ラム4 地下空間の本格調査へ
ラムとエテルで魔法の話をしていると、そのタイミングでデリーとブライアンがやってきた。当然今までの二人の話は全てデリーたちにも聞かれている、シャロンにも聞こえているだろう。
エテルがとんでもない才能の持ち主だとデリーたちもわずかに鼻息が荒い様子だ。エテルの特待生の推薦などに関われば自分たちの昇進や印象も良くなるからだ。まして王家への推薦に関われば、自分たちも王都に行くチャンスに恵まれる。
「待たせたね」
ラムは今までのエテルの会話を簡単に説明した。聞いていたのでわかっているがデリーたちはわざとらしくならない程度に驚いて見せる。
「彼女は闇属性の魔法がどうやら得意なようです。先生のご協力のもと、地上でできる地下への探りを入れてみませんか」
「確かに、我々がいれば彼女のフォローは万全だ。エテル君、よろしく頼むよ」
「はい」
そして基本的な使い方をデリーから教わるとエテルは目の前でそれを実施して見せた。一回聞いてできるのは本当に天才の類である。
「一度聞いただけでやってみせたのはラム君以来だね」
「そうでしたっけ」
「光属性と闇属性が得意な二人が協力し合う。まさに新たな双壁といったところだ。四か月後の学内イベント、二人で参加するんだよね?」
「二人きりかどうかは分かりませんがそのつもりです。闇が得意な人なんていませんからね。心強い彼女と出会えてすごく嬉しいです」
この会話ももちろんシャロンに聞こえている。それを想像して教師二人は内心笑っていた。こういう会話を聞かせれば聞かせるほどシャロン追い詰められて操りやすくなる。ラムと色恋沙汰で揉めたというシナリオにしておけば後で何かあったとき責任をかぶせやすい。
本当だったら二年生で習うはずの魔方陣を任意の場所に飛ばして見聞きをする方法。それをエテルはすぐにやってみせる。
「ラム先輩たちが行ったという場所までは探りは入れられました。しかしそのさらに下、何かあるような気配は感じるのですが弾かれていくことができません」
「魔方陣で他の魔法の気配を感じることができるのか!? これはとんでもないことだ」
心底驚いているらしく思わずデリーの声が大きくなる。今まで教えてきた生徒の中でとんでもない才能の持ち主だ。
「幽霊は?」
冷静なラムの問いかけにエテルはしばらく集中していたが小さく首を振った。
「何も感じない。というよりもそのさらに下の何かによって私の魔法自体が邪魔されてる感じ」
「要するに、やっぱり直接行くしかないってことか。……先生、気持ちはわかりますけど今はこっちに集中してくださいよ」
苦笑しながらラムが教師二人に声をかける。何せ地下の探索そっちのけで二人はエテルの今後の進学をどうしようかと熱弁し始めていたのだ。
「あ、ああ、すまない。でも君ももうちょっと驚いていいと思うんだが」
「そうですか? これぐらい普通にできると思ってました」
「まさかラム君、君もできたのか!?」
「はい」
何事もない普通のことであるかのようにあっさりと言うラムに教師たち二人は目を丸くした。
「もっと早く言ってくれ、とんでもないことなんだよそれは!」
「そうなんですか? みんなできてるものだと思ってたので」
「確かにわざわざ口にはしないが、なんてもったいないことだ。もっと早くわかっていたら、君は絶対に推薦が出せていたのに!」
「僕はこの学校でも楽しく学ばせてもらってますから大丈夫ですよ。それでこの後の方針、先生たちはどうするつもりです。あ、エテルじゃないですよ?」
悪戯っぽく笑うとデリーたちは苦笑した。確かに今エテルの事は生徒たちの前で興奮しながら話し合うことではない。しかも面白いことを聞いた。
(ラムも同等以上の才能を持っていた。優秀だと思っていたが、ここまでとは。捨て駒とするにはあまりにももったいない。魔法協会本部に掛け合って私の部下として招き入れるか? いや、魔法協会を切って王都にいくべきか)
そんな事は表情に出さず、デリーは作戦を提案する。
「万全の準備をしてきた、全員で一旦地下に行ってみよう。そこで何が魔法を阻害しているのか詳細を調査をする。今回は私の権限で転移魔法の使用を許可しよう」
物々しい雰囲気にエテルはちらりとラムを見た。許可しようとわざわざ言うということは普段は特別な事情がない限り使用を禁止されているということになる。
「転移魔法は国で規制されているんだ。正当な理由がない限り勝手に使う事は許されていない」
「正当な理由は学校内では特殊な授業だけということですか」
「そもそも、転移魔法を教えること自体が禁止されているからね。王都への推薦が決まっている人や、特別な事情が認められた人だけだ」
先程のやりとりからもこの二人はもはや魔法学校に在学しているべき実力ではない。それを鑑みてということだろう。
「どうして転移魔法は禁止されてるんです?」
「戦争に使われやすいからだ。兵士をいきなり最前線に送り込むこともできる。本人たちの意思確認なく、ね」
「なるほど、そういうことですか」
物流など物の移動に使えれば大変便利なのだが。物は使って良くて人には使ってダメだというと必ずどこかで仕組みに綻びが出てしまう。そのため国は全面的に禁止しているとの事だった。
それに物流は人が働く手段の一つであり、行商人などが出稼ぎにこの国に出入りすることも国の発展のために推奨していることである。
「物をホイホイ移動していたら税関を通らずに密輸するものが増えてしまう。その取り締まりの意味合いでも全面的に禁止なんだ。この魔法は跡が残りやすいから使ったら届け出をきちんと出せば問題ないよ」
その届出は教師たちの役割だ。今回の件を見ても正当な理由になるので特に取り調べなどは受ける心配もない。使う場合も緊急事態、自力で戻れない事情が発生した場合のみにということにして基本は自分たちで移動することにした。
ラムが光属性の結果を全員に張った。逆の属性は弱点にもなり得るが、力が圧倒的に強い場合は強固な結界となる。
教師たちはわからないが、実は霊魂に絶大な効果のある魔法だ。幼い頃から身に付けていたものである。その魔法の強靭さ、魔方陣の完成度に教師二人は舌を巻く思いだ。
「ここまで屈強なものだと我々の重ね掛けの結果は必要なさそうだね」
「まさか生徒一人に結界を任せることになるとは思わなかった。心強い、よろしく頼む」
「ありがとうございます」
(褒めることで擦り寄ってきたな、目つきが変わった。僕を捨て駒としてではなく本格的な道具として利用しようと舌なめずりか、まったく)
実際ラムの魔法の力はこの教師二人よりもはるかに高い。これでも教師のプライドを傷つけないためにだいぶ加減はしているのだ。何かあればもっと強力な結界を張ることもできる。
(相手が本当に幽霊だけならの話だけど)
幽霊騒ぎは彼らの仕業の可能性が高い。ということはそれは特に取るに足らないものと言える。問題はエテルの力を持ってしても探ることができない、もっとさらに地下空間。そこに一体何があるのか。それと、町の騒ぎは彼等の仕業ではないとなるとそれも問題だ。
「そういえばエテル君、お友達には今回の同行できない件は伝えてあるのかな?」
「はい、ここに集まる前にさっと教室に行って話をしてきました」
「よかった。好奇心旺盛なお友達だと、同行できないことに不満を抱いて後でこっそり自分たちもなんてなったら大変なことになるからね」
「それについては大丈夫です、私からもさりげなく釘を刺しておきました。それにラム先輩や先生たちが同行するということで一大事になっているとわかってくれました」




