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悠久とエテル  作者: aqri
番外編
97/107

モカの家族の絆 お互いの本音

 一番上の姉が慌てて伯父の家に走った。この村には当然医者などいないが、エテルの魂を受け継ぐものは高い知能を持っている。そのため医療を学び村の人たちの怪我や病気を見てあげるのがこの村の長年続けてきたことだ。要するにモカの家系は医者代わりなのだ。


 モカは風邪などひいたことがない。ヒヒ草を食べて夜笑い疲れて気絶するように眠っても翌日ケロッとしていた。毒キノコを食べても平気な子だった。腐りかけの肉を食べてもお腹を壊したことなどなかったのに。

 モカの体調不良など経験していない家族はあたふたしていた。家畜と畑の世話に行っている父は今この場にいないが、もしもいたらモカを抱えて伯父の家に飛び込んだに違いない。

 駆けつけた伯父があれやこれやと症状を聞いて、実際に膝などを触り確認する。


「どう? 大した事なさそう?」

「疲れてたの?」


 姉たちが次々と心配そうに問いかけるが、ショットは黙り込んだままだ。いつもなら何かしら返事は早い、考え込むなど今までなかったのでどんどん皆に不安が広がる。


「これは、いやでもまさか」

「な、なに? 大丈夫なの?」


 恐る恐るといった様子でモカの母が心配そうに問いかけた。


「慎重に調べたい、少し時間をくれ」


 そう言うと物々しい雰囲気で部屋を出てしまった。自宅には医療に関する本がたくさんあるので何かを調べに行ったらしい。

 その様子をモカは呆然とした様子で見つめていた。モカ自身もてっきり大した事ないと言われるだろうな、と軽く見ていたからだ。


 この時家族全員頭によぎったのは、モカの寿命のことだ。魂を使った魔法を使い寿命が半分減った事はもう既に全員知っている。

 モカの話ではあと三十年ほど。五十歳にも満たずに命を落とすことになる。全員が青ざめる中、とうとう母が大粒の涙を流し始めた。


「モカ、お願いだから私より先に逝かないで!」

「お母さん、縁起でもないこと言わないの!」

「だって……う、うう」


 姉が一応反論をしてくれたが、おそらくみんな考えている事は同じだ。


 寿命が減ったから、体のあちこちにガタが来ているのではないか? これからどんどん病弱になって残りの三十年も普通の生活ができないのではないか?


 自分の体に異常が起きたことよりも。母や姉たちの泣き顔など見たことがなかったモカは心苦しくなる。

 一年に一回は帰っていたと言っても、結局家族全員で過ごした時間はほとんどない。性格が変わっても腫れ物を扱うような態度はせず、今まで通り接してくれた家族には本当に感謝している。

 何も恩返しもできていないのに、これからはもしかしたら生活で面倒を見てもらわなければいけなくなるかもしれない。上の姉四人は既に嫁に出ているし、嫁ぎ先の家のことや子育て、家畜の世話もある。下の姉二人だって決して暇ではない。何より、先程の母の言葉が突き刺さる。


 親より先に死なないで。


 子供に先立たれることがどれだけ親にとって悲しいか。自分のやることに口出しをせず、ずっと見守っていてくれた家族。本当は言いたいこと、聞きたいことがたくさんあっただろう。モカがやると決めたから自由にさせてくれていたのだ。


 家族は一緒で過ごす時間が何より大切なのに、誰かが欠けていることの悲しさ。両親がいない事はラムの心に大きな傷をつけたし、ラムがいなくなってしまったこともまた彼の子供には寂しい思いをさせたはずだ。

 家族の絆がことごとく破られてきたことを自分は知っていたのに、自分もそれを繰り返してしまうのか。もっと他にできることがあったはずではないかと、今更になって後悔する。自分はどれだけ大切な人達を悲しませてきたんだろう。


「お母さん、ごめんね」

「謝らないで……モカは何も悪くないの、ごめんね。こんな事言ってる場合じゃないのにね……」

「悲しませてごめん。みんなの愛情に乗っかるだけ乗っかって、何も返せなくてごめんね」


 その言葉に一番下の姉がとうとう泣き崩れる。歳が一番近く一番仲が良かった。魔法学校に入学すると言った時は最後まで泣きながら反対したのもこの姉だ。誕生日に帰ってくるたびにいつでも家に帰ってきていいのよと毎回言われていた。


「馬鹿! それでいいのよ、あんたあたしたちの弟なんだよ!? 愛情は貸し借りじゃないでしょ!」

「うん」

「モカがどれだけ大変な思いしてるのか、私たちはずっと見てきたから。何もできなかったのは私たちのほうよ」

「そんなことない。それは絶対違うよブレンダ姉さん」


 姉たちが順番に抱きしめてくれる。家族ってこんなに暖かいんだな、と実感する。ずっと当たり前にあるものだったから、まるで空気のようになってしまっていたのかもしれない。空気があるから、呼吸ができて生きていられる。それを忘れていた。

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