扉ラビット
ウサギも好き♡
いま存るフィールドに
うまくテントをはれなかったり
めぼしい宝物がありそうもなかったり
にぎやかなイベントさえ起こりそうもなかったら
丈のみじかい草原に別れをつげて
新しい世界へとゆこう
くるくるまわるかざみどりのような
矢印にしたがってもたどり着けないけど
物陰を走るわずかな気配を感じたら
そのあとを追ってみよう
ぴょんぴょんとびはねる
そのちいさくてふわふわな からだをみつけたら
ながい つばさのような耳か
可愛いおしりをころがりそうなしっぽか
どっちでも好きなほうに目も心も奪われつつ
そのあとを追っていけばいいんだ
そうしてどれくらい歩いただろう?
こんなところまで連れてこられて なんて
知らない景色をみまわしてみると
はじめてこちらをふりかえったウサギの
うしろにあるのは赤い扉
シンプルだけど小洒落たつくりで
壁に はまっているでもなく
ただ扉だけがすっくと立っている
見あげるウサギを見下ろしながら
扉に手をかけたけど
鍵がかかっているのか ひらくことはなかった
鍵がかかっているのに どうしてぼくを
扉のまえに連れてきたんだい? って
ウサギに問い詰めるような視線を送れば
ウサギは不思議そうに首をかしげる
ぼくはひとめぐり頭をひねらせたあと
あぁ そうか
鍵ならちゃんとここにあるじゃないかと
ウサギをやさしくだきあげて
もういちど 扉に手をかけた
こんどは扉はあっけなくひらいて
案内役だけではなくて鍵でもあったウサギは
ぼくのうでからとびおりて
ひとあしさきに扉のむこうの新しい世界へと
ぴょんぴょんはねながら消えていった
ありがとうで ひとまずさよなら
ウサギにそう告げたぼくも
扉のむこうへと足を踏み入れる
もしこのつぎのフィールドでも
満足できなくなる日がきたら
ひょっとしたら
おなじウサギではないのかもしれないけれど
ちいさくてふわふわな案内役は
こんどは青い扉の鍵をぼくにくれるために
また現れるだろう
それまではぼくはこの新しい世界を楽しむとするし
ここにうまくテントをはれて
そのまま暮らしてゆくことを選んだのなら
誘いかけるようなウサギの気配にも
知らんぷりして晩御飯に
カレーライスをつくりはじめるかもしれない
でもまあそんなことはまださきのこと
さきのことなんて だれにも
ぼくにもウサギにだってわからない
だから とりあえず
この新しい世界でのぼくをはじめよう
そして いざとなったら
ウサギはきっとどこかにいて
ぼくをまた新しい世界につれてってくれることを
忘れないでいよう
たんなる扉の鍵なんかじゃくて
やさしくだきあげたときのウサギの あの愛らしさを
けっして忘れないでいよう
ありがとうで ひとまずさよなら
ひょっとしたら……またね
小説の設定考えてたときの副産物の詩です。