恋多き男もいいものかな…それは苦しむ回数の多いことを表す。
妻とつまらないことでケンカをしてしまった。
もう寝よう。
そしてタブレットを舐める。
意識が薄くなる。
――――
俺はワンルームマンションにいた。
一人酒を飲んでいる。
そして引き出しからケースを取り出す。
中には指輪が5本。
これは結婚指輪か?
指輪の一つ一つが、まるで“過去の自分の断片”を閉じ込めた小さな檻のように見えた。
俺は男に触る。
男の記憶が流れ込んでくる。
俺は知らない女性と恋をして
結婚式を挙げる。
3か月後離婚
そしてその1年後に結婚
次は半年後に離婚
また1年後に結婚
次は1か月後に離婚
3年後に結婚
それから2年後に離婚
そして3年後に結婚
そして1年で離婚
この期間になんと5回も結婚と離婚を繰り返していた。
なんでこんな事をしていたんだろう―――
俺は少し気になった。
「だってさー。夢もなにもなければ、恋愛しかねーじゃんか」
そう言った。
どうも…
俺の考えにシンクロして、呟いたようだった。
そうか…
夢がなかったか。
そういえばこれまでにあった俺は
すべて夢に向かってやっていた。
でも今回は…
そうじゃないのか。
なんで夢がなかったのか――――
「そりゃあれだよ。
他の夢を全部…無理だろって諦めたんだよ。
そして安全パイで大企業に入った。
大企業だからなー割とモテるんだよ」
そうかー。
しかしなんでそんなに結婚と離婚を繰り返したんだ。
「そんなの。あいつらが悪いに決まっているだろう」
と急に怒り出した。
その時の映像が俺の心に流れ込んでくる。
・ケンカのときに語尾が強かった
・俺の母親を「ちょっと苦手かも」と言った
・冷蔵庫の整理整頓が苦手だった
・LINEの返信が遅かった
・夕飯の献立が4日連続で“茶色”だった
はっ?こんなことで離婚したの―――
こいつ―
ってか俺だけど…
一つ一つの事柄が
自分的には離婚するほどのことではなかった。
そうか…。
これ
俺は妻との関係で
こんなことでは別れなんてありえない。
というのが常識だが
こっちの
俺はこれでも別れがあり得るんだ。
どういうことだろうか?
相性みたいなもので。
許せる許せないがあるのだろうか。
しかしこんな些細なことで、愛を切り捨てられる人間が――俺だったとは
ショックだった。
俺はこの場を去ることにした。
―――――――
目覚めると
部屋の隅で妻が暗そうな顔をしている。
後ろから抱きしめる。
「さっきはごめんね」
妻も
「わたしもごめん」
そうこうやって仲直りすればいいんだ。
俺はそう思った。
俺は今、ようやく“愛されていた”ことに気づけたのかもしれない。