渦巻く黒き感情
「……仁?」
僕が背を預ける扉の向こうから、あの人の声が聞こえた。
僕は涙を拭わないまま、振り向き、扉を開けた。
黒い服に身を包んだ切間先輩が、泣いている僕を見て目を見開いた。
そしてポケットの中からハンカチを取り出し、僕に差し出した。
お礼を言いたくても言えなくて、僕は無言でハンカチを受け取り、止めどなく溢れる涙を拭いた。
何故切間先輩がいるのか、わからなかった。
だけど、いてくれて良かったと、心から感じた。
僕独りなら…きっと…壊れてしまっていただろうか…。
切間先輩に言われ自室へ戻った僕は、独り切間先輩のハンカチを片手に泣いていた。
その間に切間先輩が警察を呼んでくれたようで、あの花井刑事がやってきた。
大やその家族、男女3人組を殺した殺人鬼の仕業として、捜査を進めると言ってくれた。
切間先輩は自宅へ帰る途中、僕の叫び声を聞いて、悪いと思いながらも家の中に入り、泣いている僕と死んでいる家族を見つけたのだと言っていた。
「勝手には言ってすまなかった」と謝る切間先輩に、僕は無言で首を振った。
切間先輩がいてくれて、心強かったから。
僕の身近な人間を、次々と殺していく殺人鬼。
殺人鬼が犯人だと言う証拠はないけど、僕は確信していた。
必死に捜査を続ける警察をあざ笑うかのように、どんどん殺人と言う重たい罪を重ねていく。
どうして…。
どうして僕の大事な人ばかり…。
僕は決めた。
殺人鬼の正体を掴み、捕まえ、復讐してやると。
例えソレが間違った方法でも、僕の大事な人たちを殺した罪は、償ってもらわないとイケナイ―――。
僕の心の中を、どす黒い感情が渦巻いていた。




