表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

〜幻精国〜回り始める車輪

「蒼き精霊」、「岩男」、「英智の花人」

ー太陽王の城で暮らしていた頃、精霊女王の三人の守護者はそれぞれこう呼ばれていた。


王の軍と共に戦場を駆けた彼らだったが、その行く先が分かれてからもう長らくたつ。

岩男はその溢れる正義感故に、王の政治手腕を嫌い城を去ったし、英智の花人はとある商人の男と恋に落ち、隣国へ嫁いでいった。ただ一人、蒼き精霊だけが女王の側に残ったのだ。


ーイエーネ、見て。王のためのお守りを作ったのよ。

ー花の香りと気がこめられているの

ー私王のことが愛しくてたまらない。だから死んで欲しくないの。人は自然に還ることができないでしょう


そしてあの惨劇をむかえる。


王の死の後、蒼き精霊も女王の元を去った。幻精族を虐げるようになった人間。彼らが絶対に踏み込めない世界という名の国を造るため。そのためにイエ=エネは人柱として長い眠りについたのだ。


ーイエーネ、大好きよ


ーごめんなさい。ああ、でも、どうか、

私を一人にしないでっ……


ーイエーネ…


ー……


ー…


ー…


ーイエ=エネ、蒼き精霊、君にアゲル


ー全てを無に還す力。

母から、父からモラッタ光。

僕が、ヒトが、想いが、穢したソレ。


ー僕に本来人格はなく、私の人格は世界の

写し絵。だから俺は現れたのさ。

目に狂気を宿らして。


ー君が決めればいい、アゲル。


ー今度こそ守ろうぞ


ークリス、私があなたを救ってみせる


ー彼はある意味では潔癖症なのです



ーエランデ、君が



* * *



「久しぶりだな、いや、おはようと言うべきか?」

「なぜお前がここにいる」


精霊女王の居城の一室、着替えようと胸元の合わせ目に手をかけたイエ=エネの後ろ、なぜか岩男がいた。


「ひでぇな。九十年ぶりの逢瀬だっていうのに。あ、照れ隠しか?素直じゃないからな、お前」


それに対し眉をよせると、顔を覗き込んだ岩男がおかしそうに笑い出す。


「大丈夫だ。ちゃんと女王の許可は得てここにいる」


許可と聞いて、一瞬まさか部屋に忍び込む許可か、と馬鹿な考えが浮かんだが、そんな訳がない。幻精国に、女王の膝下にいることを許されたということだろう。


「それはよかったな。着替えるから出て行け」


未分化者といえど、この男にだけは肌をさらしたくない。


「えー、銀の嬢ちゃんには見せたんだろ。いいじゃん、裸の付き合い!凹凸のないお前の白い肌を俺にも見せろ」


「異常性欲保持者が。言葉がおかしいぞ。付き合い……まさか脱ぐ気か」


お望みならな、と服に手をかけまた笑いだす。


「それより何の用だ?」


「ヤマト衣。着替えるのに必要だろ」


実にさらりと言われたその単語に、心臓が跳ねる。


「お前が自己犠牲という、馬鹿をやったと聞いた時にな。お前のヤマト衣のことを思い出したんだ。ちゃんとした管理が必要なんだろ?なのにお前は案の定、誰にも託さず行っちまった。ったく。で、仕方ないから俺が預かっていたんだ」


嬉しいと、珍しく素直にそう感じた。しかし、同時に混乱して眩暈がする。


「すまない、助かった。だが、だかな、そなた何故わたしが起きると?その言いようはまるで知っていたかのようだ。あのまま朽ちたかもしれないわたしだ、なのに」


「朽ちらせて、たまるかよ」



「言っとくが、俺一人じゃねえぞ。案外お前も愛されてるんだよ」




* * *


濃紺の地に映える黒、紫の花々。金色の刺繍も美しい。


「まあ綺麗!それも長襦袢と同じ衣なのですね」


銀の娘、ジルが目を輝かせて見つめる先、ヤマト衣に角帯をしめたイエ=エネがいた。


「ああ。わたしの故郷の品だ」


まあ、と声をあげさらに嬉しそうに見つめる。


「ジル殿、女王への謁見はいつ頃に?」


「それが、明日の夕暮れ時、招集がかけられることとなりました。イエ=エネ様だけでなく、幻精族全てに伝えるべき大事がおありのようで」


「そうか。ならばそれまで出かける。この国を見たい」


翼を広げ窓から飛び出した。金色に輝く鱗粉だけがその場に残される。


国中に森や川が広がっている。そして耳を澄ませば、風の音と共に同胞のざわめき。


「蒼き精霊?まあ、懐かしい」


「お、蒼さま。起きなさったか」


「イ、ネ?クオン、トイ!!」


たちまち静寂を切り裂き、ざわめきが大きくなる。獣達の足音や咆哮、揺れる木の葉まで。皆が迎え入れる。


そしてもう一つ、世界さえ切り裂きそうな一人の娘の声。


「あれが噂の蒼き精霊?本当に起きたのね。でもこれでようやく始められますわ。クリス。優しいあなたに代わって私が戦を始めてあげる」


娘は小指にはめた、赤い石の指輪に口付け微笑む。もう一つ、耳に赤と青のピアスを揺らしながら。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