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新月の夜、怪異は祀られる。

作者: ただ

古びた文献より引用。


童は老婆に問うた。

「婆や、童の願いは叶うのか。」

「えぇ、叶いますとも。ハイシャク様に願われば。されど懺悔は要りまする。己の犯したその罪を、認め赦しを乞いましょう。」

新月の夜、婆と童は消え行った。

ハイシャク様に従えば、願い叶って消えていく。

ハイシャク様に背ければ、失い、朽ちていく。

ハイシャク様の気のままに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「これから話すのは、私の友人から聞いた噂話です。」

 古びたビルの三階の、まだ昼間だと言うのに薄暗い一室で、場所に似合わぬ美しい客人が話し出す。

名を新田未麗(にったみれい)と言い、名は体を表すとはよく言ったものであると感じさせるほどの美女…否、美少女。

その客人の前に座るは、どうもその客人と居るには似合わない草臥れた男。この薄暗く辛気臭い、“自称”何でも屋を営む茶野水荘太郎(ちゃのみずそうたろう)という名前さえ面妖な男は困っていた。

設立して3ヶ月、従業員も客もいない、何でも屋などというふざけた店の看板を降ろそうと表に出た時、半ば当たり屋のようにして依頼をしてきたこの美少女の依頼のことだ。何でも屋にしか頼めないなどというものだから少し胸を躍らせながら聞いた依頼が、「友人の話した少し怖い噂話の真偽を確かめて欲しい」という、確かに探偵やら興信所やらには頼めないようなことなうえ、この男、怖い話がめっぽう苦手なのである。

 話を聞くのが嫌そうな宗太郎を他所に、新田は話し始める。


「私は大学で民俗学を学んでいるのですが、友人の話した地方の伝承が、【新月の夜、見えない月に向かって過去に起こした後ろめたいことを懺悔すると、背釈様(ハイシャク様)が許してくださり、願いも叶えてくれる。ただし、懺悔が嘘であったり、大きなこと、犯罪であれば許されず、大切なものを奪われる。】というものでした。しかし、裏付けや詳細の情報もなく、虚な目をして語っていたものなので、真偽が定かでないのです。どうかそこを調べていただけないでしょうか。」


 ここで断ればよかったものを、折角開いた店を、一度も営業せずに閉めるなど勿体無い、とすっかり依頼を受ける気になってしまっていた。

「分かりました、お受けいたしましょう。丁度今晩は新月ですので、すぐに終わると思います。」

新田は依頼主だというのに驚いた顔をして感謝をし、18時にまた来る旨を伝え、ビルを後にした。





18時。ビルの前で新田と合流し、白の軽トラで空のよく見える山の方へ向かった。

すぐに噂を確かめようと、新田には本当の懺悔をしてもらい、自分は嘘の懺悔をすることになり、正直な所、宗太郎は今すぐにでも帰りたい気分であった。しかし、この宗太郎という男。大切なものなどなく、結婚はしておらず、両親もすでに他界しており、失って困るものなど最早ないようなもので、この実験自体は怖くなかった。


 新田とともに新月の方を見つめ、心の中で懺悔をする。適当な過去の過ちを唱えると、少し寒気がしたが、特に何も起こらず、ともに願った願い事もすぐには叶う気がせず、そのまま解散することになった。


 帰宅後、やはり依頼のことが気になり眠れそうになかったので「ハイシャク様」とやらについて調べてみる。

ウィキペディアのような著名サイトには一切載っていないが、個人ブログが一つ、検索に引っ掛かった。その中でも一際目を引いた文章があった。

【ハイシャク様は背釈様ではなく、拝借様である。もしも儀式をやろうとしているのであれば、今すぐやめた方が良い。もしも手遅れなのならば、今後一切の睡眠をとってはならない。】


「背釈」という言葉は存在せず、造語である。

恐らくは「背→後ろめたい」「釈→許し」である

それが違い、「拝借」つまり、「ものを借りる、貰う」

睡眠してはいけない。

どうもきな臭く、同時に不安を煽るような情報で、結局その日はチープな映画をみて朝を迎えた。

しばらく、新田の姿を見ることも、寝ることもなかった。


 すっかり草臥れた容姿に加え酷い隈とあくびが似合ってきた頃、ニュースで新田を見た。良くないニュースで。

少し前から行方不明だったらしく、家に入った大家が千切れた腕と血溜まりを見つけ、通報に至ったという。

恐ろしくなり、店を閉め、布団に籠った。それが間違いだった。

長く寝ておらず疲れ切っていたのも災いし、すぐに眠ってしまったのだ。



 起きた時、見えたのは見慣れた汚い部屋でなく、店よりも薄暗い何処かだった。

遠くから小さな音が聞こえる。

どうやら少しづつ近づいてくるようだった。

怖いものが嫌いな宗太郎も、「声」と言うのがわかると安心してそちらへと走った。

そこにいたのは悲痛な顔を浮かべる、新田を含めた片腕のない人々の皮を被った「なにか」だった、

皮しか見えないのに何故違うとわかったと問われると直感としか応えようがない。


走った。息も忘れ、痴態も気にせずに。勿論「なにか」は追いかけてくる。幾度か腕を掴まれ、腕がちぎれるかと思ったが、なんとか袖を持っていかれるだけですんだ。


 走って走って走って、気づけば見慣れた部屋の中であった。

夢かと思ったがそう言うわけでもない。持っていかれた袖はないし、掴まれた跡も残っている。

後に、あの時願った願い事が叶い、「噂は本当」依頼は、依頼者死亡のまま完了した。


勿論、フィクションです。えぇ。

駄作をお読み下さりありがとう御座いました。未だ学生なので至らぬ所が多くありますが、ぬるい目で見てくだされば幸いです。

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