最終章 ロジクスの本当の最後
自分と同じように、生命に似たものを作れるようになっていたというのか。ただの人形が、力を具現化しただけの存在が。自分と、同じように。
その事実は耐え難い屈辱だ。
「でも、エテルはちゃんと邪魔者を消した。魔術に関わるものは消せって命令してある。最後殺されてたでしょ!?」
「あの場所にたどり着いた時点でロジクスは虫の息だった。残り少ない命でどうしても友達を探したいからと、無理を言って協力してもらったんだよ。エテルはロジクスの魂をお前に渡さないために自らの手でロジクスの命を終わらせた。そこはエテルがあっさり言ったからお前もあっさり受け取ったんだろう。実際はこんな感じだったはずだ」
「……気は、すんだ?」
トータの残骸を見ながらエテルは静かに問いかける。地下の魔術の欠片を守る防衛システム。そのシステムは二人の力をもってしても敵うことができなかった。
命が無限であるエテルは重傷を負っても死ぬ事はないが、ロジクスの命は尽きようとしている。そして魔術にほんの少し触れたことでエテルは自分の使命を認識した。あれを楽しませるための最高の物語を届けなければいけない。
珍しい能力を持ったロジクスは魔術を通してあれに取り込まれてしまう可能性が高い。渡さないためには、ここで魂を消滅させるしかないのだ。
「充分だ、ありがとうエテル」
おそらくトータは何の価値もないものとして魔術に肉体も魂も消されてしまったのだろう。あれからロジクスは時間をかけて慎重に調査を進めていた。
三年生に進級した頃ようやくトータの行方の手がかりを見つけることができたのだ。女教師から魔術の話を聞いて、魔術を探すための手駒として地下に放り込まれたことまでは突き止めた。
それを探っているうちに学校を卒業しロジクスは教師となった。しかし次第に魔法協会の権力が強くなり、町全体も恐怖政治のようなものも始まった。優秀なロジクスは危険視され命を狙われるようになってしまった。
影の魔法を使って何とかかわしてきたが、脅威と判断されて抹殺命令が下ったのだ。魔法協会に追われてこの地下に逃げ込むしかなかった。
上は全て包囲されている、生き残れる可能性は低い。そしてこの怪我だ。ロジクスは覚悟を決めていた。
「悪いな、嫌な役、やらせちまって」
ロジクスは息も絶え絶えだ。ロジクスを吸収しようと襲いかかってきた魔術の欠片から守るために心臓を一突きにして、殺すことで救おうとしたのに。
ロジクスは魂を影に移したのだ、やりたいことがあるから、と。中途半端に拷問のようなことになってしまってエテルが泣いている。
「あなたの魂を奪われるぐらいだったら。こんなのどうってことない」
「泣きながら言うなよ。……あの子を、頼む」
「私はいずれアレのところに行かなきゃいけないから。あの子と過ごせるのはほんの少しだけ。私に一体何ができるの」
すぐにあの子を捨てなければいけないのに。泣きながら肩を震わせるエテルに手招きをする。もはや自力で起き上がることができないからだ。
近寄ったエテルを、ロジクスは優しく抱きしめる。結局恋愛感情はなかった。もしかしたらそういう気持ちも含めて大切に思っていたのかもしれない。
「できる限り抱きしめてやってくれ、それだけで充分だ」
「……わかった。私がずっと探し求めていたもの。何を探さなきゃいけないのかもわからなくてひたすら彷徨っていたけど、答えがこれとは。ほんとつまらないわね。ありがとうロジクス。私を、幸せにしてくれて……」
泣きながらそっと離れると剣をロジクスから引き抜いた。地面に仰向けに倒れあたりに血の海ができる。それでもロジクスはまだ生きている、魔術が彼の魂に接触する前に彼を「救わなくては」。
「さ、さよ、なら……ロジクス」
震える手で、微笑むロジクスの首を剣で切り落とした。魂の消滅には首の切断が絶対に必要なのだ。脳と心臓を物理的に離さなければならない。
「うああ、あああ!」
泣き叫ぶ。大切な人にとどめを刺さなければいけなかったから。泣きながら二人で完成させた魂の干渉魔法で、ロジクスの魂を分解していく。
『大丈夫だって。俺の魂は俺たちの子供に。ラムに引き継がれる』
穏やかに微笑みながら、ロジクスは消えていった。
「うん……そうね。ありがとう」
「ラム!?」
「ラムがどうして相手の魔法の力を見抜くことができたと思ってるんだ。それも他者の魂の干渉術に他ならない」
魂の干渉ができるロジクスと、人間とは違う飛び抜けた存在であったエテル。その二人の子供が飛び抜けて優秀なのは当たり前なことだ。




