キカセロ爺
はーい皆様お久しぶり大根! 貴方の舞空エコルです!
元気だった?元気だった?元気だったあ~???♪♪♪
先頃、惜しまれてこの世を去った【幽樂蝶夢雨怪異譚】
「もう二度と姿を現すことはありません」と言ったな。
あれは嘘だ。筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。
実は今回リクエストを受けて新作を書き下ろしました。
どういうリクエストだったかは、後書きに書きますね。
まずは久々の【幽樂蝶夢雨怪異譚】楽しんでたもー♪
摩天楼を飛ぶスパイダーエコルン わあ~ カッコいい♪
つい先だっての選挙期間中の話です。
今回の選挙はいささか急な決定で、告示から投票日
まで日数も短く、どの立候補者も、慌ただしい空気
の中で選挙戦を余儀なくされました。街頭演説でも
人出の多い場所には各候補の選挙カーが密集して、
ほんの数十メートル先で競合候補が張り合って声を
上げる状況も珍しくはありませんでした。
その日も私は例の座高婆が出没する映画館に、ある
名作ホラーのリバイバル特別上映を見に行きました。
『フォーガットン』…… 封切り時は、評価も客入りも
微妙でしたが、謎の異星人(?)が人間を連れ去る
ユニークな方法がマニアの心の琴線に触れたらしく
今も根強い人気の作品です。私自身はレンタル落ち
の廉価版DVDで見ましたが、確かに突っ込みどころ
は満載ながら、あの連れ去り方は本当に奇想天外で、
これなら劇場の大スクリーンで見ておくべきだった
なあと後悔していたので、今回の上映決定を知って、
いそいそと足を運びました。改めて劇場で再見する
『フォーガットン』は懐かしさも手伝い実に魅力的で、
怖くて面白くて本当に素晴らしかったです。満員の
場内は事情を弁えた常連ばかりで、特に行儀の悪い
客もいなかったので、座高婆もスマホ爺も現れず、
穏便に上映は終了、最後には拍手まで起こりました。
いやあ、映画って本当に素晴らしいものですね。
心の底から満足した私が、劇場を出て帰路に着くと、
駅前の広場で選挙演説が行われていました。保守系
のQ候補が、選挙カーの上からマイクで懸命に支持
を訴えていました。私の選挙区ではないのでQ候補
には投票できませんが、一応は支持政党の所属だし、
裏金問題で批判を浴びている渦中の人物でもあった
ので、どんなことを言っているのか、本人の言葉を
を聞いてみようと、選挙カーの傍で足を止めました。
ところがQ候補の演説を聞き始めるのとほぼ同時に、
メガフォンで騒々しい叫び声をあげながら別の候補
が、怪しい取り巻きを引き連れ、近づいてきました。
幟を振り立て、強引に聴衆を掻き分けながらQ候補
の選挙カーに近づいてくるのは、目を吊り上げ大声
で喚きたてる赤い服の女性。襷の名前から、無所属
のあの女性候補Vだとすぐに分かりました。ネット
上でQ候補と論戦というより罵り合い、いや一方的
に罵倒を続けてブロックされてしまった問題の候補。
実物は意外と美人でしたが、どうにも目つきが尋常
ではなく、近寄りがたい、禍々しい雰囲気でした。
「えrちゅいおpcvbんめrt6う8いおvbん!」
もの凄い剣幕で捲し立てますがメガフォンが大音量
で音割れしている上、やたら早口で滑舌も良くない
ので、何を言っているのか、さっぱり分かりません。
Q候補を非難するのと同時に、どうやら選挙カーを
移動させ自分に演説場所を譲れと迫っているらしい。
とにかく至近距離でやたらうるさいので、Q候補の
演説が全く聞こえなくなりました。Q候補も顔色を
変え必死に抗弁しますが、まさに焼け石に水でした。
これは、明らかに選挙妨害にあたるのではないか?
しかし、警備にあたる警察は遠巻きに眺めるだけで
制止にいきません。以前に選挙演説中の悪質な野次
を取り締まったら、逆に「言論の自由を妨げた」と
訴えられ、敗訴した例があるので及び腰のようです。
まあしかしすぐ横で怒鳴り続ける音割れメガフォン
の大音量は不快で、このままでは耳も悪くなりそう。
何よりも私はQ候補の演説が聞きたい。意を決して、
風呂キャンの悪臭も凄まじいV候補取り巻き連中の
フケだらけの頭越しに、V候補に声をかけました。
「静かにしろよ! 私は、Qさんの話が聞きたいんだ!
