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悠久とエテル  作者: aqri
番外編
94/107

ロジクスと炎獄 グレイスの人生

 子供と言っていただけなので男なのか女なのかはわからないが。かなり整った顔立ちだったので息子ならそっくりだろうし、娘ならかなり美人のはずだ。きっと顔を見ればわかる。


 そんなことを考えて約十年後。思い人と口論になったと泣いているシャロンの姿を見て、ブチ切れて学校に乗り込んでしまった。魔法協会とのいざこざ、教師たちからの反発が多く睡眠不足になってイライラしていたというのもある。

 普段の自分だったら絶対にやらないのだが、愛する妻の忘れ形見であり、宝物のような存在の娘。色恋沙汰で泣くなど親が最も見たくない姿だ、一気に頭に血がのぼった。


「俺の娘を泣かせたクソ野郎はどこのどいつだああ!」

「あ、僕です」


 ポカンとした様子で、それでも素直に右手をあげて名乗り出る青年。ぶち殺す!! と思ってそちらを振り返って、目を見開いた。


――似ている。


 十八年前に会ったきり、しかも一度だけ。今ではおぼろげになってしまった記憶が鮮やかに蘇る。

 シャロンから話は聞いている、彼には親がいないと。あの時は内紛の他にも魔法協会の動きが激しかった。自分に暗殺者を送り込んできたのはいつも魔法協会だ。もしかしたら彼もとんでもなく優秀で、狙われていたのかもしれない。残念、無念でならないが。


――ああ、こんな形の再会もあるんだな。


 なんと声をかけようかと思っていたが。


「やめてってばお父様、みっともない!」


 そんな娘の声がなんだか男をかばっているように思えて再び頭にギューン! と血が上った。


「こぉの、ヘタレうじうじ男があ!」

「初対面でひどい言われよう」


 あの時もそんな会話をした。間違いなくこの子は彼の息子だ。


 結局真相はなんとなく話せなかった。彼の名前を知ることができたのが唯一の収穫だ。一度だけ適当に理由をつけて、それとなくローブを渡そうとしたのだが。


「他人が着込んだローブなんて受け取りたくないんですけど。ボロボロなのはまだいいですけど、うっすら血の跡があるじゃないですかこれ。いりません」


 心底嫌そうな顔でローブを突き返されたので何十回目かのタイマン勝負が始まったのだった。


 あれから長い長い年月が過ぎて、内紛は一応おさまりを見せた。争いはもうこりごりだと郊外に引越し、静かに老後を送っている。シャロンが理事長の後任となり、今では地域の学校を取りまとめる役員にまでなっている。

 いろいろなことがあった。妻と過ごせた時間がほぼなく、もう一度会いたいと思っていた人にも会えなかった。義理の息子とギャーギャー騒ぎながら過ごした時間も楽しかったが、これもわずか三年ほど。しかも魔法教会の目を欺くために対立しているようにも見せていた。それでもシャロンや孫たちに囲まれ幸せな人生だったと思う。

 大事にしまっていたローブを最近はまた羽織るようにしている。あの時の出会いが、彼の言葉が。そして自分の決意と行動が子供たちの未来を変えたと信じたい。


「おじいちゃん、寒くなってきたからもう中に入ろう」


 テラス席にいたのだが同居するひ孫が中から出てきた。シャロンの子供もまた結婚と出産が早かったのでグレイスにはひ孫が何人かいる。その中でもこの子は特別だ。

 エテルの面影があるこの子は、すぐに普通の子ではないとわかった。まず魔力の高さがグレイスとシャロンが危機感を抱くほどに高すぎた。他の魔法使いにバレないように、封印魔法を何重にも施してようやく周りの目をごまかせている。


 周囲にばれたらまた戦いの道具にされてしまう。そのため少し人里離れたグレイスの家に一緒に暮らすことになったのだ。この子は物心ついた時からずっと何かの研究をしている。その内容は難しすぎてさっぱりわからない。


「勉強するんだったら本当はもっと良い学校に行ったほうがいいんだがね」

「教師のレベルが低すぎて私には必要ないから大丈夫」

「はは、確かに」


 わずか十歳のひ孫は淡々と語る。だが嫌味ではなく事実だ。実際この子の知能についていける教師はおそらくこの辺にはいないだろう。王都に行こうものなら王家に引き抜かれてしまう、それだけは絶対に阻止したい。

 しかし、学校というのは勉強するだけの場所ではない。人との関わり合い、対話術、協力し合う心。人としての大切な成長を学ぶ場所でもある。同世代の友達ができそうにないのだからなおさら複雑な気分だった。かけがえのない仲間は、学校から始まるものだ。


「おじいちゃん」

「ん?」

「ありがとう、私に何も聞かないでくれて」

「聞いたとしても、じいちゃんじゃよくわからないだろうからな」

「私も何をやっているのかあまり他の人には話せない。でも、これだけは一応言っておきたくて」

「うん?」

「私がやっているのは、私のおじいちゃんの願いを叶えたいから」


 私のおじいちゃん。グレイスの事では無いのはわかった。それを聞いて目を見開く。

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