モカ7 さよなら
上から見ていたダガーとアリスは二階から飛び降りた。慌ててモカを追いかける。ダガーたちの足は速いが、時計塔の近くだった為モカは時計塔に入ってしまった。中からガリガリと音がするので仕掛けを動かしたらしい。
「あ、入り口ねえし!」
モカが入って例のトラップの数々が動いたらしい。中の人が出てこないと入り口が開かない仕掛けのようだ。
「モカ!」
エテルが追いつき、何かの魔法を使った。そして石の壁をすり抜けてしまう。足音からすると階段を降りているらしく、ダガーたちの知らないルートがあったようだ。上級生たちと行動していたのでその時見つけたのだろう。
「やばくない!?」
「アリス、さっきの先輩に!」
「うん!」
アリスが走り、ダガーも教師に知らせに走った。
「モカ、待って!」
だだだだ、と下からは駆け降りる音が聞こえるが立ち止まる雰囲気はない。先日教師らと来た時にトラップの類は全て止めてしまっている。
ようやく追いついたのは先日みんなでたどり着いたところ。モカは一人中央で立ち尽くしている。
「モカ、勝手な行動しないでってば」
無茶な行動を注意しようとしたが、モカの顔を覗き込んで息を呑んだ。
「モカ? どうしたの?」
モカは、無表情だった。天真爛漫でいつも笑顔だったのに、こんなモカは初めて見る。
「モカ!」
「行かなきゃ」
「え?」
「行かないと」
「モカ、しっかりして!」
肩を掴んで揺さぶるが、まるで何かにとり憑かれたかのように無反応だ。先輩たちから聞いた幽霊騒ぎの噂を思い出した。まさか幽霊に憑かれてしまったのか? と不安になる。
モカをおぶって連れ出す自信はあるが、勝手なことをして大丈夫だろうかと不安もある。おかしなものに憑かれたのなら動かさない方がいいのではないだろうか。
「モカ……え?」
今、何か聞こえた。その方向をモカも見ている。一見何もない、だが確かに『道がそこにある』とわかる。
ふらり、とその方向に歩き出す。
「行かないと」
自分は、そこに行かなければいけない。
ずっと探していた、見つけなければならなかったもの。
「ああ、そうか。そこにあったの」
求めていた、必死に。この学校にあると感じて入学までした。閉じられた道に手を当てると、壁がなくなり下へ通じる道が現れる。そこに吸い込まれるようにエテルは歩き出した。
ガゴン、と音がして地上への入り口が開く。時計塔の一階に辿り着き、おぶってきたモカを地面に下ろした。目は空いているが呆けた状態だ。
「モカ、そのまま聞いて」
聞こえてるかわからない。でもきっと届いている。
「地下にはね、魔術の欠片があるの。私はずっとそれを探してた、学校に来たのもそれが目的だったの。探したかったから」
頬を撫でる。コツン、と額を合わせた。
「誰にも渡しちゃダメだから。私がなんとかする。でも、ごめんね。お別れだよ」
ぴく、とモカの瞼が揺れた。
「短かったけど、楽しかった。ありがとうモカ。私の大切な友達」
額を離した。エテルの目から涙が溢れる。おそらくもう二度と会う事はない。理解してしまったからだ、何故魔術の欠片を求めたのか。自分は一体、誰なのか。
「さようなら」
ダガーたちが駆けつけた時、モカは時計塔の前でうずくまっていた。
「どうした、具合悪いか!?」
「う、うう」
「モカ、エテルは?」
アリスも心配そうに声をかけるが答えない。どうやら泣いているようだ。
「エ、エテルが」
「どうした?」
「サヨナラって……」
その言葉に反応したのは上級生だ。
「くそ、やられた! 奪われてたまるか!」
「エテルを悪くいわないでよ!」
泣き叫ぶモカをダガーはひとまず抱き抱えてその場を離れた。上級生は脇目も振らずどこかに走って行く。優等生と聞いていたのに欲望丸出しに見えた。ダガーは舌打ちしたい気分だ。もっと早くエテルを助けていればと後悔が先立つ。
「どうなってるの!?」
アリスも混乱気味だ、ダガーはなんとなく予想がついた。
「地下に何かあった、あいつはエテルを利用して探りをいれてたんだ! それをエテルが奪ったとかぬかしやがる、なんて奴だ!」
「エテルは、私たちを巻き込まないために姿を消したの!?」
「うえええ!!」
モカは泣きじゃくる。話を聞けるようになるには少し時間が必要だ。
「とにかく、同行していた先生を探そう。あの野郎が変な行動しないように協力してもらわないと」
「アタシがいく、モカをお願い!」




