俺は旅人の人生を選んだのか…それとも
会社のある駅に着く。
駅はたくさんの人がいた。
ぼんやりとしながら
会社へのみちのりを
とぼとぼ歩く。
ミュージシャン 研究者
その二つの世界線に俺は出会った。
言葉では表現できないような感情が溢れた。
胸の奥がグッと掴まれるような感覚になった。
ふと大きな荷物を持ったバイクがそばを通りぬけた。
あー旅人か。バイクで旅をしているんだなー。
俺はそう感じた。
実は俺も数か月旅をしていたことがあるからだ。
そうかー。あの当時理由があり、旅をやめたけど…
続けるという選択肢もあったんだ。
―――――――――――
家に帰る。
いつものように笑顔で迎えてくれる。
どんなに疲れていても
彼女の笑顔があれば乗り越えれる
いままで何度もそう思った。
今日はしょうが焼きだった。
定番料理だが―
彼女の作るしょうがやきはひと味違う。
肉が薄めなのだ。
通常はしょうがやきというと
少々厚めの肉を使うが
彼女はしゃぶしゃぶ用の肉を使う
これがたれと絡んでバツグンにうまい。
妻の作る食事はどれもオイシイ。
俺は好き嫌いが多かった。
だから食べれるモノが少なかった。
妻は俺の好物だけを作る。
身体のことも考えて
しかもおいしく。
昔に一度だけ入院してことがあった。
そこで妻の料理のウマさを確信した。
そしてルーティンのように
たわいのない会話をし
風呂に入り
そして眠りにつく。
―――――――――――
そうして俺はまたタブレットをなめる
…
すーっと意識が消える―――
…
俺は広い家にいた。
そこには車いす姿の男がいた。
あれは俺なのか――
またミュージシャン、研究者の俺とは違う表情をしていた。
どこか柔らかい表情ではあるが…
どこか
いらだちを感じているかのようだった。
男の記憶が入り込んでくる。
俺はあのあと…
すぐにまた旅にでる。
その後
半年間旅を続け―
交通事故を起こし
車いす生活になった。
俺は不幸を嘆いたが
暇つぶしで書いた
自叙伝的小説が
コンテストで大賞を取り
そこから作家生活が始まった。
調度品を見る限り
金周りもよさそうだ。
家にはお手伝いさんがいた。
料理も上手そう。
なに一つ不自由はないようだ。
そして夜になり
俺は酒を飲んでいる。
銘柄をみると高級なブランデーだった。
憧れはあったが
一度も飲んだことはない。
ふと顔を見ると
涙ぐんでいる。
足を何度も何度も叩いている。
俺は旅に出た理由を思い出した。
もっと世界を見たかったからだ。
そしてそれは旅で実現した。
しかし道まだ途中
事故というくさびで
無残にも
夢は
断ち切られたのだ。
作家という仕事は
俺に新しい世界を与えてくれた。
しかし目の前にいる俺は
実際に世界に直接触れて
感じたいのだろう。
その悔しさが伝わってくる。
俺は口を開く。
「俺は金も持った。でも今は自由なんかじゃねー」
その言葉に
俺はもう彼の姿を見る事はできなかった。