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田中仁の家庭




 僕はいつも、泣いていた。


 父さんと母さんには罵られ、殴られ、蹴られた。

 どうやら僕は、父さんと母さんの本当の子どもじゃないみたいだ。

 詳しいいきさつは知らないけど、父さんとも母さんとも血が繋がっていないことだけは確かだった。

 父さんも母さんも、本当の子どもじゃない僕を嫌っていた。


 父さんと母さんが、仕事や人間関係でストレスが溜まると、犬が使うようなケージにいれられている僕が出され、ストレス発散でもするかのように殴られ、蹴られた。

 思う存分僕を痛めつけると、父さんも母さんも再び僕をケージへといれ、固く鍵をかけて出られないようにしていた。

 トイレは犬などが使うようなシートの上でした。

 ご飯は滅多に、与えられなかった。


 でも僕が1番辛かったのは、愛されなかったこと。

 父さんも母さんも、僕を嫌った。

 毎日毎日怒鳴りながら、僕を殴って蹴って痛めつけた。

 襟元を掴まれケージに入るころには、心身共にボロボロだった。


 …愛されたかった。

 …愛してほしかった。



 ある雪が降る夜、僕は家から追い出された。

 洗われていない子ども用の服からは、臭いにおいがして、すれ違う人たちは鼻をつまみながら離れて行った。

 学校には行っていないから、誰も僕の存在なんて知らないはず…だった。



「どうした?田中仁くん」



 名前を呼ばれた時は、酷く驚いた。

 目の前に立つ、大人っぽい見知らぬお兄さん。


 …誰、だろう?

 …何故、僕を知っているの?



「初めまして田中仁くん。

オレは切間涼。

キミと一緒で、親からいじめられたんだ」


「…僕のこと、臭くないんですか」


「臭い?

ハハッ、そんなわけないじゃないか。

オレも前は同じようなにおいがしていたからね。

慣れたものだよ」



 明るくお兄さんは笑うと、僕に着ていたコートをかけ、笑ってくれた。

 そして1枚の折りたたまれた紙を渡してくれた。



「何かあったらここに電話して。

オレはキミの味方だからね」



 手を振って行ってしまったお兄さんに、僕は手を振り返した。

 初めて優しくしてくれ、味方だと言ってくれたお兄さん。

 僕はたった数分の出来事で、お兄さんを信じていた。






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