表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久とエテル  作者: aqri
番外編
90/107

ダガー 叡智の庭園での決戦

 馬車を動かしている農夫に一旦止まるように声をかける。農夫は不思議そうな顔してどうしたんだと聞いてくるが。


「たぶん盗賊です」

「え?」


 え、と農夫が声を上げるのと同時に馬に乗った男たちが一斉に飛び出してきた。周りをゆるい斜面に囲まれていたので全く見えなかったのだ。


「もう地形がさ、奇襲してくれって言ってるようなもんじゃんここ」

「確かに。それにしても一人ひとり全員馬に乗ってるとは。結構勢力の強い盗賊みたいだね。賞金首かな?」

「あ、あんたらそんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」


 のほほんとした二人に、農夫は本気で焦った様子だ。この辺に盗賊が出るなど聞いたことがないから完全に油断していた。しかも囲まれているので逃げるのは無理だ。


「モカ、広範囲で何かできるか?」

「できるけど、さすがにまだちょっと疲れてるかな」


 叡智との戦いはあくまで余裕を持って見せてはいたが。さすがのモカも魔方陣を一度に二百以上出すのはかなり疲れた。実は王都へ行くのが二日経った今日なのは、モカがずっと休んでいたためだ。馬車の移動もそれなりに体力を使う。それに自分の魂も削り取った後だ、今は力を温存しておきたいというのが本音である。


「じゃ、俺が一人で行ってくるかな」


 約二十人あまりが馬に乗って、しかも剣を振り回しながら迫ってきているというのに。ダガーは全く慌てる様子がない。


「武器は?」

「いらんな、素手で良い」


 そういうと肩や足をぐりぐりと回して軽く準備運動をしてから。ダガーの首めがけて剣を振りかざしてきた男の腕をつかみ、地面に叩きつけるとそのまま馬に飛び乗った。


「あ、そいつだけ頼むわ!」


 落ちた拍子に怪我をしたらしく、すぐには起き上がってこない盗賊の男。やれやれといった様子でモカは。

 ガヅン!! と、ものすごい音を立てて男の頭にかかと落としをした。そのまま盗賊の男はピクリとも動かなくなる。死んではいないが、死にそうではある。


「アリス直伝のかかと落としだなありゃ。頭蓋骨陥没してなきゃいいけど」


 武器防具の職人が丹精込めて作った強度を設計し尽くされた盾。これを飛び蹴りで真っ二つに割ったことがあるアリス。獣人は腕の力よりも足の力の方が強いので、蹴りが強いのは当たり前なのだが。その彼女の手ほどきを受けてきたのだから、モカはそこそこに体術が強い。

 それは叡智の棲家である空中庭園に行った時すぐにわかった。転移魔法で庭園につくと、ちょうどモカの目の前に人形がいた。本当に目と鼻の先の距離だったもので、モカもキョトンとしていたのだが。

 人形が瞬時に襲い掛かる。かばおうとしたが、瞬きする間もなくモカは人形を真上に蹴り上げていたのだ。すかさず光の矢が人形を貫いたが、モカが魔法で粉々にする前に既におかしな方向に曲がっていたようにも見える。


「あー、びっくりした」

「俺がびびったわ」


 びっくりして咄嗟に蹴り上げるってなんだ、とちょっと引いた。しかも蹴ったのは股間くらい位置。特に性別などないしもちろん性器もついていないから、急所では無いのだろうが。すぐ近くにいた息子たちはみんなウゲエという顔になる。

 アリスは寸止めが得意だったからそんな事はなかった、そういうところもちゃんと教えとけと思ってしまう。


「モカすげえ!」

「ちょっと、強いんだったらもっと早く教えてよ! これ終わったら手合わせしよう手合わせ!」


 孫たちはみんな目を爛々とさせている。穏やかなダガーの血筋と思えないくらい子供や孫たちは血気盛んで好戦的だ。血の気が多いというか、暴れ足りないというか。

 全員が驚いているので、どうやらアリスから手ほどきを受けているというのを知らなかったようだ。


「話したらみんな襲い掛かってくるから、ギリギリまで黙ってたほうがいいよってアリスにアドバイスもらってたから」

「いえてる」


 そうして無数に湧いてくる人形たち。エテルと同じ顔だったらどうしようと思っていたが、全員服も着ていないし特徴らしい特徴もない。まさに人形そのものだ。


「じゃ、お前は先に行ってな」

「ありがとう、任せるよ。気をつけて」


 お互いを信頼しているからこそ相手を送り出せるし任せることもできる。離れていた時間は長いが、お互いを大切に思う気持ちに濃度などない。


「さて、じゃあやるかね」


 大きな戦争はなかったものの、実は何度か内紛や他国の争いにダガーは参加してきた。それは第三王子の当初の目論見通り獣人は恐ろしい存在なのだと。権力をもち、権利によって守られている獣人に歯向かうとどうなるか。それをわからせるために。

 そのダガーの教育もあって親族は皆「部隊」としての戦い方に長けている。獣人による連携、国を滅ぼしかねない戦力だ。


「生き物の匂い全然しないね、なんか変なの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