第1話
オリジナル小説は初めて書くので少し不慣れですが、生暖かく見てもらえると嬉しいです。
別サイト、ノベルジム様にも投稿してます。
『魔獣』それは人が住む現世では存在しない異世界の生物。
現存する動物とは姿が大きく異なり、魔獣はそれそれ意思を持って弱肉強食の世界で生きている。
鋭い牙は肉を食いちぎり、爪は獲物の鱗を引き裂き、中には体に炎を纏う種族や天候すら操れる魔獣も存在するが、それらの種族でも『上位種』と呼ばれる存在には到底敵わない。
地球とは違う異世界、『アニロス』と呼ばれる地域では『運命を司るヘメリズム』が統治しており敵対勢力の魔獣を捕らえていた。
魔獣の名は『ウソを付く裏切りのヘビ』、『ココロをもてあそぶ蜘蛛』、『光の中に消えるコウモリ』の3体が捕らえられ、今宵は処刑執行日。
処刑を執行する魔獣は『上位種』であり、他の魔獣を圧倒する強さを持っており捕らえられた魔獣が勝てる存在ではない。
しかし、処刑執行まで残り僅かな所で3体の魔獣は自身が持っている能力を使い逃げ出してしまう。
敵を逃がすまいとすぐにアニロスの軍勢は動き始めるが、3体の動きは早く追い付く事が出来なかった。
逃げ出した3体の魔獣は『ゲート』へ向かって一目散に走りその入口へたどり着く。
『ゲート』は異世界と現世とを繋ぐ通路、入り口は門番に閉ざされているが3体の魔獣は各々の能力を駆使して突破する。
その時に『ウソを付く裏切りのヘビ』はゲートの鍵を持ち去っていく。
魔獣を処刑するべく『運命を司るヘメリズム』の命令により、同じく3体の処刑執行者が開放されてしまったゲートへと侵入し追いかけるが執行者達は気が付かなかった。
『光の中に消えるコウモリ』が入り口近くに隠れており、執行者達がゲートへと侵入した後に内側から鍵を掛けてしまう。
鍵がなければゲートは開放出来ず、上位種の処刑執行者も戻る事は出来ない。
ゲートの鍵は『ウソを付く裏切りのヘビ』へと渡され、6体の魔獣は異世界から現世へと降り立った。
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午前7時20分、空は雨雲で暗く太陽の光は遮られている。
公立高校に通う香木原 結は、ヨレヨレにくたびれたブレザーの制服に着替えながら慌ただしい朝を迎えた。
アイロンの掛かっていないワイシャツはシワだらけで、スカートには飲み物や食べかすのシミが所々に付いている。
襟に付けるリボンを無造作にスクールバックに突っ込み、紺色の上着に袖を通すと落書きだらけのスクールバックを右手に持って部屋を飛び出た。
2階の部屋から階段を降りてリビングへ行くと大きめの液晶テレビが朝のニュースを流している。
『降水確率は40パーセント程で傘が必要に―――』
「やっと起きたのか? 父さんはもう行くからな」
「わかってるよ。母さん、昼ごはんは~?」
父親の雅之は既にスーツに着替えており、結に朝の挨拶だけ済ませるとカバンを持ってリビングから出て行く。
結はうっとおしく感じており、父親の事より今日の昼休みに食べる自分の昼食の方が気になっている。
キッチンから結の母親、由紀恵はエプロンで濡れた両手を拭きながら呆れた声で答えた。
「アンタ、昨日お弁当箱出さなかったでしょ。どうせカバンの中に入れっぱなしなんじゃないの?」
「ウソっ!?」
結は持っていたスクールバッグのファスナーを全開にして中を覗くと、花がらの布に包まれた弁当箱が入ったままになっている。
布ごと弁当箱を掴んで食事をする大きなテーブルの上に置き、結はわかっていながら母親にもう1度に聞いた。
「うぇ~、って事は今日はないの?」
「ないに決まっているでしょ。途中のコンビニとかで買って行きなさい。それよりも早く! 志保ちゃんもう来てくれてるから!」
「まだ大丈夫だよ」
「待たせたら可愛そうでしょ。寝ぐせも付いてるし」
結の肩まで伸びた長髪は染めて赤っぽくなっており、寝起きでボサボサの髪は重力に反して変な方向へ毛先が向いている。
手グシで2、3回髪を撫でるが寝癖は直らず、すぐに諦めた結は気にもせず出発しようとリビングを出て行く。
「別にもういいよ、寝癖なんて。もう行くから」
「ちょっと待ちなさい、靴下!」
「だからいいって」
母親の静止を振りきってリビングを出た結は通路を歩き玄関へ行き、何度もかかとを踏みつけて形のなくなった革靴を履いて玄関のドアを開ける。
