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第六話 『恐ろしき師匠』

ラウルの『降臨の儀』の3日後。


誰かが家のチャイムを鳴らした。レイルはピンときた。あ(・)の(・)人だなと。


応対するためにドアの方に行ったレナアにレイルとラウルが付いて行く。

レナアがドアを開け、お待ちしておりました、と言った。


そこには、水色の髪の女性がいた。大きな黒いウィッチハットをかぶり、茶系のローブを羽織った美女だった。


「サフーリン・カラギ様。ようこそブレイクス分家へ。」


サフーリンと呼ばれた女性は、頭を下げて言う。


「こ、こちらこそよろshw…しくお願いします!」


サフーリンは、初っ端の挨拶から噛んだ。レイルは笑いそうになったのをなんとか堪える。


レナアさんが何事もなかったかのようにこっちに振り返る。さすがプロ…と言おうと思ったが、少し笑ってるのが見えて言葉が引っ込む。


「坊ちゃん方。彼女はこれから坊ちゃん方の家庭教師として魔術や座学を教授して下さる、サフーリン・カラギ先生です。挨拶してください。」


「これからよろしくお願いします。」「オンッシャアス!」


レイルは先に挨拶したラウルに続いて強豪野球部ばりの元気いっぱい挨拶をかます。


サフーリンせんせーはちょっとビクッとしながらこちらにも挨拶をした。


「は、はい。大したことない者ですが、これからお願いします!」


どうやらすごくネガティブな人のようだった。

でも、なんで魔法使い一家に魔法の家庭教師が来るのだろうか。


「サフーリン先生はな、『魔術師十一傑(まじゅつしじゅういっけつ)』の2番目の実力者なんだ。」

いつのまにか後ろにいたギャレクが説明を加える。


「『魔術師十一傑』とは?」


「国でとても優秀な魔術師たちのことだ。圧倒的な技術と魔力量、センスがないとなれないんだ。また、基本的には神助がないとなれない。」


つまり、サフーリンは相当な実力者ということだ。神助はどの神様にいただいたのだろうか。


「先生の神助はどなたなのですか?」


「わ、私は、ありがたいことに『船神(せんしん)』様からいただいております。」


船神。どのような神様なのかわからないが、先生の使う得意属性とかでわかるだろう。

そうだ、無茶振りを仕掛けよう、とレイルのイタズラ心が働く。


「先生と父様はどちらが強いのですか?」


2人は顔を見合わせる。


「そりゃ、わざわざ呼んだんだから先生に決まってるじゃないか」


「ご、ご主人様も相当な魔法使いであられますから、わかりません…。」


押すところだ、と直感が言っていた。


「じゃあ、2人で戦ってくださいよぉ。」


再度2人は顔を見合わせる。


「いきなりは失礼だろうから、もし戦うとしても明日以降にしませんか?(戦いたくない顔)」


「し、失礼なんてそんな!?別にご主人様がよろしければ今からでもできますよ!?(迷惑かけたくない顔)」


ギャレクが天を仰ぐ。

とてつもなく嫌そうな顔だが、断れない人間であるギャレクは家の中からしぶしぶ杖を持ってきた。


「場所を変えましょう。裏山にいい場所があります。」


我が家は都市部まで馬車で30分ほどだが、家は自然豊かな村の中にある。

裏山までは徒歩3分だ。


これから魔術戦を実演してくれる(させられる)ギャレクとサフーリン、戦いを見たい俺とラウルが歩いて行く。


サフーリンがつぶやく。


「いい場所ですね。緑豊かで過ごしやすそうです。」


ギャレクが尋ねる。


「どこの出身なのですか?」


「わ、私はヤマカワの出身です。きつい山と危ない自然だらけで穏やかな草原とかは見慣れていなくて…。」


「そうですか。ぜひ家庭教師の仕事中以外は自由にしてくださいね。」


「お、お言葉に甘えさせていただきますぅ…。」


***


「着きました。ここでなら周りにもあまり被害は及ばないだろう。」


着いたのは山の中腹にある平地だった。

2人は各々準備運動を始めた。


「広範囲魔法使うかもしれないから、これを張っておきなさい。」


渡されたのは煙水晶のような岩石だった。


「それを叩き割ると、防御結界ができる。それがあればまず魔法がお前たちに届くことはないだろうから、近くで見ていいぞ。」


