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17 ジーク

 ハドソンが遊郭の屋台に立っていると、紹介屋のジークがやってきた。


「よう」


 とジークの方から声を掛けてくる。


「まったく、ひでえつとめを紹介してくれたもんだ」


 とハドソンは皮肉を言った。


「時間直前に行ったら、周囲を警察が包囲しているじゃねえか。知らせようにも今にも突入しようって感じで、結局引き返すしかなかったんだぞ。ちょっと早ければ今頃俺もどこかの鉱山だ」

「そいつぁすまなかった。しかしな、お前さんだけが逮捕を免れたとなると、情報を売ったと勘ぐる奴が出てきても不思議じゃねえ」

「そりゃ、てめえが俺を疑っているってことか?」

「いや、そうじゃあねえ。盗賊も誰かが儲かるのが気に入らねえって奴も大勢いる。そうした連中が、レオの仕事に噛めなかったってことで、面白くねえからサツにチンコロしたってことだってある。ただしな、俺たちの世界にゃあ警察みたいな証拠は必要としねえ。鉱山から帰ってきた奴の逆恨みってこともあらあな」

「そうだな。身の回りには気を付けるよ」

「そうした方がいい。それと、最近じゃあ帝都は仕事がやりにくくて仕方ねえ。どうにも警察がやる気を出していてなあ」


 とジークはぼやいた。

 ヤンが紹介屋や情報屋といった盗賊専門の業者をジョセフに伝え、彼らを捕まえたのだった。

 情報屋というのは、どこの商店や教会にいくらくらいの金が眠っていて、その場所の従業員数だったり、金庫番の個人情報だったりを取り扱っている業者だ。

 盗賊はその情報を買って、つとめ先を選定するのであった。

 ジークがその逮捕された者に加わっていないのは、ハドソンが情報を得られる可能性があるからだった。

 紹介屋や情報屋をすべて捕まえたところで、盗賊がいなくなるわけではない。

 自前で情報を仕入れて、手下を雇ってつとめをするようになるだけなのである。

 なので、適度に間引いただけだった。


「で、注文は?」

「いや、いい。気晴らしに妓楼に行くところだ。女に酌をしてもらったほがいいだろ?」

「そうだな」


 そう言うとジークは妓楼へと向かった。

 その三日後、ジークは拷問を受けた痕跡を体中につけて、冷たくなっているのが発見された。

 夜中のうちに誰かが通りに運んで捨てていったのである。

 紹介屋が拷問を受けた末に殺されたということで、捜査はデルタに回ってきた。

 ラドン人の聞き込みは難しく、オークリー、マイケル、チャーリー、ブライアン、ミック、モーリス、チャックというデルタのメンバーで聞き込みをしていた。

 そんな事件が起こっているとは知らないハドソンは、その日も遊郭で屋台を出していた。

 すると、自分を監視する視線に気づく。

 人相の悪い二人組がこちらを見ているのだが、近寄ってくる様子もない。

 それに、どちらかといえば身を隠そうとしている。

 ただ、ハドソンにはバレバレであったが。

 そのまま営業を続けていて、万が一ジョセフが来たらまずいと思い、その日はそこで屋台を仕舞った。

 片づけた後に赤い布を屋台の柱につけた。

 これは異常事態を現すサインだ。

 これをつけておけば、警爵家の密偵が見つけて報告をしてくれることだろう。

 そして、遊郭を出て街を歩く。

 当然二人組も後をつけてきた。

 ハドソンは目に入った服屋に入ると裏口からこっそりと抜け出した。

 引退しても音無しのハドソンの動きは衰えず、店員も気づかないような鮮やかな身のこなしであった。

 後をつけてきた男たちは店に入るわけでもなく、ずっと外でハドソンが出てくるのを待った。

 しかし、一向に出てこないのでしびれを切らして店内に入った。


「もう一時間ばかり前に中年の男が入ってきただろう。そいつはどこへ行った?」


 女性店員に訊ねる。

 訊ねるといっても、半ば脅しである。


「気づいたらいなくなっていたので、もう出て行ったと思いますが」

「隠すとただじゃおかねえぞ!」


 男に怒鳴られて女性店員は涙目になる。

 しかし、本当に知らないのでそれ以上は何も答えられなかった。


「くそっ!サイラス様にぶん殴られちまう」

「探すしかねえな」


 そう言うと男たちは店から出て行った。

 その後ろをハドソンがつける。

 男たちはしばらくは街中をうろついたが、結局ハドソンが見つからないので諦めた。

