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悠久とエテル  作者: aqri
本編
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最終章 ただいま!

 はっはっは、と笑うダガー。飛び級で卒業したモカは研究の傍ら学校経営まで計画していた。寝る間も惜しんで無理をしていたので、見かねたアリスが「私にできることならやるよ?」と言ったのだが。モカはなんと全国数多く存在する私立の魔法学校をすべて統括する計画を進めていたのだ。「あ、じゃあちょっと旅に出るから。半年くらい総理事長代理よろしくね」と言って一時間後に旅立っていた。残された山積みの書類を前にアリスが悲鳴をあげた。


「ちょっと焦ってたんだ、この年齢でアレに会わなきゃ騙せない。何が何でも今年中には決着をつけたかったのに、このタイミングで魔法協会と王都の魔法騎士団が一触即発だったから」


 しかも原因は金と権力だアホ臭い、と笑い飛ばす。強大な権力を持つ魔法教会と王家直属の魔法騎士団のいざこざを、あほくさい、と笑い飛ばせるのはモカだけだろう。実際は内紛寸前の非常事態だったのをガダーは知っている。


「なんで学校統括するんだ? 独立してても運営に問題ないだろ、少し魔法協会と仲悪いけど」

「情報共有はスキルの底上げに役立つ、いいことしかない。と、いう建前は置いといて」

「やっぱりな。で?」


 モカは空を眺めて笑う。


「彼女は、魔法学校に通うっていう思考を組み込まれているはずだから」


 先祖たちの記録では、「彼女」との出会いは必ず魔法学校だった。それはそうだ。十五歳で人間関係のいざこざや戦いに参加する立場など魔法学校以外ないのだから。


「全国に多数存在する魔法学校。そのいくつかに魔術の欠片を散りばめられてる。エテルは放り出された場所から一番近い欠片を感知して入学する。でも結局、それが争いの火種を生むんだ」


 残された手記も読んだが、自分で調べてみてもエテルが関わったと思われることには内紛、戦争、悲劇が多い。力を、富を、権力を求めた戦いは昔から尽きない。


「彼女の生きる意味そのものをしっかり整えておかないとまた悲劇が起きる。今は平和だけど、いずれまた戦争が起きるよ。アレを楽しませるために平和になったら戦いが起きるよう工作してきたのも、たぶん彼女だ」


 記録はないが容易に想像できる。美しく優秀な女の子には皆騙されるものだ。本人はきっと無意識にそうさせられてきた。利用されて生きていた、という彼女のエピソードは数多く残っている。それのことを言っていたのだと思う。


「王立魔法騎士団や魔法協会といがみ合ってる場合じゃない。適度な争いは人には必要だ。でも、大勢が死ぬような戦争が起きないようにしないと戦争孤児も権力争いもなくならない。彼女はいつまでたっても普通の女学生になれない」

「ま、そんなこったろうと思ったよ。しゃあねえな、俺も警備で突っ立ってるだけの仕事よりは教師の方が面白そうだ」

「近衛兵長蹴って教師になるつもり?」

「偉くなると前戦から外されるんだよ、政治の話ばっかでうんざりだ」


 ダガーは昇進して今や第三王子の側近だ。獣人を王家に関わらせるという時点で当時相当揉めたが、第三王子の聡明な人柄により突破した。それでもいわれのない誹謗中傷は後を絶たない。


「耳が良いからいろいろ聞こえてくるんだ。王子はこれから後継者争いが始まる、弱みの材料は少ない方がいい。元老院はいまだに獣人は奴隷以下だって考えが根強いからな。それにモカがそういう活動するなら、王家に取り入って裏から働きかけしてるだろ、なんて言われかねないじゃねえか」

