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悠久とエテル  作者: aqri
番外編
98/107

モカの家族の絆 命を大切にしてほしい

「僕のできる事は何でもやってみるよ。諦めたりしないから」


 穏やかに笑ってそういうモカを母はぎゅっと抱きしめる。


「母ちゃんも諦めないよ。できる事は何でもやるから、今度はみんなで一緒にやっていこうね」

「うん」


 そして体を冷やさないほうがいいからと着るものを持ってきたり、朝食を部屋に持って来たり。至れり尽くせりなところでショットが再びやってきた。


「わかったぞ」

「ほ、本当!?」


 母や姉が全員詰め寄るように近寄る。それをかわしながらモカに近づくと、しゃがんでモカの目線に合わせて静かにこういった。


「確信が持てた。その症状は」

「うん」


 何を言われても動揺しない、全て受け入れよう。そして立ち向かおう。そう思って真剣に次の言葉を待つ。


「成長痛だな」

「……。うん?」


 聞き間違いだろうかと思って思わず首をかしげた。しかしショットはいたって真面目だ。


「だから成長痛。身長が急激に伸びるときに起きる痛みだ、ほっとけばそのうち治まる」


 しーん、とあたりが静まり帰る。そして母はその場に尻餅をつき、ついでに三番目の姉も尻餅をついた。どうやら腰が抜けたようだ。


「な、なんだ……そっか」

「よかったあ!」


 涙目で姉たちが喜ぶ。モカは相変わらずきょとんとしている。


「重い雰囲気で出ていくから、とんでもない病気なのかと思ったよ」

「仕方ないだろ、お前は特殊な存在だ。何も取りこぼしがないようにちゃんと調べようと思っただけだ。過去の事例や先祖たちに似たような症状はないかざっと調べてきた」


 あっけらかんと言うショットに、姉たちは一気に脱力した。


「心配したよもう!」

「ちょっと私畑の様子見に行ってくるから! 水撒いてる途中だったの!」

「私もついでにお父さん呼んでくる」


 姉たちがきゃーきゃーと盛り上がりあたりが少し騒がしくなった。そこでモカはこっそりとショットに小さく声をかける。


「本当ははじめからわかってたんじゃない?」

「当たり前だ」


 あっさりと言う伯父にモカは驚く。


「説教兼、お仕置きだ。俺個人の感情含む」

「……。魂を、半分使ったこと?」

「あれしか方法がなかったし、お前の判断は正しいと思ってる。でも、それでもお前は命をずいぶん軽んじているみたいだったからな」

「それは……」


 モカは一族の研究の集大成と言っていい。魂と言う不確かな存在を数値化して全てを把握しているのだ。寿命半分であの鍵が作れるならとその場で即決して作ってしまったのは確かにある。


「大切な家族が早死にする。それがどれだけ悲しいことか、お前がどれだけ大切に思われているか。ちゃんと叩き込んでおく必要があると思った」

「……」

「もう少し自分の命を大事に考えてたら、あの場で即決なんてしなかっただろ。転移で一度俺を呼び寄せて二人で鍵を完成させればよかったじゃないか」


 そう言ってショットはモカの頭を撫でると悲しそうに笑った。叡智が地上に何かした時は頼みたいとモカが言うので、空中庭園にショットは行くことができなかった。

 ショットもまた強大な魔力をもっている、絶対に戦力になれた。だがみんなを守ってほしいというモカの切実な思いに応じた。


 何もないことを祈りながら待っていれば、戻ってきたのは寿命が半分になった甥っ子。自分という同一の存在がいたのに、何もできなかったことをずっと悔やみ続けていたのだ。

 彼もまた甥を大切に思っている。同じ魂を持っているとしても、そこは伯父と甥と言う関係に変わりは無い。


「ごめん、なさい」

「まあ、責めたいわけじゃない。本来だったら十五歳で解放する力、お前は五歳で解放した。子供時代がほぼなかったから、大人に甘える機会を完全に逃してしまった。一人ですべてできるからなおさらな。それが不幸だとは言わないが、もう少し周りを、俺たちを頼ってくれ」


 優秀であるが故の、そして同じ魂を持つものであるが故の理解者。鏡に映った自分のように思ってきたが、ここに来て初めて目の前にいる人が「伯父」だと認識できた気がした。おそらくそれも彼は気づいていたのだろう。


「ありがとう、伯父さん」

「ああ。あともう一つ。これは非常に個人的な感情なんだが」

「ん?」


 がし! と。撫でていた手が突然頭を鷲掴みにする。確か素手でくるみを砕いたことがあるとか言っていた気がするなぁと、頭に感じる激痛に耐えながらモカはそんなことを考えてしまう。おそらく現実逃避に。何せ死ぬほど痛い。


「痛い痛い」

「なぁぁんでお前は背が伸びる予定なんだよ、おかしいだろ! 俺はこの体格で止まったんだぞ!?」

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