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依存の始まり(1)

今回は何か短い気がするなぁ・・・

・・・すいません(汗

「・・・」

昼休み。

僕の教室では過労および心臓への負担が死因の死体がひとつ出来上がっていた。

つまりは僕のことだ。

「・・・鏡夜、大丈夫?」

心配してるのかいまいちわからない無表情で僕をつんつんとつつく蒼奈。

「ありがとう、蒼奈。でも原因は八割方君にあるということを自覚しようか・・・」

うん、まぁ、なんだ。

初っ端のホームルームでさえ最悪だったというのに、おまけに授業中ですら精神的にダメージを受けるとは。

何故だか既にして思い出したくも無いような出来事の連発だった。


~1限目~

「・・・あの~蒼奈さん?」

「・・・何?」

「いや、たいした用事じゃないんだけどさ。授業中は、黒板のほうを向いててもらえるかな?僕のほうじゃなくて」

「・・・わかった」

「・・・と言いながらもまったく動く気配がないんですが?」

「・・・気にしちゃ、だめ」

「さいですか・・・」


~2限目~

「え~ではここの問題を・・・そうですね、霧白さん。解いてみてください」

「・・・」

「いや、蒼奈。せめて何か答えようよ。わからなくても」

「・・・わからない」

「いや僕にじゃなくて!」

「篠崎君。授業中は静かにしてください」

「・・・すいません」


~3限目~

「霧白さん、授業中はちゃんと前を向いてください。霧白さん!」

「・・・」

「・・・蒼奈。ちゃんと、前を向いとこうか」

「・・・うん」

「何で僕の時だけ言うことを聞くかな」

「・・・篠崎君。授業中はふざけないでください」

「なぜ僕が怒られてるのかわからないですけどすいません」


~4限目~

「ではこの問題を霧白さん、解いてみてください」

「ほら、蒼奈。あてられてるよ。わかる?」

「・・・・」

「蒼奈?」

「・・・・はっ」

「・・・もしかして、寝てた?」

「・・・(こくり)」

「おいおい・・・」


・・・疲れるのもしょうがないな、うん。

しかも午前中ずっと、なぜかクラス中からの視線の圧力を感じていたし。

誰も僕のほうを見ていなかったのに、だ。

おかげで一睡もできなかった。

無念。

「・・・で、鏡夜。もちろん、説明してくれるんだよな?」

机に倒れ付していた僕と肩を組むようにしながら佐久間が尋ねてくる。

「何を?」

「そりゃあもちろん、この子のことだよ。お前らどんな関係だ?」

なるほど、佐久間からの視線が妙に痛いと思ったのはそのせいか。

さて、どうやって誤魔化そうか。

「あ、ちなみに嘘だった場合はお前の高校生活が無残なことになるぞ?」

「具体的には?」

「お前と霧白の関係についてあることないこと言いふらす」

「すいませんでした」

僕が考えそうなことなど佐久間にはお見通しだったようだ。

とはいえ、本当のことなど言っても信じないだろう。

・・・端折るか。

「昨日いろいろあって、身寄りのない蒼奈を預かることになった」

