ラム4 幽霊が出たという噂
(かなり危険なことだからこっちの道を選ばないでほしいっていうのが本音なんだよね。彼女には普通の学生生活を送ってもらいたい)
それはきっと、もうこの時点で自分はそれができないと確信しているからだ。今回の事、絶対に大事になる予感がしている。相手の魔法がどれぐらいの強さなのかわかるラムの能力をもってしても、魔法を打ち消すあの現場には何も感じなかった。つまり……。
(魔法の効果を消しているのは、魔法じゃないってことだ)
果たして本当に魔術というものなのか。それとも全く違う何かなのか。
生徒は寮に住んでいるが許可をもらえれば家に行くこともできる。シャロンはきちんと手続きをしてその日は実家に帰った。就寝時間前の自由時間は学年や性別関係なく皆が自由に過ごすことができる。サロンでくつろいだりゲームをしたり。そんな中夜風に当たっていたラムのところにエテルがやってきた。
「場所変えるかい?」
「いえ、このままで良い。わざわざ近寄って盗み聞きする人もいないだろうから。こそこそしてる方が変な噂が立つでしょ」
確かに穏やかな表情で一緒にいる二人はごく自然だ。二人っきりで逢引を楽しんでいるという様子は無い。
「今日友達からこんな話を聞いたの。この学校には幽霊がいるって」
「その手の話はこの学校にはたくさんあるよ。僕も一年生の頃からいろんな種類を聞いてきた」
「その中で一つ気になるのがあって」
「うん?」
「学校の地下には宝が眠っていて、それを守る亡霊が跋扈している。その幽霊たちには魔法が通じないんですって」
それは初めて聞く話だった。魔法使いの中には魂を見ることができるものもいる。このあたりは属性や血筋の問題なので、すべての魔法使いが幽霊を見れるわけではない。
「今回の件と少しつながるってことだね」
「そういうこと。幽霊の浄化には光属性の魔法が通じるから、魔法が通じない幽霊というのは確かに興味がある」
「なるほど。目撃情報は?」
「あるよ、私たちが屋外活動行ってる間に私の友達が実際見たって言ってた」
「つまり地下にこっそり行ったわけだ」
時計塔に地下があるのは一部の人間は知っている。あそこは複雑な仕掛けと魔法が施されていて本来は立入禁止だ。しかし好奇心旺盛な者や実力騙しをしたい才能ある者たちがたまに忍び込もうとする。
そのため実は教師とラムたち一部の優秀な生徒によって、いかにもそれっぽい仕掛けを施してあるのだ。まるで何か大切なものがそこに眠っているかのような簡単な罠がそれだ。
「一応情報共有しておこうかな。あの時計塔、本来は見張り台なんだよ」
「見張り台? この学校要塞だったの?」
「そ。建てられた当初の目的は戦争で使うための砦として建設された。結局ほとんど使われることなく戦争が終わった。跡地を学校として使い始めたらしい。新校舎は後から建てられたんだ。ほら、旧校舎ってちょっと使い勝手悪いだろ」
「入学イベントで軽く見たけど、確かに。教室っていうより訓練場みたいな広い部屋が多かったね。そっか、そう言われれば納得できる、寮も宿舎だったんだ。妙に重厚な造りだと思ってた」
「学校用に建てられた新校舎とかは何もないけど。昔からあるものは魔法で施設そのものが動いたりもするんだ。時計塔、旧校舎、旧図書館もそうだね」
「じゃあ地下は本当にあるんだ」
「戦争で死んだ亡霊が歩きまわっているっていうのが僕が知ってる噂だったけど。魔法が効かないのは初めて聞くな。適当に理由をつけて調査に行ってみようか」
まさかそう言ってくると思っていなかったらしく、エテルは目を丸くしている。
「別に意外じゃないだろ、何もないところから噂なんて立たない。情報が錯綜して噂という形に姿を変えている可能性もある。どんなものでも手がかりをつかんでおきたい」
ラムの父が消えたのも地下だという話だった。何か重要なものがあって、近づけさせないためにあえて噂を振りまいている可能性はある。
「ほんの少し興味を引くような噂をまいておいて、実際調査したら何もない。そしたらがっかりして二度と近づかないだろう。中途半端に何かを見つけてしまったらしつこくかぎまわるから、邪魔者を追い払う典型的な手でもある。戦術でもよく使われるよ」
「調査するって言っても。霊魂が見える人いるの?」
「僕」
「……あなたって本当に欠点がないのね」
「僕だってあるよ。得意なことが多いだけだ」
それは自慢でも何でもない事実だ。ラムは幼い頃から死者を見ることができた。そのため追いかけ回される苦しさをどうにかするために、最初に覚えたのは魂を浄化する光属性の魔法だったくらいだ。
「幽霊なんて興味ないからちゃんと調べたことがないし。でももしも本当に魔法が通じないとしたら、その対策も考えてからってことになるけど」
「具体的に何か案は?」
「全力で逃げる」
「あのねえ」




