後日談 つながれた思い
決められた生き方でしか生きられない者が、どんな末路になるのか。トータもそうだが、裏で生きてきたロジクスはそれがよくわかっている。
「ラムにも選択肢を増やしてやりたい。優秀な人間は絶対に搾取される側の人間だ。そういった奴らを蹴散らせるくらい知識と実力を」
「問題ないでしょ、あなたと私なら」
そう言って穏やかに微笑むエテル。ロジクスと過ごすうちに、作り笑いではない本当の笑顔が増えたと思う。
「そこら中で争いが起きてる。『炎獄』のおかげで魔法協会の動きがとりあえず抑えられてきてはいるが。お前の歩む道は困難の連続かもしれない」
こつん、とラムの額に自分の額を優しく当てた。
「俺が守る、必ず」
「俺?」
若干不満そうに言ったエテルにロジクスは笑う。
「俺たち、な」
「よろしい」
そんな温かい「エテル」の記憶と。それを確かに見聞きしていた自分の記憶が鮮明に蘇る。
ほんの少し魔術の欠片に近づいただけで記憶が鮮明に見えた。エテルの魂の一部を持っている己にも、多少影響があったようだ。
「なんで忘れてたんだろうな、父さんと母さんの顔」
おそらく母であるエテルが魂に何か魔法を施したのかもしれない。魔術の欠片にバレないように。それでも自分の後輩と母親が全く同じ存在だったということに、もっと早く気づけば良いものを、と。涙を流しながら小さく笑った。
「そういうことだったんだ。父さん、エテル。僕はここで終わってしまうけど。すごく幸せだったよ」
名の通り、自分は周りを幸せにする存在になれただろうか? みんな、の範囲が広すぎる。どんな知力や魔力をもってしても、大切な人は両腕で抱きしめられる範囲の人たちだけだった。
エテルの魂の一部を持つものとして、全てを理解した。自分の魂が魔術に吸収されてしまったら、自分の子供は間違いなく魔術に抹殺されてしまう。
それにこれは、エテルを悲しい運命から解き放つための布石だ。子孫たちには苦労をかけてしまうが、今ここで自分の魂を魔術に渡すわけにはいかない。
入学イベントの時に作った弱い結果魔法をエテルの前に作り出す。彼女ならその意図に気づくはずだ。そして魔術の欠片に近づいた彼女もまた、全てを理解しているはずである。
「欲を言えば、もっと長生きしたかったなあ」
愛する人と、我が子とともに。
「渡すわけにはいかないんだ」
こんなモノに、愛する人たちの未来を。
「二人とも、自分の子供と過ごす時間がとても短かった。だから心配だったのかも、僕のことが」
二人の詳細な様子と最後。モカはダガーとアリスに話していた。こういう話にとことん弱いアリスは途中から大粒の涙をこぼしている。
「ずっとモカの中にいたんだな」
「時々二人の性格や考え方に影響されることがあった。論破で畳み掛けるのはラムの特徴だし。叡智にクソガキ、って怒鳴ったのは完全にロジクスの感情だよ。うるさい奴嫌いだから、彼」
言われてみれば確かに。すべての出来事が終わって、宴会騒ぎの翌日の今。モカは少しだけ昔のモカに戻ったような感じだ。いくらか表情が豊かになっている。
エテルの魂を受け入れて魔力が解放されると、彼女の性格や考え方を引き継ぐらしい。淡々としていてちょっと人間嫌い、あまり感情の起伏がないのが「エテル」だ。おそらくこれが基本の性格なのだろう。ここからどんな人と出会いどんな経験をするかで多少性格が変わっていくのだ。
魔力が解放されたモカは二人が戸惑うほど、本当にがらりと変わってしまった。論理的な思考となり、とにかく研究に没頭する。笑わなくなったし必要最低限の事しかしゃべらなくなった。よくしゃべっていたモカとは思えない変化に周囲は困惑したものだ。
「ロジクスもラムもあまりおしゃべりなタイプではなかったから。でも二人の思考力を借りることで研究が格段に早く進んだ」
伯父が研究を進めてくれていたとはいえ、たった十年でここまで来れたのは歴代のエテルの魂を持つ者たちのおかげだ。
「二人は消えたの? 生まれ変わったとか? それとも、まだそこに?」
「説明できるんだけど、魂についての知識はあまり話さないほうがいいと思うから。とりあえず神の御許に行ったっていうことで」
その答えに二人も笑顔でうなずいた。本来であれば普通の人が手に入れることはできない知識。叡智と少しの間戦ったモカには、人類が数百年かけなければけない知識が数多くある状態だ。それを今ここで言ってしまうわけにはいかないのだ。
「ところで魔術の欠片ってそこら中にあるんだろう。どうにかするつもりなのか?」
「今のところ予定は無いかな。それを誰か他の人が見つけて、読み解くこともまた人類の進歩の一つだ。それに万が一エテル以外の人が見つけたらどうにかする手段ぐらいあいつも考えてるだろうから。ロジクスの時がそうだった」




