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悠久とエテル  作者: aqri
番外編
89/107

ダガー この十年の活動、外交にて

「こっちの獣人はとにかく陽気で心優しい、友好な関係を築いているっていうアピールしてきたんだよ。あと幸いなことに、隣の国はかなり動物が好きな奴が多かった」

「聞いたことあるよ。神聖なもの、って考えなんだっけ」

「神として祀ってる所もあるらしいが一部だな。あっちは一般家庭も狩りをするのが普通だ。犬は獲物を追いかけ回したり、ときには戦ったり。かけがえのない家族っていう認識なんだよな。だから俺が行ったとき、すげえ歓迎された」



 なごやかな挨拶を交わす中、わずかに緊張していたダガーはずっと黙り込んでいた。何せ田舎出身だし上流階級のマナーはこの半月で叩き込まれた程度のものだ。自分が余計なことを話さないほうがいいと思うし、そもそも交渉するのは王子の役割であって自分は護衛という名目で来ている。

 隣の国の王家の人たちは和やかに迎え入れてくれて、それでもダガーをチラチラと落ち着かない様子で見ている。


(一応穏やかな性格っていうことは事前に説明してもらってるけど。やっぱり怖いか)


 自分の言動一つで相手の印象が変わってしまう、下手なことをしないようにしなければと気を引き締めていた。

 そんな中六歳になるという双子の皇子と姫が紹介された。二人とも人形のように可愛らしい顔立ちで、そわそわした様子でダガーを見ている。年齢もなんとなくその様子も、モカを思い出させて嬉しくもあり少し複雑な気分にもなり。


(モカ、元気でやってるかな。モカの伯父が学校に来てくれたし、何よりアリスも一緒だから大丈夫だと思うけど。そばにいてやりたかったなぁ)


 弟や妹、息子も娘もいるダガーにとって、幼い子供というのは守るべき大切な存在だ。だがこちらの仕事をやりたかったというのも本音で。モカの言った通りどちらを選んでも、きっと選ばなかった方を羨ましがって後悔していた。それなら選んだ道と生き方を、胸を張って語れるようにがむしゃらに頑張るだけだ。


「はじめまして、ミコト皇子、ツバキ姫。獣人が珍しいですか?」


 跪き視線を合わせて話を進める第三王子。皇子と姫は顔を見合わせて、うん、と頷き合った。


「わしゃっても、よろしいか!?」


 ……わしゃ?


 おそらくその場にいる人間全員がそう思った。第三王子一人を除いて。


「なでなでする前に、まずは自己紹介からでよろしいでしょうか」

「あ! これは失礼申した!」

「すまぬ!」

「もう、二人ともお客様に失礼じゃろう? すみませぬお客人」


 王妃が困った様子で慌てて謝罪をする。気にしないでくださいと会話が進む中、ここに来てようやく「ああ、この二人モフモフが好きなんだな」とダガーは気づく。そして微妙に喋り方が古風なことのギャップが面白い。見た目とのギャップもモカみたいだなと考えながら、同じようにしゃがみ込む。

 本日はお招きありがとうございますとか、お会いできて光栄です、とか。一応礼儀等は一通り勉強してきたのだが。ごちゃごちゃと前置きが長くなるのも何かなぁと思った。何せ目の前の幼子たちは、正面から見るとはっきりわかるくらいに。ものすごく目をキラキラさせていたのだ。


(上から見てたから表情がわからなかった。早く触りたいんだな)


「ダガーです、よろしくお願いします」

「うむ!」

「よろしゅう!」

「お近づきの印にどうぞ」


 そういうと横を向いて尻尾をブンブンと振って見せる。すると我慢できないといった様子で二人は尻尾をモフモフなで始めた。


「きゃー!」

「ふかふかじゃ、もっふもふじゃ!」

「きゃははは、くすぐったい!」

「お日様の匂いじゃ!」

「これ、はしたない!」

「良いですよ。これほど温かく迎えていただき感謝しております」


 慌てて止めようとする王妃にダガーは笑顔で言った。


「そうかえ? それにしても笑った顔がほんにかわ……こほん、凛々しいのう」


 笑った顔が凛々しいとは……? と思ったがとりあえずその場では言わなかった。



「その時俺気がついちゃったんだよな」

「なにを?」

「皇帝陛下と、王妃様もちょっとそわそわしてるってことに」

「あ、察した」


 人払いを済ませたところで皇帝陛下と王妃が尻尾をモフモフしたという話は第三王子とダガーだけの秘密らしい。


「隣の国との橋渡しは役目を果たせた。後は後任の奴らがなんとかするから、俺がいなくても勝手に動いていくさ。ヒモト国との輸出入も始まった。あっちの武器面白いぞ、剣が反ってんだよ」

「聞いたことあるよ。なんかとんでもない強度してるんだってね。ところで」


 モカはキョロキョロとあたりを見渡す。


「囲まれちゃったかな」

「あ、やっぱりそうか」

「匂いする?」

「いや、風下だからなんも。だが、こういうのは感覚だ」

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