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悠久とエテル  作者: aqri
本編
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ロジクス1 ”魔術”の存在

「どこかにさ、『魔術』が封印されてるって話だぜ」

「おい、それ本気で言ってるのか」


 先ほどまでのダラダラした雰囲気から一変、ロジクスの目は真剣だ。


「わりと精度高い話だよ? 三年生でめちゃくちゃ有名な優等生さんがいるだろ」

「あー、名前忘れたけどいたなそんなの」

「この女同じチームなんだ。男に色目使っても全然振り向かせられないってイラついてるみたいだった。ちょっと甘いこと言ったらコロっとほだされたよ。恋愛に酔いしれてる女って本当にチョロイよな」

「優等生ってあれだろ。なんかやたらと教師から目をかけられてて、外部からも注目の的の。つまりそれだけ教師側から流れてきた情報かもってことだよな」


 それはつまり信憑性がかなり高いということだ。その事実にロジクスは小さく笑った。


「この世から失われたっていう伝説の『魔術』がねえ?」


 この世には魔法使いはたくさん存在する。自然の力を使い火、水、風、土、金を操る。普通では作り出せないような薬を作ったり、極めれば空を飛んだり水の中で息もできる。


 しかしそれとは全く違う「魔術」というものが確かにかつて存在していたという記録が残っている。魔法と魔術、この二つは混同されがちだが全く違う。魔法は自然の力と定義づけられているが魔術はこれといった特徴が記されていない。一つ言えるのは、魔法にできないことを魔術ではできるということだ。

 有名な話は何もない場所に巨大な神殿や城を一瞬で出現させた魔術師がいたとか。それは一瞬で作り上げたとも、どこかのものを転移させたとも言われている。魔法では不可能なことだ。


 しかし魔術は今どこにも存在していない。あった、というのもお伽噺ではないかともいわれている。あまりにもある日突然魔術がなくなってしまった。魔術師は魔法使いによって虐殺されたんじゃないかとも言われていたが。追い求める者たちの間ではこの説が強い。


 魔術はなくなったのではなく、どこかに封印されている。


 封印しなければいけない事情があったのか、それともそれを手に入れると覇者となるため争いを避けるためになくされてしまったのか。想像の域は超えないが、明らかに魔法とは違うことができるので追い求めるものは多い。研究者もいるし魔術捜索隊も真剣に活動をしているくらいだ、世間では笑いのネタにされているが。


「そもそもこの学校を作ったのって何度も戦争を経験してきた英雄だって話だろ。魔術が封印されている形跡だけ見つけて、学校を建てることで魔術を守り続けてるのかもしれないじゃん」

「一応辻褄は合ってるな。ツッコミどころは多いが」

「わかってるよ。でもこんなふうに考えられないか。なんで教師たちは自分たちで探さないのか。もしかしたら魔術を使う素質がある奴にしか封印を解くことができないとか」


 だから不特定多数の者たちをイベントと称して宝探しをさせている。そもそも魔術というのは感知できるかどうかさえわかっていない。魔法はエネルギーの塊だが、魔術ははっきりとした正体はわかっていない。何せ魔術が使われたと最後に記録があるのはおよそ三百年前の国歴書だけだ。


「こう考えるとちょっと面白くなってきそうだろ? もしかしたら魔術を使えるかもしれない有望な一年生がいるんだから」

「エテルのことかよ?」


 ロジクスの言葉にトータはニヤリと笑った。


「俺も話しかけてみたけど、ま〜ガードが固い固い。しつこい奴は毛嫌いするタイプっぽいからあまり接触はしてないけど。一年生で基礎の魔法が大体使えるってなんだよ? どこのご令嬢なんだって話じゃん」

「なるほど? 確かに」


 エテルが普通の魔法使いではなさそうだというのは実力がある者たちは皆気づき始めている。親が魔法使いだったら基本となる魔法を教えてもらっていてもおかしくはない。有名な魔法使いの推薦で入ったのならなおさらだ。

 それにしたってほぼ全ての魔法が使えるなど初耳だ。教師も彼女を慎重にもてなすように扱っているようにも見える。もしかして身分を隠した貴族や王家の遠縁なんじゃないかとか、とにかく何かとんでもない地位の人なのではないかと噂が立っている。

 入学してまだ一日しか経っていないというのに。人の噂の速さは本当に稲妻魔法よりも早い。


「警戒心は強そうだけど。一緒にいる友達は頭がユルそうだから、何か面白いことが聞けるかもしれない」


 暇つぶしに、どう? と悪い顔をして問い掛けてくる悪友に。退屈をしていたロジクスは、同じように悪い顔で返すのだった。


「勉強がアホくさすぎて脳みそ沸騰するかと思ってたところだ」


 近づくなら、まずは彼女の周辺のやつらから。何せ横つながりが不明すぎる。本当に高い身分の人間だったら彼女の会話を聞くだけで有益なものが多いはずだ。


 親から最近頻繁に優秀な成績をおさめているだろうな、と圧をかけてくる手紙がきてうんざりだ。おそらくロジクスを今後最大限に利用して家業を拡大するつもりなのだろう、冗談ではない。彼女の地位が高かったら、それを手土産にして実家と縁を切る交渉材料にできる。


「それじゃこのお祭りを存分に楽しむとするか。はりついてると警戒されるからうまいこと隠れながらだな」

「気配消す魔法がトップクラスだもんな、ロジクス」


 その魔法だけは死ぬ気で勉強してきた。おそらく二年だけでなく全生徒の中でトップだろう。しかしその実力をひけらかすことなく中くらいをキープしている、教師にもばれていないはずだ。自分を隠す魔法の習得に必死だったのも、実家から離れたいのも理由がある。それを話す気はないが。


「世界を滅ぼす魔術でも封印されてたらどうしよう」

「そんときゃみんな同時に死ぬからバレねえって」


 くく、っと笑いながら二人はその場を後にした。

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