始まり
努力――この言葉ほど嫌いなモノは無い。
全ては才能と環境この二つで決まる。少なからず僕はそう思っている。
例えば、貧しい家庭の子供が弁護士になれるかと親に聞いてみよう、ほとんどの親が無理だと答えるだろう。しかし、金持ちの家庭の場合どうだろう? 金をつぎ込み英才教育を施し、弁護士にしてみせるだろう。
故に僕はこの世界が嫌いだ……。
桜が咲き始める3月中旬、運動部員達が汗を流しながらひたすら部活に励んでいるグラウンドを一人の少年が校舎を背に歩いていた。その背は少し暗く運動部員とは遠目で見ても違うことがはっきりとわかるほどである
少年の名は鳴神集也、先ほどこの学校を卒業することとなったのである、退学と言う最悪の形で。
「ハァ……。ここともお別れか」
集也の溜息は学校生活が名残惜しいというものではなく、今後どうしようかと言う思いと先日起こした問題への不満だろう。
「シュウ~。おーい、シュウ~」
部活中だったのだろうか、半袖半ズボン、ハイソックスの体操服姿で少女が集也に親しく手を振りながら近づいてきた。
「姉さんか……」
「姉さんか。って酷くない!? …………ところでシュウが春休みに学校に来るなんて珍しいね。どうかしたの?」
この人は僕の姉こと鳴神紫。歳は一つ上の17歳。頭脳明晰、運動神経抜群、顔も良いと3拍子揃っている。しかも性格は明るく男女ともに好かれるというカリスマっぷりを発揮している完璧な姉だ。
今は部活中のためいつもはそのまま流しているセミロングの髪をサイドで纏めてある。
「まぁ、先日の問題で。退学処分になったんだよ」
「……え? 今なんて?」
「だから退学だよ、退学!」
「嘘?! あれはどう考えても、あいつが悪いじゃない! なんでシュウが!」
「しょうがないよ、この世の中金持ちや才能のある奴が優遇されるんだから。僕みたいな一般庶民が太刀打ちできる相手じゃなかったってことだよ」
「それでも――――」
「もう良いんだ!!」
俺は語気を荒げて言った。
それにより部活をしていた生徒達は動きを止め何事かと注目する。
「これ以上惨めにしないでくれ姉さん。生徒たちに見られてる」
「……ごめん」
姉さんが謝ってくる。
しかし、いつもは自分の怒りや憎しみと言った、負の感情を表に出すことのない僕がここまでむき出しの感情をぶつけた。
それも十数年一緒に生活していた姉に初めて自分の怒りを込めて放った言葉。
俺はすぐさま自分の愚かな言動に後悔した。
「僕こそ、ごめん。感情的になって姉さんに八つ当たりして」
俺はそのまま姉に背を向けて校門を後にした。
姉さんにあたったのは間違いだとわかっているし、自分が幼稚だったということも分かっている。それでもあたらずには居られなかった。
集也は自分に言い聞かせるようにそう心で呟き続けた。自分を守るために。
家に帰り自室のベットに突っ伏した。
携帯にバイト先の店長から一通のメールが届いていた。中身は簡潔に『クビ』その一言だけが書かれていた。
「ハァ……。これかどうしようか」
両親は海外で仕事、毎月2万の仕送りと自身がバイトで稼いでいた2万の計4万で生活をしていた。
しかしバイトがクビになったことで生活費は半減、今まで通りの生活をするのはつらいだろう。
「ハァ~……」
(…………まず寝よう)
狂いだした歯車。それは自戒の道を辿る。