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 入学式を済ませて私は教室へと向かっていた。

 ここで、マリーはアントワーヌとフラグをたてる。

 慌てて教室へと向かっているとアントワーヌとぶつかって、彼に名前をおぼえてもらうのだ。

 貴族にしてはちょっと天然なマリーを珍しく感じアントワーヌに気に入られる。


「よしよし、推しに出会うために小走りにと」


 頭の中で何度もアントワーヌとの初対面の会話を脳内再生させて、いつでも準備万端。


 ばん。


「っぶ」


 あまりに夢中になっていて私は柱に気づかず思いっきり体当たりしてしまった。


「まぁ、くすくす」

「みっともない」


 みかけた女学生たちの笑いが聞こえてくる。


 しまった。アントワーヌは。


 鼻を押さえながら推しの姿を追いかける。彼は周りの学生たちと同じく何事かとマリーの方を見つめていた。

 あとほんの数歩で彼とのイベントだったのに。

 私のバカ。ごめんね、マリー。

 せっかくのイベントを台無しにしつつも彼に興味をもたれようと接近を試みた。


「どうぞ」


 目の前に差し出されたのは綺麗な手、綺麗なレースのハンカチーフであった。

 アントワーヌとのイベント!

 そう思いワクテカしてしまったが、その手の持ち主は女性のもの。

 ハンカチーフを差し出してくれたのはふわふわとした質感の金髪の美少女であった。


「あ、セーラ・シトルリン」


 私は思い至った名を口にした。


「まぁ、セーラ嬢を呼び捨て?」

「何て図々しいのかしら」


 女学生たちが眉をひそめた。

 しまった。思わず口に出してしまった無礼な発言。


 目の前にいる少女・セーラは、シトルリン公爵家の令嬢。母親は王族の出である。アントワーヌとは従兄妹で、いずれは妃になると言われている。この学園の貴族層のカリスマ的令嬢なのだ。

 そして、小説内ではアントワーヌと良い雰囲気になったマリーに嫉妬して数々の嫌がらせをする。

 嫌がらせの内容を思い出してぞっとした。物語内であれば、マリーを応援する読者の立場である。だが、いざ自分がそれを受けるとなると耐えられるだろうか。

 小学生の頃、下駄箱の上履きを隠されゴミ箱に捨てられたことが未だにトラウマの私が……。


「ご、ごめんなさっ……!」


 いじめられてしまう。


 私は思わず頭を押さえて防御の姿勢をとった。

 気づいたらあたりは静かになっていた。


「頭をおあげなさい」


 セーラはそういうが、私はなかなか頭をあげれない。

 肩に触れられ、顔をあげさせられた。


「折角の制服が汚れてしまいました。替えは持っていますの?」


 そういいながらセーラは私の鼻を優しくハンカチーフで抑えた。

 確認してみると私の鼻から血が出ていて、床にぼたぼたと落ちていたようだ。制服にも血がついていた。


「いえ……」

「そのままだとしみになってしまいます。ひとまず、休憩室へ行きましょう」


 手を握られ、彼女に案内される。

 よくみると周りに人はいなかった。


「あの、他の人は」

「教室に行かせました。私とあなたは遅れると言付けを頼みましたので大丈夫ですよ」


 休憩室にたどり着いた。ここは一部の王族、貴族の子息令嬢の為に用意された部屋で。時にはサロンの場にもなる場所であった。

 どうやらここはセーラの為に用意された休憩室のようだ。


「アンナ、替えの制服をだしていただける」


 休憩室には使用人が控えている。教室まで入ることはせず、普段はここで主人の給仕の時の為に待機していたのだ。


「はい、こちらに」


 アンナはてきぱきと奥のクローゼットから新しい制服を取り出した。

 もしかしてこれを着ていいということか。


「そんなっ、これくらい問題なく使えます」


 悪役令嬢の替えの制服を着たとなれば後々何を要求されるかわかったものではない。


「これから集合写真があるのよ。記念すべき初日なのだから身だしなみは大事にしないと」

「大丈夫ですよ。目立たないですし、これくらいは石鹸で応急処置して」


 セーラに手を握られる。びっくりするくらいすべすべとした肌触りにどきどきしてしまう。


「ダメよ。あなた、下手そうだからアンナに任せておきなさい」


 アンナに促されるまま私は制服を着替えさせられた。


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