロベリア、美咲、ゼロが。
死んでいた。
「――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!!」




