モカ6 エテル、忙しそう……
「地下に行くのはなしかあ、残念」
地下には何かあると確認できたので、再び行ってみようと話をしていた矢先だった。エテルからやめたほうがいいと止められて仕方ないので諦めた。
しかしモカだけは本当にダメなのかなぁと諦めきれない様子だ。このままだとこっそり一人で忍び込んでしまうのではないかと思う。どうやって諦めさせようかとエテルが悩んでいるときにダガーが先に声をかける。
「探検できそうなところは他にもあるし、別の場所に行こうぜ」
「うーん」
「なんでそんなに地下に行きたいんだ? 確かに面白い仕掛けはたくさんあったけど、俺たちが何かを見聞きしたわけでもないし」
「それともモカ、何か気がついたことでもあったの?」
アリスに聞かれてもモカはうんうんと悩むばかりではっきりしない。言いたい事はいつもズバッと言うのでこんなに煮え切らない態度は初めてだ。
「気のせいかなあと思ってたんだけど、ちょっと気になってることがあって」
「なに?」
それを解決しないと再び地下に行くと言いかねないので、エテルは先を促す。
「この学校ってさぁ、そんなに人多くないんだけど。なんだかお祭りの会場みたい」
不思議なことを言うモカに全員キョトンとする。獣人は聴覚と嗅覚が鋭いのはもちろん、生き物の気配にも敏感だ。墓場などに行くと実は死者の魂などもたまに感じることがある。はっきりと見えるわけではない。たぶん幽霊なんじゃないかなという感覚で、あまり今まで気にしていなかったが。
その二人をもってしてもお祭り会場のようだというのは意味がよくわからない。要するに人が大勢いてざわざわしているということなのだろうか。
「そんな感じしないけどな?」
「なんかね、人がいっぱい集まってる感じ」
「もしかして、魂を感じることができるとか?」
アリスの問いかけにモカはうーんと悩み始める。
「幽霊が見える人ってそういう感覚あるらしいよ。魂そのものを人として認識するから、目に見えない人の数も含めて大勢そこに人がいるみたいな。この国って戦争繰り返してきたし、死者の霊魂を察知してるのじゃないかな」
田舎出身のモカにとっては幽霊はいるんだかいないんだかよくわからない存在という認識だったようだ。しかし都会にも行ったことがあるエテルは、幽霊は確かに存在していて見える人がいることも知っている。商人が多く集まる国の中央部では幽霊騒ぎはよくあるし、王都では悪霊払いをしている聖職者もいる。
特に強い力を持った魔法使いは思いを残して死ぬと、この世にとどまったり悪霊になることも数多く報告されているのだ。都心部ほど幽霊はそれほど馴染みの深い存在なのである。
そう説明するとその話が聞こえたらしいクラスの同級生たちが興味津々と言った様子で話しかけてきた。聞いたことあるよ、でも実際見た事は無いよねなどと盛り上がっている。
「魔法協会本部には悪霊払い専用の人もいるみたい。私も昔勧誘されたことあるよ、断ったけど」
「協会本部ってなに? 学校とは違うの?」
「学校は私立だけど、魔法協会は昔からある組織だよ。権力が強くて、時には王立魔法騎士団とも対立するみたいなんだけど」
「うーん?」
そんな話をしてもあまりよくわかっていないらしいモカは首をかしげている。ちょっと話が難しかったかなと思っていると、再びダガーが助け舟を出した。
「ま、つまりさ。幽霊は目に見えないだろ? モカは幽霊がそこにいるってわかっちゃうってことさ」
「どうなんだろう、見たことないけど。でも時計塔の近くが一番ざわざわするんだ。僕それ面白いものがあるからワクワクしてるんだと思ってたけど」
冷静になってみると違うかもしれないと思ったようだ。確かに時計塔は大掛かりな仕掛けなどがあって、罠もたくさんあった。ワクワクする気持ちが先立って興奮してあの時は気がつかなかった。
「寒いなって思ってたら、気温が低いんじゃなくて熱が出る前の寒気みたいなもんか」
「似たような感覚だから勘違いしちゃってるってことね。モカは感じる力があるんだよね?」
「うん……それしか、なかった」
適正検査を何度やっても、モカは感じ取る力しか結果が現れていない。自然を操る魔法や炎を出すなど基本的なものも出せない可能性がある。そういう場合は本人の特性に合わせた授業が行われるが、エテルと同じ授業を受けるわけにはいかない。似た属性の子同士である程度クラス分けがされるかもという話が先ほどあったのだ。
せっかくできた友達と離れ離れになるかもしれないということで、若干モカの元気がない。おそらくクラス替えがあったとしたら、モカ一人だけが離れることになるからだ。魔力が低いダガーたちでさえ、基本の魔法を使うのは問題ないだろうと言われている。
元気に動き回っていた時は気にならなかったが。少ししょんぼりした状態であたりをウロウロすると、先程のざわざわした感じに気がついた。これはワクワクじゃなくてざわざわだとわかったのだ。
「一応これから上級生と先生に会う予定があるからその事は伝えておく。何が起こるかわからない場所だから、勝手に行かないでね」
「そこまで言われたらしょうがないね」
何とかモカの気持ちを逸らすことができてエテルはほっとした様子だ。
「そういえばここに来る前先輩たちから聞いたんだけど。武闘系の大会が学校で行われるんだって。各学年から二人ずつ代表が選ばれるから、ダガーたち応募してみたら?」
「お、腕が鳴るね」
うれしそうなダガーとは反対に、アリスは微妙な顔だ。
「獣人は強いに決まってるから卑怯だとか、そんな獣臭いの連れてくるなとかいろいろ言われそうだけど」
「だからこそだよ!」
先ほどまで少し落ち込んだ様子だったモカだったが、その話に食いついてきた。
「だからこそ?」
「よくわかんないけど、なんかいろいろケチつけてくる人がいるってことでしょう!? だったら勝ってほらみろって言ってやるんだ!」
えっへん、と自信満々に言うモカにその場にいた他の同級生もクスクス笑っている。微笑ましいな、と温かい眼差しだ。
「いいじゃん、実際に強いでしょう二人とも」
同級生が楽しそうに声をかけてきた。どうやら彼らもあまり獣人に偏見などは無いようだ。田舎出身が多いので、獣人とは良好な関係の人たちが多い。なぜなら彼らは力持ちなので農作業に適しているのだ。捕食系の動物が出た時も退治に駆け回ってくれるらしい。モカが会話のきっかけとなり、ほんの数日なのにダガーたちはすっかりクラスに打ち解けている。
「まぁ弱くは無いな、山賊とか叩き潰したことあるし」
「出るんだったら応援するよ、絶対一年生の中で一番強いと思うし。何なら学校の中で一番強いいかもしれないじゃん!」
わいわいとクラス中が盛り上がってきた。そう言われるとアリスもまんざらでは無いようで、詳しい話聞いてこようかなぁと言っている。それをわずかに微笑みながら見つめたエテルは、用事があるからといって教室を出た。