「いやいろいろってなんだよ。いろいろって」

「・・・蒼奈は親戚で・・・」

「それは本人も否定してただろ」

「・・・魔法省が」

「何でここで魔法省が出る」

「・・・・いろいろあったんだよ」

とにかくもうお手上げだった。

嘘も真実も信じてくれないのに、僕にどうしろと。

最初から誤魔化す以外に選択肢はないじゃないか。

「まぁ、いいか。このことについてはもう俺は何も言わん」

「正直、すごく助かる」

「気にすんな。それよりも面白いことが起こるんだから」

「へ?」

なにが、と僕が佐久間に聞こうとしたとき。

「こんにちは、鏡夜君!お昼一緒に食べよっ!」

藍凪が手を振りながら教室に入ってきた。

やばい、と思ったときにはもう遅く。

すでに藍凪は目の前に来ていた。

そして蒼奈を見て不思議そうにしている。

「鏡夜君、その子は?見たことない顔だけど」

「あ~、えっと、この子は・・・」

藍凪の突然の登場に僕は言い淀む。

するとその隙を逃す佐久間ではなく。

「この子は今日転校してきた鏡夜の愛人の霧白蒼奈。ちなみに現在同棲中」

「何で誤解を招く言い方をするかな!?」

「面白くなるから?」

「そんな理由で僕の心労をこれ以上増やすような真似はやめてくれ!!」

おもちゃを見つけた子供のように無駄にキラキラした瞳の佐久間に文句をつけていると。

唐突に、どさり、という音が聞こえてきた。

思わず僕が音のしたほうを振り返ってみると。

呆然とした顔で、藍凪がお弁当を取り落としていた。

蒼奈をみて、僕を見て、そしてまた蒼奈を見る。

「さ、佐久間君。それは、本当・・・?」

心なしか体を震わせながら、恐る恐るといった様子で佐久間にたずねる。

僕は佐久間が余計なことを言う前に弁解しようと思ったが、

「おう、間違ってないぞ。こいつらは同じ家に住んでるし、蒼奈は鏡夜にべったりだ」

間に合わなかった。

藍凪が佐久間の答えを聞いてずいっと詰め寄ってくる。

僕はこっそりと一歩下がる。

「・・・鏡夜君。佐久間君が言ってること、本当なの・・・?」

「個人的には否定したいところではあるけれどあたらずとも遠からずといえるような現状です、はい」

なんというか、藍凪が怖い。

僕は蛇に睨まれた蛙よろしくただブルブルと震えることしかできない。

「霧白さんと、一緒に住んでる・・・?」

「非常に深いようでそれほどでもない理由があるわけなんですが、状況的には間違ってないです」

「霧白さんがべったりっていうのは?」

「見ての通りです」

そういって蒼奈につかまれた服を示してみせる。

藍凪の表情が曇る。

「そっか。そうなんだね。あははははは・・・・」

今度は急に遠い目をして虚ろに笑い出す藍凪。

うん、すごく怖い。

佐久間のせいでよくないことが起こるかもしれないとは思っていたが、なんだか予想の斜め上をいった気がする。

というか、大丈夫なのだろうか、藍凪は。

「・・・あきらめない。鏡夜君が霧白さんと付き合ってるとしても、チャンスはあるわ。そうよ、霧白さんより私のほうがいいって思わせればいいんだから。大丈夫、あなたならやれるわ、藍凪・・・!」