街頭演説の妨害は、公職選挙法違反だぞ!」
臭い取り巻きがさっと私を取り囲みました。V候補
は一瞬喚くのをやめて、ゆっくりとこちらを見ると、
まるで拳銃で狙いをつけるように私にメガフォンを
突きつけ、スイッチを入れハウリングを起こすと……
「おkhygvfhべrdすyhg456hrf!!!」
ああうるさい! しかもやはり何を言っているのか
さっぱり分からない! 取り巻きも喚き出したから
たまったものではありません。風呂キャンの臭いに
加えて何日も歯を磨いていないらしく、激烈な口臭
と汚い唾が耳障りな罵声と共に私に浴びせられます。
あまりの不快感に吐き気を催して、倒れそうでした。
さすがに見かねたQ候補の男性選挙スタッフが私を
助けようと駆け寄りましたが、V候補の取り巻きが
立ちはだかって揉み合いとなり、全然近づけません。
「こんな…… こんな人たちに負けるわけにはいかない!」
選挙カーの上からQ候補が、決然とそう叫びました。
支持者からは拍手が起こりましたが、このフレーズ
はなぜかV陣営の逆鱗に触れたらしく、メガフォン
をQ候補に向け直したV候補は、真っ赤に充血した
目を剥いて、口角泡を飛ばし、まさに般若の形相に
なって、さらなる大音声で喚き立て吠え始めました。
最早、誰にも止められない……
「bmlfrdhjfどぇhbdlfんヴぇふぇr!!!」
…… と、その刹那です。
V候補のメガフォンが、突然沈黙しました。
選挙カー上の、Q候補の声も聞こえなくなりました。
それどころか、行きかう車や、人々のさんざめきや、
環境音さえも、全く聞こえなくなりました。そして、
晴れていた午後の空が薄い雲に覆われていきました。
さすがのV候補も、その取り巻きも、選挙カー上の
Q候補も、私たち観衆も、不安になって黙りこくり、
辺りを見渡していると、シュルシュルと何やら音が
聞こえてきました。周囲ではなく上からのようです。
空を見上げると、雲の中から、けば立ったロープと
いうか太い糸のようなものが何本も降りてきていて、
その下端に、人間より少し大きい瓢箪型の何かが、
くねくねと動いていました。いや、あれは瓢箪では
なく…… 蜘蛛でした。巨大な蜘蛛たちが、天空から
糸を垂らし頭を下にして、降下してきているのです。
蜘蛛たちはV候補とその取り巻き連中それぞれの顔
の高さまで降りてきました。逆様になっていますが
皺だらけの老人の顔に、眼が左右に四つと額に一つ、
曇り空の薄日を反射してぬらぬらと光っていました。
そして、巨大な犬歯が二本生えた口を大きく開くと、
長い舌で舌なめずりしながら、掠れ声を発しました。
「キカセロヤ…… エンゼツ…… キカセロヤ…… 」
V候補も、その取り巻きも、恐怖に言葉も出ません。
巨大な人面蜘蛛は、二対の前肢で目の前のぶるぶる
震える人間の体を、意外な程優しくそっと抱きしめ、
もう一度、掠れた声でこう言いました。
「キカセナンダラ…… ツレテクデ…… ツレテクデ」
そして喉の奥からぐはあああああっという重低音と
共に透き通った何十本もの糸を吐き出し、捕縛した
人間の顔から体から全身にかけて、くまなく丁寧に
巻きつけ始めました。
「gぁぜrftgf3lkjhytbvf89!!!」
V候補も、取り巻きの連中も、恐怖の悲鳴を上げて
抵抗し泣き喚きましたが、蜘蛛は動きを止めません。
八本の肢を全て器用に使って犠牲者の体をぐるぐる
巻きにしていきました。そしてすっかり全身を包み
終わると、満足げにくるりと頭を一回転させて……
ズバコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
何ということでしょう。巨大な蜘蛛と糸に包まれた
犠牲者の体は、まるで一本釣りされる土佐のカツオ
のように、凄まじい勢いで薄曇りの上空遥か彼方へ
吸い上げられ、あっという間に消えてしまいました。
さっき見た、あの映画と同じ…… 音まで同じでした。
気がついたら空は晴れ渡り、車の音も街を行く人々
のさんざめきも聞こえていました。選挙カーの上で
Q候補は力強く演説しており、見守る人々も下品な
野次など一切飛ばさず、熱心に聞き入っていました。
しかしV候補と風呂キャンの臭い取り巻きたちは……?
