ミュージシャン
高校2年の頃―
バンドに誘われた。
中間テストの打ち上げでカラオケに行き
好きなアーティストの曲を歌っていたら
あんまり付き合いのなかったヤンキーに
「俺とバンドしねーか。お前となら天下取れる気がする」
と口説かれた。
「いまなら天下ってワロス」
とか言ってしまいそうだが…
その当時はいたって純粋。
俺もなんだかそんな気がした。
あいつはどうしているだろう。
ふとそんな事を思い出した。
――――――――
気が付くと
俺は鏡張りの部屋にいた。
どこだ…
男がメイクをしてもらってる。
あれ?これは俺か…
俺の存在には誰も気が付いていない。
あーそうか。。。
これが別の世界線なのか…
あのタブレットは本当に効くんだ。
これは楽屋か?
3人の男が鏡を前にメイクをしてもらっている。
みんな知らない男だ。
一度外にでてみよう。
あれ?
ドアに触れない。
そうか…
霊体だからか。
もしかして…
あっ!
壁をすーっと通り抜けできる。
外にでてみると
知らないバンド名が書かれてある。
楽屋の方から揉める声がする。
「音楽性が違いすぎる。もう止めよう」
「ちょっと待ってくれ。せっかく一緒にここまで来たじゃないか」
と俺が止めている。
「もういい加減…いいんじゃないか。今回のツアーが終わったら解散で」
「本気なのか?」
ケンカでも始まりそうな雰囲気だった。
「すみません…。
そろそろお時間なんで
皆さん会場まで来てください」
スタッフらしき男が楽屋に入ってきた。
「まぁいい。
これはファンたちには関係ねー話だ。
気持ちきりかえっぞ」
「おー」
3人はスタッフを引き連れ
会場に向かう。
――――――
ワ――――
会場は満員だった。
あまりにもの熱狂に息をするのを
忘れる。
なんだこのステージは…
大きすぎて圧倒される。
俺はこんなところでバンドをやっているのか?
いったい俺になにがあった。
ふと誰かの声が聞こえてきた。
周りは観客の熱狂に包まれている。
「あーこの人生で本当によかったのかな」
そう聞こえてきた。
これは…
そうかー
ミュージシャンをやっている俺の言葉なのか。
そして彼の…
いやこの世界線の自分の過去が流れ込んでくる。
高校2年でバンドに目覚めた俺は
高校を卒業し本格的にバンド活動を始めた。
メンバーは同じ。
バイトをしながらだが
楽しそうだった。
事態が変わるのは
俺が作った歌が某音楽Pの目に留まってから
そこから一気にメジャーデビューが決まる。
知名度はあがり
ライブは満員
お金も沢山はいってきた。
おかしくなったのは
俺をバンドに誘った友人が
あれに手をだしたこと。
もともと刹那的な奴だったが
バンドの知名度が上がるにつれ
俺と自分を比較しだし
結果的に一時の快楽に溺れた。
このことは雑誌記者の知ることとなり
彼はバンドから離脱。
そのタイミングで他のメンバーも切られ
俺だけ
別のメンバーと組まされ
新しいバンドでデビューした。
それから順風満帆な人生が始まる。
リリースする楽曲全てが売れ。
一躍時の人となった。
そしてあの憧れだった舞台で
今演奏をしている。
これが俺の第2の人生か…
――――――――――――
「あなた…あなた…」
気が付けば妻が目の前にいた。
寝ぼけている俺を見て
クスクス―笑っている。
なんだカワイイな。
あーそうか。あれは夢だったのか。
あのタブレット…
本当に効くのかもしれない。