弟の決断
何事もなく過ごしてきたある時。
俺は仁の心の中へと戻り、仁と涼が話しているのを聞いていた。
きっとスズも聞いているんだろうな…。
「お兄ちゃん、涼、スズさん。
聞いてもらいたいことがあるんだけど良いかな?」
突然仁が言いだした。
俺は仁に「何だ?」と伝える。
俺らやスズたちなど特殊な双子にしか使えない特技。
「僕ね、高校に行きたいって思うんだけど…良い?」
俺は息を飲んだ。
そして無理だと伝えた。
今は安定しているけど、いつ精神が壊れるかわからない状況なんだ。
学校などと言った人の多い場所に行ったら、壊れてしまうかもしれない。
だとしたら仁は確実に傷つくに決まっている。
俺は必死に反対した。
「仁、スズ兄さん、任さん。
オレも仁と一緒に高校へ行きたいんだ。
スズ兄さんがいなくても、生きていけるようになりたいんだ」
涼まで…!
俺は驚いた。
俺とスズたち兄貴が守ってやるべき弟たちが。
こんなにも強い意思を持っていると思わなかったから。
驚き何も言えないでいる俺に比べ、スズは反対していた。
スズが誰よりも涼を大事に思っているのは、俺が1番よくわかっている。
…同じ立場だから……。
『……仁、涼。
悪ぃんだけど、暫く俺とスズで話させてくれないか?』
「わかったよお兄ちゃん。
涼、お兄ちゃんがスズさんと話したいって言っているんだけど」
「わかった、聞いてみる。
スズ兄さん、仁の言うこと聞いてた?」
数分涼は黙り込み、「スズ兄さんも話したいって」と言ってくれた。
俺は仁の意識を心の中へ押し込み、久しぶりに表に出た。
古びた仁と涼の住む家。
ちなみに現在この家は、涼が独り暮らししている家だ。
仁はこの後、新野家に引き取られて行くから…。
「オイ任。
どう思うんだテメェは」
「俺は勿論反対だ。
だけど仁や涼が引き下がるか…」
俺は数時間、表に出てきたスズと話し込んだ。
やっぱりお互い反対していた。
…だけど。
弟たちの意思が固いことを俺らは知っていた。
弟たちの意思を潰す気か…俺らは。
結局俺らが折れた。
仁と涼は同じ学校へと通いだした。
俺とスズは話し合った通り、2人が順調に学校に行く間は、弟の体の中へ戻ることを決めた。
決して消えやしないけど、もう2人に声は聞こえないようにした。
2人がそれぞれ、俺ら兄貴がいなくても生きていけるように。
だけど数か月後。
仁は俺と主人格を変えることを決断した。
仁はいつまでもずっと、主人格の俺の中で眠ることを選んだ。
同じよう涼も、スズと主人格を変わり、中で一生眠ることを決意したんだとスズから聞いた。