早速叩き割って見ると、少し茶色がかったアクリル板のようなものに俺とラウルの周辺は覆われた。

それを確認して、杖を双方が構えた


「先生、勝利条件は、『一発相手に自分の魔法を当てる』でいいですか?」


「わかりました。」


「よし。じゃあラウル、号令をよろしく。」


ラウルは頷いて咳払いをする。


「構えて。」


2人が臨戦体制となり、緊張感が漂う。


「始め!!」


「氷柱!」「石壁。」

ラウルが言葉を発した刹那。2人が詠唱し、地面から生えてきた巨大な氷柱を分厚い石壁が弾いた。


その後もものすごいスピードでサフーリン先生の攻撃魔術とギャレクの防御魔術が展開される。


「氷槍!」「地盾。」 「風刃!」「木枯し。」 「水砲!」「火砲。」


ものすごい手数で攻めるサフーリンの魔術に対し、ギャレクは、冷静にレジストする。全く無駄のない動きで一定の距離を取り、隙を窺っている。


ラウルが言う。


「サフーリン先生の神助である『船神』様は、海に関する神だから、風、空、水系統が得意。一方父様の神助は『火神』だから、地、火属性が得意。父様はそれを理解して、防御にまわっているみたい。あと、これまで使っている魔術は2人とも中級魔術以下のみ。長期戦もできるように計算してる。」


そうなのか。それを一瞬で見破ったラウルの方がすごいと思うけど、やはり戦ってる2人はすごいのだろう。


ラウルが解説をしている間にも攻防は続いている。


初めてギャレクが、能動的に技を打つ。


「石鎚。」


巨大なハンマーが地面からではなく、空気中から現れた。

俺はとてもびっくりしたが、サフーリン先生は特段驚いたそぶりもなく氷の盾で受ける。


ラウルに聞く。

「兄様兄様、なんで空気中から突然出たきたんですか!?」


「魔術が壊れると空気中にその壊れた魔術分だけ霧散するんだ。それを使って作ったんだろうね。」


「そんなことできるんですか?」


「魔法を魔法でレジストした時、同じ魔力分は消滅するんだ。その特性を利用して父様は、相殺していると見せかけて少し多めの魔力を込めて先生の魔術を壊していたんだろう。壊れた時に残った分の魔力をかき集めて撃ったんだと思う。」


ラウルは本当に戦闘未経験なのだろうか。なぜすぐにわかるんだろうか。


先生が詠唱を続ける。

「竜巻!」


ゴウっという音がして、風の渦ができる。


「初めての上級魔術だ。」


先生が竜巻を放つ。そしてそれと一緒に走り出す。


ギャレクはーー「竜巻。」と唱えて撃った。こちら側にも竜巻ができる。向こう側よりかなり大きい。


2つの竜巻がぶつかり、先生のものが消え、なんと、ギャレクのものが大きくなった。

同じ魔術同士だと小さい方を大きいものが取り込むのだろう。


竜巻が竜巻を飲み込んだ瞬間、先生がギャレクの背後にいた。


「「あ。」」


俺たち2人で呟く。


「地槍!」

先生が詠唱し、地面から生えてきた槍がギャレクの体をつらぬーーかなかった。


ギャレクは、槍の穂先より高く跳んで避けていた。空中で詠唱をする。


「竜巻拡張、火災旋風。」


先程の竜巻が朱に染まり、ギャレクの杖の先ーー先生に向かう。


先生は、杖を蒼穹にむけ、詠唱した。


「これで決めます。『海鯨(かいげい)』!」


唱えた刹那。

空からバケツをひっくり返したような水が降ってきた。


バッシャーン!!と草地を濡らし、火災旋風を鎮めた。

結界の中は何事もなかった。水晶結界の凄さを思い知る。


広場には、火災旋風を大量の水で消化した証拠のように大量の湯気が漂っていた。


数分経って、湯気が消えた。

水たまりができ、消火の跡がある戦場にはーー




2人共が息を切らして座り込んでいた。

俺は2人に問いかける。


「どちらが勝ったのですか!?」


ギャレクが答えてくれる。


「俺に先生の魔法が当たったから、先生の勝ちだ。」

と着ている服を指す。それはさっきの水でずぶ濡れだった。


確か、勝利条件が『相手に自分の魔法を当てる』だったから、サフーリンの勝ちになったようだ。


こうして俺が初めて見た魔術師同士の戦いはなんとも締まらない終結を迎えたのだった。


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