魄と肉体
〝契約に乗ろう。魔王の復活は戦場が何より手っ取り早い〟
魔王の決断は早かった。だが、エシオンは冷静になりたかった。まだ混乱している。
「少し、考えさせてくれ」
オクトールはことりと、椅子に座った。
「まあ、いきなり言われても困るよね。いいよ。ただし、明日には答えを聞かせてよ。戦況が危うい地域があるんだ」
「分かった、約束する」
エシオンは召使いに案内され、宿泊室に通された。そこは来賓を迎えるためのものらしく、家財の至るところに金の装飾がされていた。
「ごゆっくりお休みなさい」
召使いはそういうと、宿泊室から出て行った。エシオンは寝台に横になり、息を吐いた。落ち着かない。
〝なぜすぐに決断しなかった?〟
「契約は容易にしたくないんだ。オクトールはわたしに兵器になれと言うんだ」
〝もしかして我を復活させたくないのか?〟
「復活したら、あんたはこの生命界を魔界にするつもりなんだろ?」
〝〈魔術王〉への復讐はどうなる? 契約を反故にするのか?〟
「そうは言っていない。ただ、怖いんだ。聖騎士の称号を失って久しくなった今、〈魔術王〉と手を組もうとしている今なら分かる。わたしは父のようにはなりたくなかったのだ。〈魔術師〉を否定し、聖騎士になることで自分が悪人であることを否定したかっただけなんだ。だが今わたしは父と同じ道を歩もうとしている。残酷になりたくない」
しばらく沈黙が流れた。エシオンは起き上がろうとしたが、身体が動かなかった。金縛りか?
〝恐怖にとらわれ、戦場から背を背けて、果たして〈魔術王〉に復讐できるのか? 貴様のいいなりにならずとも戦場を探し求めればいいだけの話だったのだ。いいか、覚えておけ。魄は魂以上に生命力、肉体と強く結びついている――〟
「――ゆえに身体を支配するなど容易なのだ」
エシオンは声も出なかった。いや、出せなかった。今彼の身体の支配権はエヴィレイに移ったのだ。
エヴィレイは起き上がり、宿泊室から出ると、まっすぐオクトールと会食をしていた部屋まで歩いていった。オクトールは鶏肉にかぶりついているところだった。さっきまでの雄弁な王の姿は影すらなかった。
「や、やあ……もう結論は出たのかな?」
鶏肉を置き、脂の付いた指を組みながら、平静を保って王は訊いた。
「戦おう。戦地はどこだ?」