 そして、ハドソンは彼らが戻った先を確認したのだった。


「あそこの文房具屋、『ブランディット』か」


 男たちが戻ったのはブランディットという文房具屋であった。

 ハドソンがしばらくそこを見張っていると、客とは別に人相の悪い連中の出入りが確認できた。

 その中に見知った顔がいた。


「あいつは夜目のダミアンか」


 夜目のダミアンはその名の通り夜目が利く盗賊であった。

 過去に一度、その腕を買われてアルフレッドの手伝いに来たので、ハドソンも顔を知っていたのだ。

 しかし、入った店の女を強姦しようとして、やっとの思いでそれを止めた経緯があるので、二度目の声を掛けることはなかった。

 そのうちに別の一味の仕事で失敗して、手配書が回ったことで帝都を売って地方に逃げたと聞いていた。

 売るとは盗賊用語で逃げるということである。

 ハドソンはダミアンを見かけたことで、過去の恨みから狙われたのかと考えた。

 ただ、ダミアンが単なる恨みだけで帝都に戻ってきたとも考えられず、何か大きな仕事があるのだろうとも思い、ジョセフに知らせることにした。

 同日、夜。

 ジョセフは家でジェシカと食事をしていた。

 マリアンヌは仕事でまだ職場におり、クリスティーナはパーティーに呼ばれて留守にしている。

 夫婦水入らずの食事であった。

 使用人も下がらせて、本当に夫婦二人だけである。


「はい、あーん」


 ジェシカがフォークに肉を刺して、ジョセフの口へと運ぶ。

 妓楼でジェシカにやってもらっていたのと同じである。

 流石にこんな姿を家族や使用人に見せられないので、今日がチャンスとばかりに使用人を下がらせたのだった。

 久々にジェシカにどうどうと甘えられるので、ジョセフはご満悦だった。

 ジェシカもそんなジョセフを可愛いと思い、喜んで甘えさせていた。

 と、その時ドアがノックされる。

 二人ともビクッとなって、慌てて距離を開けた。

 そして、何事もなかったかのように、ジョセフが応答する。


「何か?」


 そう問われたドアの向こうの使用人が答える。


「ハドソンが見えました。至急お目通り願いたいとのことでしたが、お食事中と申しましたところ、お待ちするとのこと。如何いたしましょうか」

「ハドソンがうちにくるとは、よっぽどのことだろうね。すぐに会おう」


 ハドソンのような密偵は基本的には屋敷には来ない。

 警爵家との繋がりを誰かに見られてはまずいからだ。

 しかし、それを知ったうえでハドソンが来たというのならば、よっぽどの事情があるということだ。

 後ろ髪を引かれる思いで席を立つと、ジェシカがクスクスと笑った。

 どうにも子供のようなジョセフの態度に笑ってしまったのである。

 ジョセフは照れ笑いしながらハドソンが待つ部屋へと向かった。


「直接うかがってしまい申し訳ありませんが、まずい事態となりました」

「かまわないよ。何があったのかな?」

「実は昼間屋台の方を監視する二人組がいましたんで、早じまいしてみたら後をつけてくるじゃねえですか。で、まいて逆にそいつらの後をつけてみたら、十番地区のブランディットって文房具屋に入っていきまして。で、そこを見張っていたら夜目のダミアンって盗賊の出入りも確認できたんです。こいつは指名手配されて帝都を売った奴でして、それがどうもかかわっているらしいんです」

「へえ。ハドソンはその夜目のダミアンって盗賊と関りがあったの?」

「昔、アルフレッド親分のところに手伝いに来たことがありまして。ま、素行が悪いんでそれっきりでしたが」


 それを聞いてジョセフは考え込んだ。


「その程度で尾行させたりするかねえ?」

「そこなんです。あいつが盗みに入った先で強姦しようとしたのを止めたんですが、そのことで逆恨みくらいしか思い当たりません」

「あるいは指名手配について、アルフレッド一味が売り飛ばしたと思っているとか?」

「なるほど、そいつはあるかもしれませんね」

「まあ、そういう事情なら僕があの屋台で情報交換するわけにはいかないね。直接来た理由が納得できたよ。身辺には気を付けて。明日からその文房具屋を見張ってみるよ」

「へい」


 ハドソンは報告を終えて帰ることにした。

 その夜、ハドソンとアンナがいる元盗賊宿が放火により全焼したのだった。


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