虚空を睨みながらぶつぶつと何か言っている藍凪を見て、僕は思った。

気にしないでおこう、うん。

とりあえずこの混乱に乗じて、一時的とはいえ安らかな昼休みを過ごそう。

僕は誰にも気付かれないように、そろり、そろりと弁当を持って教室を出て行こうと・・・。

「だめだよ、鏡夜君?」

逃げようとする僕の右腕を、藍凪がガシッと掴む。

「今日も一緒に、お弁当食べよ?」

「いや、藍凪さん。僕はちょっと用事があったりなかったり」

適当に理由をつけて逃げようとするが、藍凪は僕の目をジーッと見て手を離さない。

その無言の圧力に、僕は目を逸らした。

「・・・行こうか、藍凪」

「うん!」

嬉しそうに笑う藍凪を見て、僕は逃げることの無意味さを悟った。

しかも何時の間にか左側に蒼奈がいるし。

せめて巻き込んでやろうかと佐久間を探すもすでに逃げている。

何気にあいつ、危機察知能力には長けてるからなぁ。

「早く行こうよ、鏡夜君」

「・・・鏡夜、早く」

「うん、そうだね。行こうか」

ああ、今日もいい天気だなぁ。

僕はこの後起こるであろう一騒動に思いを馳せ。

清々しいくらいあっさり現実逃避を決め込むのであった。


「さて鏡夜。ここにあるのが何かわかるかね?」

放課後。

昨日とは比べ物にならないほどぐったりとしている僕に向かって、佐久間が自慢げに一枚の紙切れを見せ付けてきた。

まったく、昼は僕をおいて逃げたくせに何だというんだ。

しかも思い返せば、今日は授業中一睡もできていない。

少しは僕を労わってほしい。

「で、何これ?プール?」

佐久間が差し出してきたチケットを見ると、どうやらプールの優待券のようなものだった。

一体これがなんだというのだろうか。

「む、その顔じゃ何も知らないようだな。このチケットはあの菱丘マリンリゾートの優待券なんだぞ。お前だって名前くらい聞いたことあるだろ?」

「ああ、そういえば。たしか、噴水ショーで有名だったよね?」

前にテレビの宣伝で流れてたのを見たことがある気がする。

魔法を使った噴水ということで当時は話題沸騰。

入りたくても入れない有様だったらしい。

なんでも人が多すぎて、一定以上の人数が入ったらそこで打ち切りにしていたとか。

そのせいで何ヶ月も予約が埋まる有様だったと聞いたことがある。

「すごいね。それ、なかなか手に入らないんだろう?」

「まぁな。優待券はただ予約するよりもはるかに希少価値が高い。とはいえ、さっきの昼休みの間に入手したわけだからさして苦労はしてないが」

「いないと思ったらそれが原因だったのか・・・」

通りで姿が見えなかったはずだ。

それにしても、どうやって手に入れたのだろうか。

午後の授業はちゃんと出席していたから、本当に昼休みの間だけで手に入れたのだろう。

よくわからない凄さを見せ付けてくる奴だ。

「まぁ、楽しんでおいでよ。ついでにお土産もよろしく」

「結構図々しいよな、お前。しかも、何他人事だと思ってるんだ?」

「へ?」

「何のために俺がお前にこの話を持ち出したと思ってるんだ。お前らの分もちゃんとあるぞ」

そういって、残り三枚のチケットを取り出す。

・・・四枚もどうやって手に入れたんだよ。

ありえないだろ、普通。

「ま、あれだな。霧白の歓迎会も兼ねて一緒に行かないか?如月も誘って」

「いや、まぁ考えは悪くないんだけどさ。今五月だよ?微妙に肌寒いし」

「大丈夫、あそこは温水だ。しかもなぜかサウナまである」

本当に、なぜサウナまであるのだろうか。

温泉じゃあるまいし。

「まぁ、僕は別にかまわないんだけどさ。蒼奈はどうする?行きたい?」

僕は隣の机で事の成り行きを見守っていた蒼奈に確認を取ってみる。

「・・・ん。行きたい」

「というわけで、僕らはオーケーだよ。でも、藍凪はどうだろう。来るのかな?」

「絶対に来ると俺は思う」

「何で?」

「お前が鋭いようで鈍感だからだ」

「はぁ?」

意味がわからない。

時々佐久間はよくわからないことを言い出す。

別に僕は鋭いつもりも鈍感なつもりもないんだが。

目線で蒼奈に問いかけてみるが、逆に無表情で返されて視線を逸らした。

というか、微妙に肯定的な雰囲気だった気がする。

たぶん気のせいだろうが。

「ま、如月には一応俺が確認とっておくよ。で、ちょうど明日土曜だし、明日の十時に現地集合な。ちなみに拒否権はない」

「さいですか・・・。僕に自由って、いつ来るのかな」

「お前に自由ってあったのか?」

「真顔で返さないでよ・・・」

頼むからやめてくれ、悲しくなるから。

それにしても、この四人組でプールか。

なぜだろう、不安しか感じられない。

このプールが無事に歓迎会として終わってくれることを心から望む。

僕の平穏のためにも。

おそらくは、この願いも裏切られることになるのだろうけれど。

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