ラム4 エテルの飛びぬけた実力
そう言いながらさりげなくラムは部屋を出るように促す。ラムに教師が続くという図になってしまったが、デリーたちもこれ以上シャロンと話をするつもりはないようだ。うつむいたまま震えているシャロン一人を置いて、全員部屋を出た。
「助かったよ、我らの今後の動きを彼女に聞かせるわけにはいかないからね」
「そう思うならあまりいじめないでください。さすがに大人げないですよさっきのは。シャロンが今まで理事長と結託してないの、本当は気付いていたのでしょう?」
「それはそうだ。私はずっと理事長と戦ってきたからわかるよ。彼女の言動は子供そのものだ、一癖も二癖もある理事長には程遠い。ただ、最近調子に乗ってきていたから釘をさしただけだよ」
悪びれもなく言うデリーにブライアンもケラケラ笑っている。そしてからかうようにラムに話しかけた。
「いいのかいラム? 彼女のこと」
「彼女も子供じゃない、今後のことは理事長と相談するでしょう。審問会が動くなら彼女も当面は自宅待機ですね」
淡々と言って庇う様子のないラムの言動にブライアンは意外そうな表情だ。
「てっきり大切な女性かと思っていたんだが」
「チームメンバーで友人ですが。理事長の手先になったなら話は別です」
その言葉にデリーとブライアンは満足そうに微笑む。
「心強いよ、ラム君」
(都合のいい手駒として、だろ)
上手く引っかかった。教師たちがそう思うのと同時に、ラムもそう思った。先程の会話、主導権が校長ではなくデリーだった。つまり協会内の地位はデリーの方が上なのだ。
理事長と長年やりあってきた、と言っていた。実質学校内で暗躍する者達の取りまとめ役はデリーで間違いない。
準備のために一度解散して時計塔の前に集合ということなった。ラムとエテルは先に来ている。教師がいないうちに見られたくない魔法は使っておこうということで、ラムが探りを入れていたのだ。
「シャロン先輩の事どうするつもりなんです。このまま敵対するんですか」
「それは彼女次第だな。さっきの出来事で完全に決別する決心がついたんだったらそれは仕方ない」
「結構あっさりしてるんですね」
「ベタベタくっついているのが信頼や友情じゃないよ。どんなに仲が良かったとしても、自分の人生に害をなすと思えば切り捨てるのは必要なことだ」
「肝に銘じておきます」
「君は特別なんだけどな」
「光栄です」
仕掛けておいた魔方陣によって中を詳細に探ってみるが、やはり自分が行ったことがある場所ぐらいまでは特に大きな変化は見られなかった。
「私もやってみます」
「君は一体何が得意なんだ?」
本来ならラムは相手の得意な属性も見抜くことができるのだが。エテルに関しては全くわからないので彼女の能力は未知数だ。
「入学前、出会ったいろいろな魔法使いの方に稽古をつけてもらっていましたが。私は闇属性が得意なようです」
「ようです、って引っかかる言い方だ」
「自分では得意だと言う自覚がありませんから。基本的に全てできますよ。むしろ不得意なものがありません」
「すごいな、将来有望だ」
純粋に驚いたようにそう言ったが、それはとんでもないことだ。魔法の相性や得意な属性というのは一人ひとりもちろん違う。すべての属性が得意というのは、それは天才の域にいるということに等しい。
中でも闇属性は非常に扱うのが難しい。死を司るもの、闇を操るものとしてこれが使える人間はほんの一握りだ。そういった者は強大な力を持っていることも多く、ほとんどが王室に仕えている。
「闇属性であれば幽霊と相性が良いかもしれない」
「どういうことですか?」
「闇属性は生命の間逆、霊魂とは相性が良いとされている。僕は光属性の方が得意だから敵対しやすいんだけど、闇属性が得意なら霊魂にバレずに仕掛けが施せる」
この辺は二年生になったら習うことなんだけど、と前置きをした。エテルが優秀といってもまだきちんとした授業はほとんどやっていない。
「今後この調査を進めるなら、先生と掛け合って特待性扱いをしたほうがいいかもしれない。たぶん君では一年生の授業はレベルが低すぎてつまらないし、才能伸ばすのは早いほうがいい」
「確かに最初の授業見た感じだいぶつまらなそうでした」
一年生が習うレベルのものはおそらくエテルは全てできる。そうなると彼女にやってもらいたい魔法ももう少しレベルが高くて良い。
「今から僕が教えるものちょっとやってみて」
「いいんですか、習っていないものを勝手に使って?」
「上級生と一緒だったら魔法の練習や鍛錬はいくらでもやっていいことになってる。責任が上級生だからね。それに正反対の属性が得意だから何かあったら僕が光魔法で打ち消すことができる」
「なるほど、お願いします」
その会話を、デリーの魔法によってエテルは聞かされていた。
「手駒としてはいささか優秀すぎるのでね、これぐらいの仕掛けぐらいするさ」