「そっか、そうだね。じゃ、副理事……」

「いやだね。体術指導やらせろよ」

「え~、しょうがないなあ」


 そんな話をしながら、モカは魔法を使う。「エテル」が得意としていた転移魔法だ、とっくに自在に使えるようになった。もともとは自分以外のものを転移する魔法だった。ラムの時のエテルも、モカと仲が良かった時も自分を転移できていなかったのがその証拠だ。それをモカが応用したのだ。彼女を探すためにあちこち走り回るなど時間がいくらあっても足りない。真っ先に研究した魔法だった。

 一瞬で全員学校へと戻って来ると、バッターン! と学校の正面玄関から飛び出してきたのはアリスだ。ちょっと毛がボサボサである。


「ばかああああああ! 全員無事に戻ってきてなにより! モカ、あんたふざけないでよアタシ徹夜三日目よ! ケガはない!? エテルは無事だった!?」


 その言葉にモカは笑いだす。


「大混乱中だね」

「文句よりもやっぱり心配がきてるからな。手土産どうすんだ」

「後でビュッフェご馳走するよ。まずは無事に戻りました、ってことで」

「寿命削った話ちゃんとしろよ。内緒にしたらバレた時飛び蹴りじゃすまねえぞ」

「その時はダガー盾にする」

「アイツの飛び蹴りは文字通り盾を粉砕するからやだね」


 その場にエテルがいないことで、アリスは察したらしい。しょぼん、と尻尾が下がるがモカに悲壮感がないことから戸惑っているようだ。


「記憶を消されて放浪中ってところだよ、たぶん。大丈夫、彼女は見た目を裏切ってたくましいの知ってるだろ?」


 荒野に放り出されたと言っていた。エテルは不死だ、死ぬことはないが。荒野は水、食料や物資の奪い合いが激しい。紛争地域が多いので、おそらく学校どころではないのだ。魔法も強く頭がいいのでまた誰かに利用されているのかもしれない。


「……そっか。そうね」


「だから、迎え入れる準備を進めよう」

「ふふ、そうだろうと思ってた。入学条件の緩和措置、進めておいたよ。エリート思考強い学校から猛反発されたけど、オイシイ条件提示して丸め込んでおいた」


 よしよし、とモカの頭を撫でる。十五歳といってもエテルと同じ見た目なのでモカは小柄なままだ、アリスの方が背が高い。


「気付いてたんだ?」

「魔法学校とりまとめようなんて考えてる時点でわかるってば。ずっと一緒にいたんだから」


 ダガーは王都に行ったがアリスは残った。生まれ持った魔力の解放、すなわちエテルの魂の受け入れをしたモカはガラリと人が変わってしまった。一人にしてはいけない、と家族のようにずっと傍にいてくれたのだ。


「今度からはもっと早く相談してよね」

「うん。ごめん、ありがとう」


 じわり、とモカの目に涙が溜まる。泣くなどいつ以来だろう、たぶんエテルがいなくなってから一度も泣いていなかった。一区切りついた、ダガーやアリスの心遣いが嬉しかった、一族の苦労が報われた。なんだかいろいろな感情が一気にこみ上げたのだ。


 ふわり、と温かい風が吹く。


『頑張ったじゃん』

『お疲れ様。本当にありがとう』


 魂が分解されたはずのロジクスとラム。分解は消滅ではない、ずっとそこに。魂の中にいた。


「……二人もね。もう、大丈夫だから」


 その言葉に、二人はくすりと笑って。今度こそ、光の中に消えていった。



 君が今どこで何をしているのかはわからない。連絡をとっている他の魔法学校に、君の名前の生徒はいなかったから。卒業もしていないみたいだし、どこにいるのかな。

 紛争地域で利用されてちょっと人間不信になって。人里から離れて暮らしてるってところだろうか。でもきっと、いや必ず。君に会える。


 だって、君が求めるのは「魔術の欠片」小さな叡智だ。叡智の一部が君で、君の魂の一部を受け継いでいるのが僕だ。

 だから君は絶対に僕を求めてやってくる。学校っていう条件を満たせば必ず僕のいる学校に来てくれる。


 だから僕ができることを精一杯やるよ。

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