後日談 これから頑張っていこう
そのため魔力解放があった後、モカの性格が変わってうるうるしていた。
「物の言い方が兄貴そっくりになっちゃった……」
ぐすん、と鼻をすする姿にショットがチョップをする。
「いて!?」
「何か悪いか」
「本当の親子っぽい!」
「またそれか、しつこいな。研究の邪魔だから仕事してこい。お前いちいち声がでかい、気が散る」
「父さん、血のつながりは間違いないんだからそれはこだわることじゃないよ」
急に淡々となった息子(五歳児)に冷静に突っ込まれて落ち込むビータ。妻に「ほら、草刈り行くよ!」と引きずられて外に連れ出された。外からは「おとうちゃんから父さんになってる!! やだー!」と声がした。
「僕と伯父さんは同じ魂を持ってるから。鏡に映った自分みたいな感覚なんだ。別に伯父さんを父親のように慕ってたってわけじゃないんだけど」
「そういうのじゃないんだよ、親父ってやつは」
ははは、と笑うダガー。こればかりは父親というものになってみないとわからないことかもしれない。
「でも不思議よね。モカとラムが地下に何か感じたのはエテルの魂を持ってるから。でも、ロジクスはすでに魂の干渉をやってたじゃない? 特別な魔法使いだったのかな?」
アリスが素朴な疑問を口にする。確かに魂の干渉に関して始まりはロジクスだった。だが手記によればそれもロジクスの一族に代々伝わる能力だった。ロジクスよりもずっと前の世代から特殊な存在だったと分かる。
「たぶん、これは本当に推測なんだけど。過去のエテルの、なんらかの研究があってそれの子孫じゃないかな」
「うん?」
「魔法学校を作ったのは英雄シュードマリス、これは叡智だって話だ。でもあいつが人に化けて何かするとは思えない。たぶん、この時代のエテルがシュードマリスだと思う」
シュードマリスの詳しい人物像は実はわかっていない、戦争の英雄というだけだ。
「三百年前は男尊女卑が激しかった、女性の英雄は認められてない。だから身代わりがいたはずだ。自分の手駒を作ろうとしたのかも」
「エテルが命を作ろうとしてたってことか?」
「いや、たぶん普通の人の魂を弄ろうとしたんだ。一人じゃ一から命を作るのは無理だってわかってたんだ」
魂の研究からもエテルの魂の引継ぎはラムから、とわかっている。父親であるロジクスからエテルの魂は感知されていない。
それが巡り巡って、出会った。他にも過去の一族の人間たちはエテルと複数回出会っている。
「偶然、というよりお互い呼び合ったのかもね。いずれにせよ、奇跡じゃなくて必然だったんだ」
ロジクスとラム、そして彼らに関わった人々は悲劇で終わってしまった。家族と過ごすこともできず、子孫も研究に明け暮れる日々。それでも。
「研究をやりながら家族や仲間を大切にしてきた、今の僕の一族を見ればわかる。伯父さんだって家族思いの優しい人なんだよ」
エテルの影響があっても元の性格や考え方がなくなるわけではない。ショットは十五歳になるまではとんでもない悪ガキだったと祖父母らがよく語っている。ビータとは体格が全く違うのに殴り合いの喧嘩をよくしていたそうだ。そして勝つのはいつもショットだった。ちなみにビータは獣人と殴り合いの喧嘩をして勝った事がある猛者である。
それにショットと妻は今でも新婚夫婦のように仲が良い。なんでも野犬に襲われそうになっているところを助けて、ショットが一目惚れしたとか。美人と仲良く、という家訓に関係なくこの家系の男は美人には弱いらしい。
「なんで十五歳まで魔力解放しないことになってんだ?」
「目覚めればこの性格になって研究に没頭するから。子供時代を絶対経験した方がいいっていう教育方針だよ。僕は時間なかったから飛ばしたけど」
それでも充実した十年だった。子供らしさはなかったが、仲間も増えた。魔法教会にも忖度なしの友人はいるし、村の農業もちゃんと参加している。
「今後研究は必要ない。相変わらず特別な子は産まれてくるけど。面倒なことにならないよう、都会から離れてゆったり暮らすことにかわりはないよ」
モカの寿命は減った。それを告げられてアリスは悲しみ、ついでに宴会にかけつけたモカの家族全員咽び泣いた。ビータは地面にうつ伏せになって号泣していたくらいだ。ショットにさえ「家族悲しませたことは反省しろ」と悲しそうに言われたくらいだ。
姉達からもみくちゃにされ、髪を切るといったら全員から断固反対され。「罰としてしばらく女装してなさい! 明日思いっきり乙女グッズ買い物いくからね!」とすごい剣幕で詰め寄られていた。
「さて、今日から忙しくなる。姉さんたちの買い物にも付き合わなきゃいけないけど。ダガーは辞職でしょ?」
「王子が許してくれりゃあな。獣人を憲兵に入れる計画進めるために俺入れたようなもんだし」
「手強そうだね、交渉。僕も行くよ」
第三王子は一見穏やかな人だが、それが見た目だけの話なのは一部で有名だ。外交は常に第三王子が関わり発展が加速している。それだけ交渉で勝てるものはいない、つまり駆け引きでは勝ち目がない。
相手の弱みを瞬時に見抜き、何を囁けば甘い言葉に釣られてくれるか熟知している。人を操るのが上手く、人の上に立つのに相応しい人。
「多少国のためになる条件を見せないと納得しないだろうから。魔法学校の統一、だけじゃ弱い。なんか考えないと。共同研究とかかな」
「つーか。絶対モカとダチになれそうなんだよな、あのお方とは。似た者同士っつーか、考え方が同じ方向っていうか。年も近いし」
「そっか。腹割って話すのもアリかもね」
自由を手に入れた、とは少し違うが。やらなければいけないこと、からやりたいこと、に変わった。それでも本質は同じだ。
大切な人のために、自分のために生きていている。目的があり、目標もある。何を選び行動するのかが大切なのだ。
「さて、じゃあ改めて」
「なにが?」
いきなりダガーが肩を組んできたのでモカは不思議そうな顔だ。
「今日からまた頑張ろうな、モカ」
その行動が一体何なのか思い出してモカは微笑んだ。その顔は十年前の出会ったばかりと同じ、みんなが幸せな気分になる素敵な笑顔。
アリスも加わって三人で円陣を組むように肩を組み合う。
「行くぞ!」
「おー!」
いつか必ず、ここにもう一人。




