第16話 オリエンテーション二日目・夜
オルフェンとアルベルトが拠点に帰ると、他の四人はもう集合していた。
「ただいま」
「あら、二人ともおかえりなさい」
「あ、ば、晩ご飯、もうできてます…!ヴァレリーが、お魚釣ってくれたんですよ…!!」
「な、おま…っ!それ言うなっつったろ!?」
「ぴえっ!ご、ごめんなさいいいいっ!!」
わいわいと賑やかな様子に、オルフェンは軽く笑い、それからヴァレリーの傍に歩み寄った。
「怪我は大丈夫か?」
「あ?お、おう。まだちょっと痛むけど、歩けるようにはなったぞ」
「そうか。これ、取り返してきた」
いいながら、小さな麻袋をヴァレリーに手渡す。
きょとんとした顔で彼は袋の中を覗き、それから驚愕の表情を浮かべた。
「お前、これ…!?」
「お前が四人組に盗られた魔石。後で話すけど、ちょっと色々あってな。交渉したらしぶしぶ返してくれたよ」
「…」
ヴァレリーは中を確認すると、「…別に頼んだわけじゃねえ。礼は言わねぇからな」と言いつつ懐にしまった。
今日の夕食は、パン代わりのアルトスの実、焼き魚、サワガニと山菜のスープ、ナッツ類のサラダ、それから新鮮なフルーツだ。
食事を摂りつつ、オルフェンとアルベルトは事の顛末を話す。
四人は時折相槌やリアクションを挟みつつ、真剣に話を聞き、聞き終わるとレベッカが最初に口を開いた。
「なにそれ!?そんなヤバい奴がこの島にいるの!?」
「うん。でも、ボスは縄張りから出ないから、基本的には安心だよ」
その様子を見、レインはスープを啜りながらオルフェンに尋ねる。
「ボスって、強いんだよね」
「ああ。…何とか攻撃を受け止めたけど、まだ腕が痺れてる感じがする」
レインは興味深げに頷き、それから全員に言った。
「じゃあ、倒したら、魔石いっぱい出るね」
同時刻、ネージュソリドール学園、学園長室。
夕日が差し込む中、ブランシュはデスクの上の書類に向かっていた。
少し休憩を取ろうかと書類から顔を上げ、ため息を吐いた瞬間、学園長室の扉がノックされた。
「どうぞ」
ブランシュがそう言うと、笑顔を浮かべたジェーンが部屋に入ってきた。
今日はメガネはかけず、手には白い箱を提げている。
ブランシュは一切表情を変えず「何用です?」と聞きながらペンを置く。
「どうせ先生ずっと仕事しててなんも食べてないんだろ?差し入れにケーキ買ってきた!」
「貴女が食べたいだけでしょう?…紅茶を入れます。座ってなさい」
ベリーのケーキを自分の皿に乗せ、レアチーズケーキをジェーンに差し出し、ブランシュはため息を吐く。
「私も暇ではないのですよ」
「わかってるわかってる」
「貴女、仕事は?」
「今日は非番。明日からまた新入生のアレコレで忙しくなるからさ。その前に先生とお茶でもって」
ジェーンはわが物顔で学園長室のソファに深くもたれ、ケーキを口に運ぶ。
呆れた顔でブランシュは「それだけではないのでしょう?」と紅茶に口をつける。
「まあね。…あいつからの連絡、あった?」
「いいえ。死んだとか捕まったという報はないから、きっと元気なのでしょう」
「…あいつ、アタシにもあんまり昔のこと話してくれなかったからさ、よくわかんねぇんだよ。なんでこんなに帝国に狙われてんのか。…組織と…宵闇と何があったのか」
「誰にでも語りたくない過去の一つや二つはあります。貴女は若いから、まだわからないかもしれませんけれど」
ブランシュはちらりとデスクの方を見遣り、それからケーキを一口食べる。
「それより、貴女はどうなのです?」
「アタシ?」
「オルフェン達のことは彼から聞いています。あの子たちのお世話、きちんとこなせていますか?」
「あはは、一緒に暮らしてもう5年になるんだぜ。大丈夫。アタシがあいつや先生からしてもらったように、ちゃんと親代わりやってるよ」
窓から見える夕焼けに視線を送り、紅茶を飲みつつジェーンは言う。
「あの二人はいずれ、敵対しあうかもしれない。レイン次第だけどな」
「…本気かよ、怪力女」
ヴァレリーは若干引き気味にレインを見つめる。
「六人で挑めば、なんとかなるよ。きっと」
「な、なんとかって…」
レベッカも返事に迷っていたが、オルフェンだけは真面目な顔でアルベルトの方を向いた。
「アルベルト。あの魔物、弱点はどこにあると思う?」
「え?えっと…。表皮が硬くて、魔法も物理攻撃も効かない場合は、粘膜系だよね。目とか、口の中とか」
「…え、えっと、お、オルフェン、まさか…やる気、なんですか…!?」
マヤの問いに、オルフェンは力強く頷く。
「作戦を十分に立てれば、敵わない相手じゃない。…最終日だし、自分の限界に挑戦してみたいんだ。もちろん、無理にとは言わない。やりたくない人は参加しなくてもいい」
「わたしはやるよ」
頷くレインに、レベッカも「しょうがないわね…!」とため息を吐きながら同意する。
「僕もやるよ。人数は多い方がいい」
「あ、わ、私…も…!武器、遠距離型だし、お役に、立てるかも…!」
「お前もやんのかよ!?」
ヴァレリーは予想外のマヤの発言に声を上げるが、しばらくして「…ここでオレが参加しなかったら、オレだけクソビビリ野郎みてぇじゃんかよ!」と叫び、頬杖をついてオルフェンの方を見た。
「おい、デコ傷野郎。作戦立てろ」