〈灼熱王〉の秘密
「どうして……」
「オクトールはきみを自分のところに置くために隠していたんだ。テトゥアを返せば契約は終わるからな」
テトゥアの代わりにラウドゥーンが答えた。オクトールは鼻を鳴らした。
「騙されるな、エシオン。ラウドゥーンのでまかせだ」
〈雷帝王〉は笑った。
「オクトール、わしはある魔人との契約によって、秘密を覗くことが出来る。そなたの目を見たときのことだよ」
ラウドゥーンはテトゥアの方を見た。
「さあ、自分の口から語るのだ」
「……あたしはエシオンが町からいなくなったあと、捜しに森へ出たの。でも、追いつかなくて……暗くなったから、帰ったら、町にはもう火が点けられていた。サウハード帝国の兵隊が町の人を捕まえているのを見て、思わず前に出たの。あたしも捕まった。
オクトールはあたしを見つけると、牢屋から連れ出して召使いに変装するように言ったわ。『あんたのことを気にして捕虜から捜すことがあるかもしれない。あんたは召使いに扮して、気づかれないようにしろ』って……『他の人のようになりたくなければ――』」
「やめろ!」
「他の人?」
エシオンの問いかけに、ラウドゥーンはにっと笑った。
「なぜサウハード帝国の普通の果実が魔力を含んだ果実に切り替わったか、分かるかい? 捕虜や敗残兵の血を肥料にしていたからさ」
〈雷帝王〉の言葉に、エシオンは目の前が真っ暗になった。さっきの戦争で使っていたドレウもそうやって育てられたというのか? 自国の民を犠牲にしない代わりに、他国の民を犠牲にしてきたのだ。いくらか落ち着くと、彼は要求した。
「テトゥアを放せ! 彼女は関係ないはずだ」
「ああ、そうしよう」
ラウドゥーンはあっさりとテトゥアを放した。テトゥアはエシオンに駆け寄った。
「ごめん、エシオンが苦しんでいるのを分かっていた。でも上手く話せなくて、逆に苦しめていた」
テトゥアの言葉にエシオンは首を横に振った。違う、違うんだ。彼はすでに決断していた。エヴィレイが警戒しているのが分かる。だが、それでも言いたい。
「わたしが正直に言えば良かったんだ。わたしのこの手は魔王の手なんだ。魔人に騙されて魔王をその身に宿した。こいつがわたしを喰らっていつ魔王になるか分からない」
テトゥアは目を見開いた。彼女はエシオンの顔から魔王の手に視線を変えた。今では手首まで黄金色の鱗に覆われ、化け物じみていた。彼女はそれでも、その右手を握り締めた。その手を自らの傷ついた頬に持って行った。
「こんなに苦しかったんだんだね」
彼はそれだけで救われた気がした。
「さあ、どちらにつく?」
ラウドゥーンの問いかけに、エシオンはテトゥアから手を引いた。
「安全なところに行くんだ」
エシオンはオクトールに向き直った。
「ちょっと待てよ! ラウドゥーンの言うことを信じるのか?」
エシオンは無言で〈灼熱王〉に近づいた。オクトールは続けた。
「あんたはこの国を守らなくてはならない。もしテトゥアを引き渡したら、あんたはこの国を去っただろう。〈魔術王〉の脅威から民を守ってくれ」
エシオンは答えず、床に落ちた愛用の斧槍をかまえた。
「――仕方ないな」
オクトールは〈雷帝王〉が打ち砕いた天井の小さな瓦礫を拾い上げ、エシオンに投げつけた。
エシオンに投げられた瓦礫は魔王の手がとっさに防ぐと、瓦礫は爆発した。ラウドゥーンは目を見開いた。
「ほう、爆発か……物質内に宿る魔力を暴走させ、爆発力を生み出す。これは――」
エシオンは放心状態で、今起こった状況を見ていた。何が起こったのか分からない。
「エヴィレイ……」
〝気をつけろ。奴は、魔王の契約者だ〟




