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悠久とエテル  作者: aqri
本編
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最終章 あの後の「彼」

「そんなの話の中になかった! おかしいじゃない、赤の他人が同じ顔してたら誰だって生い立ちを探るでしょ!? それにエテルに対して美人だって言ってたモカの発言がおかしい! 自分が美しいって言ってるようなものじゃない!」

「年齢が違ったんだから当たり前だ。それに性格や雰囲気で人の印象は大きく変わる。見た目が似てると気づいた人はあまりいなかった」

「!?」

「ロジクスとラムが行っていた学校は一般的な十五歳から入学が認められた学校。だが僕が通っていた学校は貧しい子供でも入れるように門戸が広かった。エテルは歳をとらないから十五歳、ダガーとアリスは二十四歳。そして僕が入学したのは五歳」

「五歳!?」

「ダガーたちは何度も難しい単語を僕にわかるように説明してくれていたじゃないか」


 女の子らしい格好をしていた十五歳のエテルと、学校に来る前は家で農作業をしていたので日焼けもして男の子にしか見えなかったモカ。二人がなんとなく似ていると皆が気づいたのは、かなり経ってからだ。同級生も皆気づかず、担任が気づいて初めて話題となった。

 ダガーとアリスは獣人のため、実はそこまで人の顔の区別がついているわけではなかった。二人とも匂いで区別をしていたのだ。


「生粋の人間にこれいうと怒られるから言ってこなかったんだけど。俺たち人の顔って大体みんな一緒に見えちゃうんだよな」

「そうそう、似たような服着てるし似たような髪の色だし。モカとエテルが似てるの気が付かなかった」

「似てるかなあ? 僕自分が美人だと思ったことないけど」

「自分の顔の評価ってそういうものだと思うよ。それにモカってよく転ぶし、雑木林に畑にいろんなところ突っ込んでいくし。いつも泥だらけだからちゃんとした素顔ってそこまでまじまじ見てなかった」

「しかも背が低いから、上からしか見てなかったもんね。いつもツムジ見てたわ」




「ほんの小さな会話も全てきちんと聞いていれば、僕の年齢についてもわかったはずだ。みんなと友達になりたいなんて子供の思考そのものだし、多少強引な行動が受け入れられたのも幼児だったからだ」


 例えに飴玉を使っていた。

 難しい単語は知らなかった。

 気になるものにはいつも走って近づいた。

 女の子であるエテルにしがみついた。

 友達からさよならと言われ、泣いた。



「貧しい農村出身だから頭が悪くてガキくさいと勘違いしたんだろう。お前がさっき言った通り言葉をちゃんと注意深く見ていれば気がついたはずだ、バカめ」


 目の前のモカは十五歳ほどだ。つまりあれから十年経ったということになる。時間の感覚などない叡智は、ひとつ前のエテルが一体何年前に来たのかなど覚えていない。五分前も百年前もついさっき、という感覚なのだ。

「仲良くなった友達が理由も話さず突然姿を消した。当時五歳だ、毎日泣いて暮らした。そしたら心配した先生が実家に連絡して両親が駆けつけた。エテルの血筋である父さんが教えてくれたんだ」




「一族で代々伝わってきていることなんだけど。一定の年齢が来るまで魔力制限をしているんだ。モカ、黙っていてごめんな。お前には魔法の才能がないんじゃない、隠していたんだ」

「なんでえ?」


 ぐずぐずと泣いている息子を優しく抱きしめる。我が子は一日一回必ず抱きしめるようにというのが家訓の一つだった。おそらくシャロンが作ったのだろう。ロジクスの残した言葉がエテルからラムの里親に伝わったのだ。それがシャロンに受け継がれた。


「エテル、っていう美人と仲良くなるにはまず魔法を押さえておくこと。それが先祖代々から受け継がれてきた。十五歳になったら話そうと思ってたんだけど。お前はエテルに会えたんだな」

「うん。でもね、どっか行っちゃった。さ、さよならって言われた、うええ〜」

「みんなを守るために一人で戦いにいったんだ。世の中を掻き回す厄介な存在がいるって、婆さんがよく言ってたよ。残念だけど助けに行くのは間に合わない」

「やだ、だずげにいぐううう!」


 びええええ、と泣くモカを父は優しく抱きしめた。


 家にいた時からモカは聞き分けの良い子だった。人の話を聞かず突っ走るように見えて、大人の言う事はちゃんと聞いてきたのだ。

 それが友達のために言うことを聞かないのが父親にとってはとても喜ばしいことだった。何せ村には同い年の子供がいない。聞き分けがないのは友達を心から大切に思っている証拠だ。


「エテルしか見つけることができない、秘密の場所に行ってしまった。他の人では見つけることができないんだよ」

「ううー」

「だから今やらなきゃいけないのは、ご先祖様たちから引き継がれてきた魂の研究を完成させることだ」

「なにそれ? 難しい?」

「難しいし、ばれたら処刑だね。ずばーん、って」

「えー!?」


 大変な内容を父はケラケラと笑いながら明るく話す。優しく、その中にも真剣な雰囲気はあった。モカも真面目に聞く。


「俺たちは凡人、普通の人だから時間をかけなきゃいけない。だから焦らず、絶対に完成させるんだモカ。エテルの思いと、ご先祖様たちの願いを叶えるために。っていうとかっこいいけど、お前の大事な友達を守るためだよ」

「エテルのため?」

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