私は、さっき私を助けようとしてくれていたQ候補
の選挙スタッフに近づき、話しかけました。
「あの…… V候補と取り巻きの連中は……?」
「V候補? 誰ですか、それは?」
「いや、誰ですかって、ネットでQさんの裏金疑惑を
追及し、この選挙でも、対立候補としてこの選挙区
から立候補して…… さっきもここで演説の妨害を……」
「はて? そんな候補者、いないですよ…… ほら」
スタッフはスマホの選挙アプリでこの選挙区の候補
者リストを表示してくれました…… 確かに、いない。
「それと、Qのあの件は裏金ではなく、記載ミスです。
不注意はお詫びいたします。何卒ご理解を…… 」
「それは別に疑っていませんよ。そのことではなくて、
Vという女性候補が、さっきまでここにいてですね。
蜘蛛みたいな化け物にグルグル巻きにされて…… 」
「すいません、何のお話か全く分からないんですが…… 」
「いや、だから! いたでしょ、Vさん? V候補!
保守を名乗っているのに何故かあの大国を擁護して、
やることなすこと胡散臭い、鵺みたいな…… ! 」
「いいえ、今日はずっとQが一人で演説しています」
スタッフは明らかに困惑して、警戒していました。
しかし、私の困惑はそれ以上でした。本当に意味が
分からない。この状況は、まるで……
「まるで『フォーガットン』じゃないか」
そうなのです。『フォーガットン』という映画は、
事故で死んだ息子の記憶を、母親である主人公以外
誰も、彼女の夫さえも失くしてしまっているという
不可解な状況から始まるのです。
「ふぉーが…… 何ですか?」
「『フォーガットン』だよ! 映画史に残る名作だ!」
興奮のあまり、つい評価を盛って叫んでしまいました。
周囲の聴衆が驚いて振り返り、選挙カーのQ候補も、
演説を止めてこちらを見ていました。気がついたら
車の音が聞こえなくなって、街の環境音も消えて……
晴れていた空に、うっすらと雲がかかってきました。
(こ、これは…… !?)
上からシュルシュルと音が聞こえて、目の前にあの
人面蜘蛛が降りてきました。蜘蛛は、私の顔を見て
舌なめずりすると、二対の前肢を伸ばしてきました。
「…… キカセロヤ ……」
「ひいいいいいいっ!」
連れていかれる! あまりの恐怖に絶叫しました。
そのとき背後から、誰かが私の足を払って転倒させ、
間一髪のところで、蜘蛛の長い前肢から逃れました。
獲物を逃した蜘蛛は追ってくることもなく、苦笑い
しながら糸を伝って、上空へ消えていきました。
私は気を失いました。
◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆
気がついたらまたしてもあの映画館の事務室でした。
座高婆とスマホ爺のとき助けてくれたあの常連さん
が、映画館からの帰路、選挙カーの前で人面蜘蛛に
連れて行かれそうになっている私を見て慌てて駆け
寄り、咄嗟の水面蹴りで転倒させてくれたそうです。
「…… あれは“キカセロじじい” と書いてキカセロ爺と
読ませる妖怪でな…… 聴衆が話を聞くのを妨害する
不心得者を、蜘蛛みたいに糸でぐるぐる巻きにして、
その場から問答無用に連れ去ってしまう。ずっと昔、
講釈好きの爺さんが、この界隈にあった講釈小屋で、
贔屓の講釈師の講釈を聞いていた時、隣で酔っ払い
が騒ぎ出したから怒って煙管で殴ったら、逆上した
酔っ払いに首の骨を折られて死んだ。哀れに思った
講釈師は、或る山に棲む蜘蛛系の鬼の家族に頼んで
爺さんに妖力を授け、妖怪キカセロ爺が生まれた。
以来、キカセロ爺は、今回のように演説を妨害する
野次はもちろん、寄席や芝居小屋や映画館での私語、
演奏会や演劇の余韻を台無しにするフライング気味
のブラボーなど、催しごとの静聴や鑑賞を邪魔する
馬鹿がいたら、次元を超えて文字通りその場に降臨
し、不埒な輩を、これも文字通り吊るし上げていく」
「はあ…… 」
「屋根も天井も関係ない。最近では、コンサート会場
で大声でアーティストと合唱して、アーティストの
生歌を聴きに来た観客の楽しみを奪う自意識過剰の
腐れファンもどきも、よく連れ去られている」
「しかし、どうしてあの場に居合わせた私以外の人は、
フォーガットンみたく記憶を失くしているんですか?」
「本来怪異とはそういうものなのだよ。ずっと恐怖を
覚えていたら、その先の人生が生きづらいからな」
「生きづらい…… そういうものですか」
「そうだ。例えば、今回のV候補とその取り巻きは、
もうこの世に存在しないことになっている。図書館
でもネットでも、どんなに検索しても絶対に情報は
出てこない。完全に抹消されている筈だ。あの映画
のあれは、微妙に詰めが甘かったが、キカセロ爺は
その点全くそつがない。日本のお化けはすごいよ」
「でも、私の記憶からは消えてないですよ? 」
「君は、気の毒だが座高婆を見てしまった。さらには
スマホ爺まで見ている。お化けを見る免疫がついた。
だから記憶が消しにくい。まず消えない」
「えっ? ええええええええっ!?」
「ショックかもしれないが、割り切るしかない。私も
あの劇場の常連もみんなそうだ。君も仲間になった」
「仲間って……」
「そうなるとお化けにも、君は見えていると分かる」
「見えていると分かったら、どうなるんです?」
「お化けは、頃合いを見計らい、君を始末しに来る」
「いやいやいや! ちょっと話が見えない…… なんで?