一軒家の香木原家の向かい側には幼なじみの宮野 志保の家が建っており、彼女は毎朝結と一緒に通学しており、この日も玄関を出た先で彼女は待っていた。
「おはよう、結ちゃん。一緒に学校行こ?」
「いつも一緒に行ってるじゃん。あと、行く途中でコンビニ寄ってくれない? 母さん今日作ってないんだよ」
「いいよ。なら早く行こ」
志保は結とは正反対の性格で、学校指定のブレザーの制服をアイロンも掛けてキッチリと来ており革靴やカバンもまだ新品のように綺麗なまま。
髪も染めておらずツヤツヤの黒髪は後ろで束ねられポニーテールにしている。
結は2人で並んで歩こうとするが志保は不意に立ち止まり結の足元を凝視した。
「結ちゃん、靴下履いてないよ」
「母さんみたいな事言うな。面倒だしいいよ」
「ダメだよ。靴ズレすると痛いし、今日は生活指導の先生が居るよ?」
「うぅっ!?わかったよ、ちょっと待ってて」
結と志保が通う学校、久美二高校では学生の風紀の指導は教師が行っている。
学生生徒会はあるが風紀委員会は廃れて何十年も前になくなり、風紀委員会が昔にあったと知っている生徒はほぼ居ない。
今では生活指導と銘打って教師が担当し、学校の入り口の校門で生徒の身だしなみを厳しくチェックしている。
結は教師にゴチャゴチャ言われるのが面倒だと感じ、志保に言われた通り靴下を履こうと家へと戻った。
///
「奇跡だ! 俺はまだ生きている。処刑執行者から逃げ切ったんだ!」
「大きな声を出すな。まだ終わった訳ではない。俺達ではゲートの鍵を破壊出来ない。せっかく逃げたのに死にたいなら別だが」
「死ぬならそのバカだけにしてくれない? ようやく擬態にも慣れてきたのに、こんな所でばれるなんて冗談じゃない」
人通りのない地下鉄の通路で3人の男女が密会をしている。
冷たい空気が漂い声が反響する中で、3人は会話を続けた。
「鍵はまだお前が持っているんだろ? だったらお前が何とかしろよ」
「自分では何も考えないバカはこれだから」
「少しうまくいったからと言って調子にのるな!」
『バカ』と言われた男は女の胸ぐらを掴み力任せに背中をコンクリートの壁に叩きつける。
爆音が響き体がぶつかったコンクリートが大きくへこみ大量のヒビが入ったが、女は表情ひとつ変えずに自身の胸ぐらを掴む男を睨んだ。
服の背中の部分を破け飛び散ったコンクリートの破片や埃で腕や髪の毛も汚れてしまう。
それでも華奢な体の何処からも血は流れておらずケガもしていない。
「はんっ! だったらアンタ1人で何とかしてみな?どうせ無理だろうけどな」
囃し立てられた男は我慢の限界を超えて本性をあらわにし始める。
口が大きく裂け体中から剛毛が生えて化け物に変わっていくが、女が視線を通路の奥へ向けると変化は止まり元の人間の姿に戻った。
「はっ!?」
変化しているのを誰にも見つかる訳にはいかず、男は息を飲んで女が見つめる先を見る。
だが男が見つめた先には何もなく、カマをかけられたと気が付いた時には胸ぐらを掴んでいた筈の女は姿を消していた。
「ぐっ! 騙したな」
「アンタが勝手に騙されただけだろう? 鍵はアタシが何とかしてやる。だからそれまで大人しく待ってろ」
男は悔しながらもこれ以上は何も出来ず、怒りの矛先をぶつけられずに居る。
残されたもう1人の男は腕を組んだまま冷静にこれからの行動を分析して、次に何をするのかを伝えていく。
「とにかく今鍵を持っているのはアイツだ。アイツに任せよう」
「でもアイツは―――」
「お前に何か出来るのか?」
「っ!?」
睨みを聞かせた腕を組む男の声に反論が出来ず、バカと言われた男は押し黙ってしまう。
地下通路に冷たい静けさが戻ったのを確認すると男は言付けを残して立ち去った。
「いいか、ゲートの鍵の事はアイツに任せろ。お前は擬態したままバレないように隠れていろ」
「わかってる!」
「よし。何もするなよ、いいな?」
この言葉を最後に男は視界から姿を消してしまう。
景色に溶け込むように、まばたきを一瞬した次には何処に立っていなのかもわからない。
1人残された男も足音を響かせながら通路の奥へと進んでいき通勤ラッシュの人混みの中へと姿をくらます。
///
学生服と同じ紺色の靴下を履いた結は革靴をズルズルと引きずりならがいつも電車に乗る駅に着いた。
