ラム4 動き出したラム
「いつも裏でコソコソ先生たちに根回ししてたの、僕が気づいてないとでも思ったのか。下心じゃないならなんだっていうんだ」
昔からラムは学校に不信感を抱いていた。ラムの父が失踪してしまったからというのもあるが、ことあるごとに皮肉を交えて物事を捉えていた。父や教師がどれだけ大変な思いをして学校運営をしているか見てきたシャロンにとって、それはいつも引っかかっていたことだ。そこだけが唯一ラムに対して抱いていた不満だった。
学校に関わっている人全てを疑ってかかるのは、自分の大切な人たちを傷つけられているのと同じだったから。それをなんとか取り持ちたかっただけなのに。ラムの目にはそうは見えなかった。それを下心と言われて怒りと悲しみがこみ上げる。
「調査の件は三年の教員長に許可をもらってる。そっちがどんな邪魔をしてこようと僕は調査に行く。残念だが理事長とは仲良くなれそうにないな」
そう言い放つとラムがシャロンの返事を聞かずにそのまま踵を返した。それを見ていた二年生たちがヒソヒソと何か話しているが、チラリと見上げてまっすぐ見つめるとびくりと体を震わせて皆慌てて教室に戻っていく。まさか気づかれていると思っていなかったのだ。しかもラムは社交的でいつも笑顔絶やさない優しい人柄だ。それなのに氷のように冷たい目で見られてかなり慌てたようだった。
(面倒な噂が立つな、仕方ないか)
いつもだったら波風が立たないようにいろいろな根回しをするのだが。イライラしていてそんな気にもならない。今は何もかもが面倒だ。
「まあいいや。優等生を演じるのもちょっと疲れてきた」
そういうと急いで行動する。おそらく理事長はシャロンを通じた忠告がラムに届かないのは予想済みのはずだ。今頃向こうも何らかの対策をしているはずである。
「普通に考えたら適当に理由をつけて僕はまた謹慎処分が妥当か。二回の謹慎処分は退学勧告の第一条件だ、僕をさっさと学校から追い出したいってところかな」
それならこちらも多少無茶をするだけだ。急いでエテルのところに向かった。有名人が直接エテルを訪ねてきたということで、一年生は大いに騒ぎ立てた。
「やっぱり特別な関係なんですか!?」
エテルの友人が興味津々といった様子で問い掛けてくる。だがラムはいつもの人の良さそうな笑みは浮かべなかった。
「そういうつまらないことを聞くのは二度とやらないでもらいたいな。迷惑だ」
少し強めにクラスの全員に聞こえるようにそう言うと一気に静まり返った。ラムのビリビリした雰囲気にようやく気付いた友人は青くなる。
「え、あ、す、すみません……」
泣いてしまうのではないかというくらいにブルブル震えている子の前に、エテルがかばうように一歩前に出た。
「言いたいことはわかりますけど、もう少し違う言い方をしてください。私は迷惑だって思ったことないです」
「僕が迷惑だって言ったんだよ。あることないことそうやって好き勝手騒ぐくせに、誰も責任取らないんだからね。まあその話はいい。調査の件、放課後おこなう。先生にはそう今から伝えてくる」
「今日? 急すぎです、私何も準備が」
「準備は僕がする。ちなみに一緒に行くのはその子?」
くいっと顎で示したのは今エテルの後ろで震えている一年生だ。顎で人を示すという、あまり良い動作と言えない様子にもクラスメイトは怯えてしまっている。
「そうですよ。だから良好な関係を築く努力をしてください」
「今回限りの付き合いだからそれほど必要ないと思うけど。それにそういうことを言うなら、無責任な人が自分の言動に責任を持ってもらうのが先だろ」
どうやらラムがだいぶイライラしているということがわかりエテルは小さくため息をついた。ここで喧嘩腰になっても時間の無駄だ。
「放課後ですね、分りました」
そしてラムは一年生の教室を出た。次の瞬間後ろにいた友人は泣き出してしまい、静まり返っていた教室も戸惑ったようにざわつき始める。
「ラム先輩相当怒ってたよ、どうしよう」
「謝りに行った方がいいんじゃないか?」
他の友人たちがおろおろとエテルを囲み始めた。
「たぶん何か違う件で頭にきたことがあったんでしょ、気にすることないよ。あれは八つ当たりに近いと思うから。私からフォローしておくから大丈夫。すぐに機嫌直ってるよきっと」
にっこりと笑ってそう言エテルに半泣きの友人は何度も謝ってきた。
「大丈夫? エテルに何か叱責とかいかない?」
「大丈夫大丈夫。この間の屋外活動の時だいぶ仲良くなったし。普段は穏やかで知的な人だから、ちゃんと話せばわかってくれるよ」
その言葉に、やっぱり二人はとても仲良くなったんだなぁという印象が広がった。表立ってそれを口にすればまたラムの怒りに触れそうなので皆こそこそと裏で噂をする程度に止めたが。




