~prologe~ある男の史記
太陽王の時代、人と妖精は共生していた。自然の恵みを分け合い、美しい世界を王の治下のもと、創りあげていたのだ。それはひとえに人である太陽王と、すべての妖精の母たる精霊女王の婚姻のおかげだった。世界は平和に満ちていたのだ。
―そう、太陽王の首が落ちるまでは……。
その日は、精霊女王主催のお茶会だったと伝えられている。女官と、人間の友人、妖精を招いてのささいなものであったそうだ。
薔薇色の茶の香が庭に満ち、なごやかな雰囲気であったそれを壊したのは、あるひとつの咆哮。続く城の二階から響いた女官達の悲鳴に、女王が尋常ならざる事態を感じ取った時、草木の陰から現れたのは剣を帯びた襲撃者達だった。
薔薇の香はたちまち血のニオイに変わり、幸福な茶会は終わりを告げた。逃げ惑い、そして切り裂かれる人々。蹂躙される美しい女官、妖精。すさまじい数の襲撃者に護衛兵はたちまち敗れた。
唯一、ある強き蒼い精霊を側に従えていた女王だけは、敵をくぐり抜け、二階の王のもとへと走り去っていた。女王の心は惨劇に散った無数の命に涙しながらも、強くたくましい王に救いを求めていたのだ。
逃げる女王を追いかける大量の男達。悲鳴が城をこだまする中、女王は必死に走った。しかし、二階の王の間の扉を開け、見たものは無情にも女王の心を打ち砕くものだった。
あの咆哮は敵に向けた王の最期の、怒りと威嚇の叫びだったのだ。腰を抜かしたままの兵達と、王の亡骸を囲み首を掲げる男を見て女王はそう悟った。
……それから先は伝わっていない。女王は死んだのか、生きているのか。戦乱の時代を静めたあの強き王がなぜ討たれたのか。分かっているのは城を襲ったのは人間の逆賊であったということ。
我々が今日こうして高度な文明を誇っている裏には、そうした歴史の事実があったこと、妖精を奴隷とし、自然を破壊する先になにがあるかということを考えてほしい。
それが我々人間の責であり、これからを生き延びる術であるのだから。
我が子孫が百年のちも続くことを祈る。それと最後に、妖精や自然の恐ろしさをなめてはいけない。
N.E