涼が仁に声をかけた理由
涼side
オレの両親は、可笑しかった。
父親はギャンブル依存症で、母親はアルコール中毒。
殆ど家にいて、話しかければ無視され、時には罵られ殴られ蹴られた。
オレは仁と違って、実の息子のはずなのに。
オレはそんな毎日や、可笑しい両親の元で暮らすのに、耐えられなかった。
狂った両親の元で暮らすのに恐怖を覚えた。
オレを息子と思わず、人形のように扱う両親に、いつか殺されそうだと感じたから。
…だから、殺した。
後に殺人鬼として生きるオレの、最初の事件だった。
家に金だけはあったから。
死体を処理してくれる業者を見つけて、両親の死体を処分した。
近所の人に何か言われたら、行方不明だと言っておいた。
業者を雇っても余る金を使ってオレは、生きていた。
ある雪の降る夜。
オレは1人の少年に声をかけた。
全身痣だらけで所々血が滲み、異様なほど痩せ細ったボロボロの少年。
過去のオレと重なった。
オレも両親に、まともな食事や衣服など与えられていなかったから。
全て両親の金を使って生きていた。
気づけば声をかけていた。
その容姿に、もしやと思って名前を呼ぶと、予想通りだった。
少年は、近所で虐待を受けているんじゃないかと噂されている家の息子だった。
オレは少年に、自分の連絡先とコートを与えた。
少しでも力になれるように。
オレの時は誰も、力にも味方にもなってくれなかったから。
「ありがとう」
そう少年―――田中仁は笑った。
初めて見る、他人の笑顔。
真っ直ぐで、澄んだそのふたつ目を守ろう。
オレはそう誓っていた。




