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俺の会社なのに――俺の魂はこもっていない


通勤途中に前の男が新聞を読んでいた。

株式欄が目にとまる。

そういえば

起業を目指したこともあったな。

結局怖くなってやめたけど


あれ――

やってればどうなったのか。


―――――――――


帰宅し


いつものルーティン


そしてまたタブレットを舐める。


気が付くと、高級そうなマンションの中にいた。

外にでてエレベーターを確認する。


どうやらここは最上階のようだ。


だだっ広い部屋には

いくつかのソファとミニバーがあった。

JAZZがかかっている。

はげしいドラムと繰り返すピアノのメロディ


男は無精ひげ

憑かれたような生気のない表情で

ソファにぐったり座っている。


広い部屋は少し寒気がした。

男の孤独感を表しているかのようだった。


俺は男の顔を覗き込む。

やはりこれは俺なのか――

外観からすると成功したようだが

いったいなにがあったのか。


俺は男に触れる。

男の記憶が流れ込んでくる。



俺は大学時代の友人3人で起業した。

「自分の信じた技術で社会を良くする」

という理想に燃えていた。



会社は徐々に大きくなっていく。

しかし大手資本が参入してきて会社存続のピンチに…

友人たちと話し合った結果


資金調達のためにベンチャーキャピタルを入れることに。

株式が徐々に分散し、支配権が薄れていく。


その後も何度か資金調達を行い、ようやく大手資本を出し抜いた。


そして友人たちと夢をみた上場を果たす。


一気に俺たちは大金持ちの仲間入りを果たした。

億ションを買い

高級車を買い

インテリアはすべてイタリア製の高級家具で揃えた。


しかし華やかな生活とは真逆に

俺の心には薄暗いモヤがかかり始めた。


創業メンバーたちは株を売り払い

一人また一人と去っていった。


かろうじて守られていた支配権は

見る影もなかった。


会社の業績は十分によかったが…

ベンチャーキャピタルの意向で

ビジョンと違う方向に舵を切らざるを得なくなった。


上場の瞬間が

経営者としての自分の終わりだった。


俺は会長になり

プロ社長が就任した。


俺の会社に残したニオイは

少しずつ消されていく。


俺たちの記憶や思い出は

もうこの会社にはなかったのだ。


中核の技術はかろうじて残った。

しかし

それすら

先週なくなった。


定期報告に来ていた。

プロ社長は

1週間前

もうそろそろ去られては―――

そう冷酷に言い放った。


そして…

それ以来連絡は来なくなった。


会社に連絡すると

「アポイントは取られていますか?」

そう訊ねられた。


会長――――


もうそれは肩書ですらなかったのかもしれない。


俺は涙を流すでもなく…

ただぼーっとしていた。



俺は逃げるように

その場を離れた。



―――――――――

目覚めると

隣でじーっと妻が見ていた。


「だいじょうぶ。ずいぶんうなされていたから…」

そう言った。


その心配そうだが、

柔らかな表情に張り詰めた緊張は一気に溶けた。


「あーだいじょうぶ。ありがとう。愛してる」

俺はそういい妻を抱きしめた。


すこし驚いていたが…

なんだか嬉しそうだった。



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