通勤、通学時間帯と言う事もあり駅内は人がごった返しており、スーツ姿のサラリーマンや結達と同じような制服を着た学生が多く居る。
改札口を通る為に志保はカバンから定期入れを取り出して手に掴み、改札口に白い定期券を差し込み機械が自動で飲み込むと改札出口のバーが開いた。
歩みを止めずに改札を通り始めに入れた定期券を出口で引き抜いて、また定期券を定期入れにしまい込む。
結はスクールバッグからオレンジ色の革製の財布を取り出し、その中に閉まっている定期券を取り出し同じように改札口に定期券を差し込んだ。
毎日やっている作業なので詰まる事もなくスムーズに終わり、先に改札を通って行った志保と合流する。
「お財布買い替えたの?」
「そうだよ、ブランド物で高かったけどこの前ようやく買えたんだ。あのケチオヤジが金貸してくれたらもっと早く買えたのになぁ」
「無駄遣いしちゃダメだよぉ。前のだってまだ使えたのに」
「アレは小銭いれのチャックが壊れてたから、今変えてちょうどいいんだよ。好きな色も見つかったしさぁ~」
「もう~」
他愛のない話をしながら駅の階段の登っていく。
志保はカバンでスカートの後ろを覗かれないように隠しながら登るが結は警戒心など全くなく、大股を開いてまだ下に居る人に中が見えようとも彼女は気にせず2段飛ばしで駆け上がった。
大きく動く両足は履いているスカートを揺らし、チラリと見える隙間からは桃色の布が見え隠れする。
階段を最後まで登ればまた長い通路が伸びており、人の流れに乗り2人は目的の電車が来るホームに歩いて行く。
「結ちゃん、恥ずかしいよぉ」
「え? 何が?」
「階段、いつも言ってるでしょ?」
「志保も細かいな。パンチラぐらいいいじゃん、減るもんでもないし」
「でも女の子なんだし」
「アタシの事なんて志保がそこまで気にする必要ないって。それに――」
隣の志保に顔を向けて話していたせいで正面から向かってくる人物に気が付かず、話している途中に結は体ごと激しくぶつかった。
ぶつかってきた相手は勢いが付いており、そのまま力で押し通されて結は尻もちを付いて倒れてしまう。
「いって~~!!」
結は口から大きく声を上げてスカート越しに痛みの走る尻を右手でさすりながら立ち上がり、結を突き飛ばしていった相手に怒りをあらわにして探すが、ぶつかって来た相手は人混みの中にかき消された。
「クッソ~!! 何すんだよあのチビ、何処に行った!」
ケガをしたのではないかと志保は心配をするが、結はそれ以上に犯人に対する怒り、ストレスの方が大きい。
けれども見失ってしまった相手を血眼になって追いかける時間はなく、もうすぐ彼女達が乗る電車がホームに到着してしまう。
結は諦めながらもこの時の事を決して忘れないようにと記憶に留めておく。
「大丈夫結ちゃん!? ケガはない?」
「別にケガはしてないけどさ~。アイツの事は絶対に忘れたりなんかしない」
「どんな人か覚えてるの?」
「当たり前だろ、中学生くらいの女だった。明日また来たら捕まえてやる」
「きっと急いでたんだよ。それよりも、もうすぐ電車来ちゃうよ?」
結はぶつかって来た相手の事を根に持っており頭からその事が離れなかったが、志保の言う事に従い再び長い駅の通路を歩き始める。
成績が余り思わしくない結に遅刻や欠席が加わってしまうと留年の可能性も浮上し、さすがの彼女でもこれからの事を考えれば留年だけは避けたい。
(もうお前に小遣いは渡さないからな。金が欲しければアルバイトでもしてみせろ!)
(遊んでばかりいるから留年なんてするのよ! 少しは真面目に勉強なさい!)
テストや成績が悪いのは結が小学校の頃から両親に口やかましく言われており、それがさらにうるさくなる事を想像してしまう。
頭の中には激怒する父と母の姿が鮮明に浮かび上がり、現実になってしまった事を考えると体が身震いする。
「ううぇぇ、それだけは嫌だ!」
「ならもうちょっとだけ早く起きようよ」
「アタシに早起きなんて無理に決まってるだろ! 行くぞ志保、乗り遅れたら遅刻だぁ~」
「結ちゃん!? 待って、置いてかないでぇ!」
結は志保を置いてホームへ向かって全力で走りだし、志保もカバンを両手で落とさないようにしっかりと抱え、走って行く彼女の背中を追いかける。
この時の結は知る余地もなく、自身の体にはある変化が起こっていた。
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