酷すぎます! 始末って…… あまりに理不尽でしょ!」
「しかし、対処法はある」
「ど、どうすれば!?」
「黙っていることだ」
「えっ?」
「或いは、馬鹿馬鹿しい絵空事の怪談をでっちあげて、
誰も真に受けないように、信じないように仕向ける」
「でも昨今、幽霊ならまだしも、お化けや妖怪は誰も
信じてはいないでしょう。もう21世紀なんだし……」
「そこは先人の努力の結果だ。君も嘘っぽく話を盛る
といい。しかし手を抜くと危ないぞ。もしかしたら
実話かもと見抜かれたら終わりだ。真面目にやれ」
「そんな…… まあ分かりました。しかし、あとひとつ
だけ、どうしても気になることが…… 」
「まだあるのか? しょうがないな、ひとつだけだぞ」
「キカセロ爺に連れ去られて人々の記憶からも消えた
V候補やその取り巻き、それ以外にもキカセロ爺に
連れ去られた人々は、一体その後どうなるんです?
地獄に落とされ閻魔様の審判でも受けるんですか?」
「何を非科学的なことを言ってるんだ。地獄なぞない」
「いや、非科学的っていうならキカセロ爺も大概…… 」
「最近、この辺りで、熊が里に下りてくるニュースを
聞いたかね?」
「何ですか、藪から棒に?」
「熊が里に出没するニュースだ。少し前までは大騒ぎ
だったが、最近はどうだい?」
「言われてみれば、ほぼ聞かなくなりましたね」
「熊も馬鹿ではない。山に十分に食べ物があるならば、
わざわざ危険を冒してまで、里には下りてこない」
「え…… ではキカセロ爺に連れ去られた人たちは …… ? 」
「危なかったな。君も熊の餌になるところだったぞ」
「そ、そういうものなんですか?」
「地域によっては、鮫や雀蜂の餌食になるらしい」
「うわあ…… 」
「これからも、マナーとルールは守らないとな」
「ですねえ」
如何でしたか?【幽樂蝶夢雨怪異譚】久しぶりの新作!
これはこのシリーズの元ネタとなった例のラジオ番組
のディレクターさんから戴いたリクエストに基づいて
書きました。先日の衆院選で某保守系候補の街頭演説
を露骨に妨害した例のあの女性候補の非道な振る舞い
に憤激したディレクターから「あの女が地獄に落ちる
正義の物語キボンヌ」とLINEが届いたのでした。私は
生来のノンポリだから政治思想で他人をあれやこれや
しません(しませんよ)が一方でマナーやデリカシー
は何よりも大切と考えているイギリスは兵庫県出身の
ローカル紳士なので、確かにあれはいかんよねと共感
してこのお話を勢いで二晩ほどで書き上げたのでした。
しかし、選挙期間中に投稿したらいろいろ問題もある
まじろと自重して先に大好評?戦国マンを書いて投稿、
この久しブリキの太鼓の幽樂蝶は、自民党が大勝して
もう頃合的にも大丈夫かなと思える今のタイミングで
投稿する所存です。政治的なスタンスも偏重もなくて
どこまでもTPOのお話に特化したつもりですが、そう
読めなかったらあんたの読解力に問題があるんだとか
そういう失礼なことは絶対に言いませんので生ぬるく
微苦笑しながら読んでくださいね。あらあらかしこ。
あと皆さん『フォーガットン』は本当に面白いから
未見の人は是非とも見てください。こんなタイトル
だけどガチ忘れがたい映画ですよ(いろんな意味で)
ズバコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!




