ラム4 シャロンとの対立
同行する予定の教師にもあっという間に話をつけた。三年生の教員長を選んだのは、間違いなく理事長と対立しているからだ。教師たちの人間関係もそれとなく調べてきた。この教師は間違いなく協会側の人間だ。
「妙な噂が広がってますます地下の肝試しをする生徒が出かねませんので。今回は真剣に調査をしたいと考えています」
「ラム君がやってくれるなら心強い、よろしく頼む」
「シャロンも誘ったんですけど、どうやらお父上の反対にあったみたいで。理事長は僕らの活動あまりよく思ってないみたいです」
「ああ、そうか。まあ仕方ない。理事長には私から言っておくから安心したまえ」
――そう言うと思ってた。
「ありがとうございます! やっぱり頼りになりますね、デリー先生は」
満面の笑顔でそう言うとデリーはニコニコとうれしそうだ。以前からラムのことを特別気にかけているのはわかっている。優秀な生徒であるラムから尊敬されるのは良い気分がするものだ。なぜなら教師として評価されるからである。
(それに、釣りたかった魚がひっかかったと内心ご満悦なはずだ。間違いなく野心家、そしてかなり手強そうってところか)
理事長には自分が言っておく。つまり、丸め込める。いや、脅迫できる材料があるということだ。真っ先に思いつくのはシャロンの存在。それと学校内で勢力関係が逆転していること。
(だから理事長はシャロンに家にいろと言ったんだな、縁を切るっていうのも理事長の本気を窺わせる。対立関係の方も思った以上に深刻なんだ。僕の予想以上に協会の人間がはびこっているってことか)
そのことに自分も気づかなかった。これでも教師は誰が敵で誰が味方になってくれそうか見極めてきたつもりだ。心から信頼できる教師は残念ながらいない、皆口が軽いし金に目がない者ばかりだ。
そういうのが協会に寝返っているのは目に見えている。理事長が一人で戦っているのも、それを見抜いているから。
(理事長とは協力関係にあるべきだったな、失敗した。もう無理だ、目つけられた)
これからはシャロンを通じて理事長に逐一報告がいくと思った方がいい。敵を増やしてしまった、自分らしくない失態だ。
その日シャロンは早退して再び実家に戻った。おそらく再び父親からの呼び出しだ。
「泣いてたらしいですよ、シャロン先輩」
ぽつりとエテルがそんなことを言う。今後の打ち合わせをしているときだ。早退するときに二年生が目撃したらしい。ラムとシャロンが言い争っているような場面は他の生徒も見ていたので、あれは完全に振られたんだねという話まで持ち上がっているくらいだ。
「そう」
どこか冷めたような声と顔。そこには何を考えているのか、エテルにも読み取ることはできない。
結局その日の地下調査は一時延期が告げられた。おそらく理事長とデリーの間でもめ事が起きたのだろう。それでも急ぎたいので、明日にはなんとかするとデリーは言っていた。
翌日の昼休み。魔法を使った校内放送が流れる。ラムは至急校長室に来るようにということだった。何ごとかと行ってみると、校長、デリー、地下に同行するもう一人の教師であるブライアン。そしてシャロン、エテルもいた。
シャロンはまるで別人のように冷たい表情だ。そして淡々と、理事長からの決定事項を伝える。
「時計塔は立ち入り禁止、地下調査は認められないそうです」
「すっかりお父上の手駒っぽくなったね、嘆かわしい」
教師とは思えない、真正面からの皮肉にシャロンはピクリと眉が動く。今の発言は校長だ、彼も協会の人間だったようだ。
「こちらから散々忠告と諫言をしたが聞き入れてもらえないとは。いやはや、内紛の英雄も権力がつけば落ちるものだ」
「父への侮辱をやめてください。続けるなら、私も敬語で話す価値がないと判断しますよデリー」
先生、をあえて抜いて言うがデリーはまったく気にした様子はない。
(残念だけど話術はデリー先生の方が上だ。そりゃそうだな。きっと長年理事長と対立してきたんだ。シャロン一人じゃ相手にならない)
「こちらの結論をいうが、それに従う義務はないね。理事長の権限を越えた暴慢なふるまいは審問会に報告済みだ」
「なんのつもりなの!? 自分達の行いを棚に上げて!」
「我々が何をしたというのかね? 自分で調べてるわけじゃないのに言いがかりはやめてほしいね。苦行を強いてきたのも、自分勝手な振る舞いで教師を虐げてきたのも全部理事長の行いだ。正当な主張だよ」
顔色を変えたシャロン。しかし審問会がなんなのかわかっていないエテルはわずかに首をかしげる。聞ける雰囲気ではないので黙っているようだが、ラムが小声で教えた。




