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「申し遅れましたが、私はセーラ・シトルリン。お存じのようだけど改めて自己紹介させていただきます」


 礼儀正しく挨拶をされて、私はしばらく茫然とした。

 見かねたアンナが私に耳打ちをする。

 身分上の令嬢が自己紹介して挨拶したのであれば、すぐに自分も自己紹介しかえさなければならない。基礎中の基礎の挨拶すら失念してしまうなど。


「わ、私はマリー・グレイルと申します」

「確か亡きグレイル男爵のご令嬢ね」

「はい、そうです」


 貴族の末端だというのにすぐに出てくるなどさすが公爵令嬢である。

 あれ、さすが?


 今の感想に首を傾げる。どうやらマリーの感覚と同化してしまっているようだ。マリーだったらそう感じるのだろう。


「色々と無作法なところをお見せして申し訳ありませ……」

「そうねぇ。点数としては20点ね」


 突然の数字に私は困惑した。


「あの、今の数字は」

「ああ、ごめんなさい。私、入学する前は礼儀作法の先生をさせてもらっていたのでつい点数づけしてしまいましたわ」


 そう。セーラは同年代だというのに、既に完璧な所作で多くの貴族令嬢から礼儀作法を教えて欲しいと請われて定期的に礼儀作法の授業をしている。小説内でも彼女のサロンは貴族令嬢の作法を学ぶ場となっており、多くの女学生たちが参加したがっていた。

 招待されたマリーはうきうきで参加したが、あまりのダメ出しの連続で恥をかかされて泣きながら帰宅する日々であった。それが何度も繰り返されるうちに一部の令嬢たちが「やりすぎでは」と気の毒に感じ助け船を出し、マリーは彼女たちの協力のもと礼儀作法を少しずつ学んでいき交流を深めていくのだ。


 まさか、もうダメ出しが始まってしまうなど。


「確かにグレイル夫人は忙しい方のようで……おうちでは代わりに指導してくれる方は」

「は、恥ずかしながら家計の問題で家庭教師を雇えず、母が休日にみてくれるだけで」

「そういうことね」


 セーラは納得した。


「マリー嬢、あなたまずいですわよ」

「ま、まずい?」

「この学園には礼儀作法は十分身に着けた前提の令息・令嬢たちが集う学園……あなたは貴族枠で入学したのでしょう?」

「はい、その通りです」

「確かに特待生の平民もいますが、彼らはそれらを凌駕する才能を持っている為作法は二の次です。あなたは特待生程の才能はなく、貴族の基本の礼儀作法すら身についていない。このままでは……」

「いじめられますかっ?」


 思わず身構える。


「いじめはわかりませんが、他の学生たちから相手にされません。国王陛下は貴族にも平民にも平等の機会を与えたいと学問の場を整えてくださっていますが……貴族はなんだかんだでプライドが高い生き物です。自分の相手にする必要ない者と見なせばとことん無視する傾向が根強く残っている。その中で、あなたは……」


 後ろ盾はなく、学力は並み、礼儀作法はそこいらの貴族がみても呆れるレベル。


「学園内で浮いてしまいます」


 否定はできない。小説を読む立場であった時は「何でこんな意地悪するの!」とマリーの置かれた立場に憤慨したものだ。だが、今の自分の立場を考えると自分はこの学園にいることすら烏滸がましい存在と見なされてしまう。


「わ、私……」


 では、せめて礼儀作法だけでも身に着ける必要があるが、母は家計の為に連日色んな家に駆けずり回って仕事をしている。一人でやろうにも今までできなかったことを今更どうすれば。


「ですので……これから、放課後はこの部屋を訪れてください」


 セーラの提案ではこうだ。

 1時間だけ時間をあけるので、ここで礼儀作法の勉強をみてくれるという。


「そんな……でも、放課後はセーラ嬢のサロンが」

「サロンはしばらくおあずけです。さすがに私のサロンメンバー第一号がこれでは周りにしめしがつきませんので」


 サロンメンバー第一号?


 私は目をぱちくりさせながら自分に指をさした。


「ええ、急な出来事で部屋に入れてしまった以上、周りのものはあなたは私のサロンメンバーであるとみなすでしょう。ですから、私は招待した責任としてあなたを鍛えます」


 そんなこと頼んだ覚えはない。

 私は青ざめた。

 悪役令嬢の元で教育を受けるなど。どんな目に遭うか。


「い、いじめ」

「まだ言っている。余程、幼少時に酷いことがあったのね」


 震える私をみてセーラはため息をつきながらぽつりとつぶやいた。


「まぁ、試しに3日は通ってみなさい。どうしてもいやだというのであれば、他のサロンを紹介いたしますわ」


 他のサロン。

 セーラ嬢と同じく人気のサロンを持つ令嬢か、それとも令息の元か。

 その中にアントワーヌがいるかもしれない。


「あ、アントワーヌ様のサロンもあるのでしょうか」


 気になってつい質問してしまう。


「あるにはありますが……今のあなたを紹介するなどできません」


 それはそうだ。

 王子様の婚約者が今知り合ったばかりの男爵家の令嬢に紹介するはずがない。


「あなた、殿下に」

「い、いえっ。少し気になっただけです。王族のサロンはどんな感じなのかなと」

「……そうね。今日から頑張りましょう」


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