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悠久とエテル  作者: aqri
本編
75/107

最終章 ラムたちは、幸せだった

「上等だ表出ろ、中年と一緒に粉砕する。僕の光魔法舐めるな、その血の気がない生っ白い肌こんがり焼いたらどうだ」

「さっきからちょっと酷い事言ってるぞ糞餓鬼ども失礼な! 誰がおっさんだ俺はまだ四十三だ!」

「おっさんじゃないですか」

「じゅうぶんおっさんです」

「だからぁぁぁ!」


 エテルも入って騒がしくなった会話の中、一番大きな声を出したのはシャロンだった。


「話きけええええええええ!」


 バギ! と凄い音がして父の脳天に娘からチョップが繰り返される。この出来事はその場にいた生徒たちによって瞬く間に噂が広がり、理事長への印象が変わるきっかけとなった。

 その場にいた生徒たちは大爆笑となり、怖い人かと思ってたけど意外と普通だったとその後数年間は語られていた。


 そこから父親抜きできちんと二人で話し合い言い過ぎたことを謝り。理事長とラムの魔法禁止のタイマン勝負もあり。理事長は相変わらず魔法協会の人間である教師たちと軋轢はあったが、生徒たちとは円満な関係を築き始めていた。この頃から教師たちの生徒を見下す態度や発言が増えたので、生徒の間にも不信感が高まっていた頃だったのだ。

 この出来事の翌日シャロンが脅される件があった。もちろん脅してくるだろうというのは理事長もラムも予想済みだ、とっくに対策していた。筆談で打ち合わせをしてなんとか教師たちを欺きつつ、ラムとシャロンは険悪な雰囲気を演技した。


 いろいろなことを経験していくうち、ラムとシャロンの信頼関係は強固なものとなり。つかず離れずが三か月間続いて二人は交際をスタートさせた。


「エテルはラムのことが好きなんじゃなかったの?」


 戸惑った様子で聞いてくるシャロンに、エテルをはっきりと答える。すべて筆談だ。


「優秀な方で尊敬していますが、好みかどうかは別問題です」

「ラム以上に素敵な男っている? どんな人が好みなの?」

「私以上に優秀ですべてにおいて完璧な人なら多少考えますが。そんな男この世にいるはずありません。ラム先輩は該当しません、私の方が優秀ですから」

「あ、そう……」

「僕がかまい倒したくなるのわかった? このクソ生意気な後輩どうやって性格をまっとうにしてやろうかって苦労してたんだよ」

「こういう大きなお世話なところがたまにイラっとするので、好みにはなり得ません。あなたは私のカーチャンですか、鬱陶しい」

「せめて父ちゃんって言え」

「口うるさいのは母親と相場が決まっている、とみんなが口を揃えて言いますので」


 年頃の男女なのでどうしても恋愛が絡むように見えてしまうが。二人の間には本当にそういった感情がなかったのだ。

 ここから表向きには二人は対立しているように見せかけた。当然シャロンと付き合っているのも周囲にばれるわけにはいかなかったので、シャロンとも険悪な雰囲気のように見せかけただけだ。エテル、理事長も含めてこの四人の絆はとても深いものとなった。

 教師達から魔方陣を貼り付けられているのも、当然全員気がついていた。逆に魔方陣を乗っ取り都合の良い部分だけ聞かせると言う技をラムと理事長でやっていたくらいだ。


 だからこそ最後の時は悲惨なものだった。結界を壊せば大爆発が起きる。それをわかっていてあえてラムはその選択をした。魔術の欠片を魔法協会に渡さないために。


「待ってラム、やめて! 私が絶対なんとかするから!」

「シャロンと子供を幸せにするって言っただろうクソガキ! 今俺が全員倒すからふんばってろ、早まるな!」

『ごめんシャロン、お義父さん。でもだめなんだ。コレを、あいつらに。いや、人に渡らせるわけにいかない、絶対に』


 何のことを言っているのかわかならない。だが、エテルが結界を破壊するために正反対の属性の特大の魔法陣を出現させる。シャロンは信じられないものを見る目でエテルを振り返る。エテルなら、絶対ラムを助けると信じていたのに。


「エテル! どうして!?」

「シャロン、私のことを許さないで」


 親友となった二人。歳をとらない不思議な存在のエテルに、シャロンは温かく接してきた。苦楽を共にしたシャロンには本当に感謝している。

 泣きながらラムを助けようとしているシャロンと、押し掛けてきた協会本部の人間と戦っているシャロンの父。だが追い込まれているので勝ち目はほとんどない。彼らを助けるためにも、ラムを救うためにも、もうこの手段しか残っていない。


「この奥にあるものに、ラムを奪わせるわけにはいかない。やっと理解した、触れないとわからないなんて性格悪すぎる。何でもっと早くここに来なかったの、私は!」

「え?」


 ラムを殺そうとしているのが分かったのでシャロンはエテルを止めようとしていた。しかしエテルが大粒の涙をこぼしているのを見て驚いて止まってしまった。

 エテルが泣いているなど、初めてだ。悲しくて、そして悔しくて泣いている。


「本当にあるの、魔術が」

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