毎日同じ作業を繰り返すだけのルーティン
「俺の人生…こんなんでよかったのかな…」
そう俺はつぶやいた。
俺は38歳 中堅企業の会社員 妻と二人暮らし
俺の人生は平凡だった。
毎日同じ作業を繰り返すだけのルーティン
いずれ誰かに置き換わるのだろうと
思ってはいるがその気配はない。
俺はデスクから缶コーヒーを取り出す。
バシュ
いつも聞きなれた音
会社員になって何回この音を聞いたことだろう。
俺は生ぬるいコーヒーを飲みながら
窓際に近づく。
「外回りは楽しいのかな」
缶コーヒーはディスカウントストアで1缶68円
ケース買いしデスクにストックしている。
缶コーヒーの銘柄にはこだわらない。
ただ甘く、ミルクが入っており、安ければそれでいい。
ただしメジャーなメーカーのものを
それが俺の唯一のこだわりだった。
ふとスマホを見る。
妻からメッセージが届いている。
「今日は同窓会の日なので、少し遅くなります。
晩ご飯は会社の帰りに済ませてきて」
そうか…
たしか先週言っていたな。
しかし…何を食べようか。
俺は財布を確認する。5800円か…
俺は以前にもらったバーのクーポン券の事を思い出した。
たしかデスクの引き出しにあった気が…。
「あった」
380円のチャージ料がただになり、かつおつまみ300円分が貰えるという
太っ腹のクーポン券だった。
ワンドリンクなら500円か…
ワンドリンクだけ飲んで帰ろう。
俺はそう思った。
―――――――――
仕事帰り
俺はバーに向かう。
こじんまりとしたバーだが
雰囲気は悪くはない。
カウンター席に座る。
隣にはハットにスーツ姿の男がいた。
クーポン券を出すと
おつまみにピーナッツが出てきた。
俺は缶ビールを注文する。
プシュッ
ゴクゴクゴク
ふゎー
「やはり美味いな」
思わず笑みがこぼれる。
隣の男と目が合う。
お互いに会釈する。
ピーナッツを食べながらビールを飲む。
ピーナッツ…
そういえば
ピーナッツが原因で世の中がおかしくなっていくという
ヘンな切り口のディストピア小説があったな。
タイトルなんだっだだろう?
しばらく考えたが思い出せない。
まっいっか――――
ピーナッツは皮つきでほくほくしていた。
バターピーナッツもいいが
皮つきは柔らかいし甘みがある。
あービールが空だ。
もう出ようかとすると
男がクーポン券の欄外を指さす
※但し1000円以上ご飲食された方に限る
と書かれてある。
思わず苦笑い
男が耳打ちする。
「私もなんですよ」
とクーポン券を見せてきた。
なるほど
それから男と
しばし話すこととなった。
「すみません。同じものをもう1本」
俺は缶ビールを注文する
男とは
小一時間ほど話をした。
たんなる世間話だ。
「俺の人生…こんなんでよかったのかな…」
と今日思ったことを思わず口にしていた。
すると男は
にやっと笑い
「なるほど。なるほど。
じゃあ…このタブレットを差し上げましょう。
これは選ばなかった可能性を
知ることができる不思議なタブレット。
霊体になり、
もう一つの可能性の世界線に飛ぶことができます。
そして気に入った世界線があれば
また1つ舐めて、
その世界線を思い浮かべれば
そこで人生は固定化します。
10個ございますので
9つの人生を見て
じっくり考え
選べばいいでしょう。
いーえお代はいりません。
それではお楽しみを…」
そういうなり、男は帰っていった。
不思議な男だった。
バーの薄暗い照明のせいか
男の顔はよく認識できなかった。
整った顔立ちなのは間違いないのだが…
どこかこの世のものではないような。
そんな雰囲気があった。
2本も飲んだし、酔っているのだろう―――
まぁしかし
ただでもらったのだから…
ラッキーだ。
俺は家に帰って試してみることにした。
―――――――――
すこし小腹が空いたので
コンビニでおにぎりを買う事にした。
そして家に着く。
会社から30分
駅から15分のマンションだ。
「ただいま」
「おかえり」
一人で言う。
妻はまだ帰ってなかった。
コップに水を入れ
おにぎりを食べる。
服を着替え
顔を洗い歯を磨く。
「あーヒマだ」
スマホを見るとメッセージが
「二次会があるので少し遅くなる」
との事だった。
まだかかりそうなのと
酒も入っていることもあって
俺は迷わずタブレットを舐めることにする。
形状はトローチのような形をしている。
味もどことなくトローチのようだった。
舐めて5分ほどたった
意識がすーっと消える…
俺は騙されたのか?