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悠久とエテル  作者: aqri
本編
59/107

ラム4 教師たちの暗躍

 ラムとシャロンには特殊な魔法がかけられていることを先ほどシャロンは聞いた。何事かと思ったが、彼らを使い捨てのコマとして利用することをわざわざ告げに来たのだ。


「これは魔法協会が作り出した特殊なものでね、いくら優秀な彼らでも気づく事は無い。なぜなら魔法の気配がないからだ」

「それ、幽霊騒ぎのものと同じ!」

「この程度の事は気づくか、そこまでバカじゃなくて助かったよ」

「あなたたちの仕業なのね」

「幽霊騒ぎはね。だが地下に探りを入れたいのも本当だ、あそこには君の父上が必死に隠している特大の魔法が封印されている。娘である君なら探りやすい、何気ない会話からもポロっとお得な情報を漏らしてくれるからね」


 小馬鹿にされながらも何が言いたいのかははっきりわかってしまった。要するに、ラムとエテルを人質にとられたのだ。しかもそれを言ったところでラムとの関係は綻び始めている、信じてもらえるわけない。


「今更君が何を言ってもラム君は君を信用していない。そういうふうに持っていこうと思っていたら見事に自爆してくれた。感謝するよ、本当に馬鹿で助かった」

「!」


 シャロンの目にじわり涙が浮かぶ。ラムに信用されていない、のあたりが深く突き刺さったようだ。その様子を見てデリーたちは鼻で笑った。


「父親と喧嘩したんだろう? 娘である君の言葉も彼は何も聞かないだろうね。君の味方は一人もいない、しかも嘘が下手で頭も悪い。何かをやっても失敗するだけだ、あまり変なことをしないのをお勧めするよ。まあしたところで君一人が断罪されるだけだから痛くも痒くもないが」


 シラを切り通せる自信がある、そう三人の表情からはわかる。彼らの方が後ろ盾もあり交渉術も長けている。今シャロンの立場はとても悪い、彼らから悪い噂を振りまかれるに決まっている。


「立場の高い者というのは非常に使いやすい駒だということを覚えておきたまえ。もう少し信頼関係が築けていれば違う扱いだったんだが」


 その言葉にブライアンは大げさにため息をつく。


「無理に決まってるじゃないですか。自分は凄いんだって勘違いして常に上から目線だ。私がやります、私の意見ですけど、それは必要ないです、私が私が私が。全部自分本位だ、イライラする女だ」

「だからお嬢様は嫌いなんだよ、自分の力で偉いわけではないのに。ご立派なお父様のコブってだけで」


 校長も加わり教師から畳み掛けられ、シャロンは何も言い返せない。権力者の娘とは親に守られているだけで、本人の実力は伴っていないことが多い。実際シャロンの成績は優秀だが、優秀なのは成績だけだ。


「愛しい人と後輩を見殺しにしたいんだったら好きに動けばいい、どうせ失敗する。その時は君に責任があるように働きかける準備はできてる」

「それに、優秀なラム君は別のパートナーを見つけたみたいだし。もう君に何も期待していないだろう」


 誰一人お前なんかに期待してないから。それだけ言うと彼らは時計塔のほうに向かって歩き出す。後ろからはすすり泣くような声が聞こえてきた。


「いいんですか、理事長の動きを報告しろっていうこともできますけど」

「あの男を甘く見ないことだ。娘のささいな変化などすぐに看破するに決まっている。使い道は他に考えてある、それまではおとなしくしていて欲しいだけだ」


 娘に甘い父親という印象なのかもしれないが。内紛を治めた英雄の凄まじさは侮れない。そうでなければこんなに手を焼いてこなかったのだ。

 味方が少ないというのにいつも策略を先回りされてうまく身動きできなかった。協会本部からも圧力をかけられていて正直苛立っていたところだ。


「利用できる生徒がいないかと思っていたが、あの一年生。エテルが来てくれたおかげで二人の関係があっさり壊れた。色恋沙汰というのは本当に操りやすくて便利だ」

「あの感じだとシャロンの片思いっぽいですけどねえ」

「だからこそだ。これがラム一人だったら扱いにくかったんだよ。彼には家族がいないし人質にもあの手この手で対抗してくるはずだ。けれど彼自身が人質という立場になれば話は別だ、泳がせることができる」


 会話をしながらもラムたちの会話も聞いている。シャロンをどうするのかというあたりを聞かせたいがために魔法陣を張り付けたのだが、話題はエテルの闇属性の話となっている。


「ちょ、これ!?」


 ブライアンが驚いて声をあげた。


「ああ、とんでもないことになってきた。急ごう」


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