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悠久とエテル  作者: aqri
本編
50/107

ラム4 謎が多い理事長

 魔法学校の教師の給与は決して高くは無い。そのことが常々不満なのは見ていればわかる。魔法協会との対立に熱くなっているのは上だけで、自分たちは何も関係がないと冷めた気持ちで見ている教師は少なくない。

 今回屋外活動に参加した教師たちも交流する機会が多かったが、魔法協会の陰口などを聞いた事は一度もなかった。言ったとしてもちょっと態度が大きいよな、程度のことだ。


(つまり魔法協会を敵に回しても何もいいことがない。勢力関係で言えば学校は圧倒的に不利だ。シャロンの父は今そこまで権力が強いわけではないんだな)


 皆を取りまとめるものが他者の気持ちを理解せずに自分だけで突っ走る。組織が瓦解してきている証拠だ。魔法学校が協会本部の支配下になるのも時間の問題かもしれない。たが改めて冷静に考えてみるとそれが一体何の問題があるというのか。


(そもそもシャロンの父親はなぜそんなに協会本部と敵対している? 敵対しなければならない理由が何かあるのか。さっきの質問にシャロンが答えられなかったのなら、少なくとも彼女はそれを知らないということだ)


 父親の個人的な感情の話であれば放っておいても良いのだが。魔法協会にも学校側にも隠し事は多いだろう。自分の父が学校の地下で命を落としたように。

 次の授業でシャロンはどこが心ここにあらずといった様子だった。無理もない、学校と協会の対立が、実は話が大きくなっているだけだと言われたのだ。父親の個人的なものとなると、みんなが味方だと思っていたのがひっくり返ってしまう。協会に寝返った教師たちが悪いという考えそのものが間違っているということにもなるのだ。教師たちは裏切ってなどいない。もともと学校の、いや自分や父の味方ではないということだ。


(冷たいようだけど今シャロンに温かい対応することはできない。自分の父親を心配するのは当たり前だし、やっぱり父側に着くと言ってもおかしくないからな)


 正直それも仕方ないと思っている。今まではシャロンのことを完全に信用できず言わなかったことだが。シャロンは決して自分の立場を自慢したりいいように他人を顎で使ったりしない。理事長の娘として恥ずかしくない立ち振る舞いを心がけていたし、父の話をする時は心底楽しそうだった。心から父を愛しているのもわかる。

 権力者の娘とあって実はシャロンに信頼できる友人はいない。優秀な生徒、学生会の副長、そんな肩書きで皆が接しているのがわかる。だからシャロンは物事を抱え込む傾向がある。なぜなら相談相手はいないからだ。

 いつもならラムといろいろな議論をすることで解決してきた。だからラムに頼ることができないと抱え込みどんどん悪い方向に考えがいってしまう傾向が強い。さすがに見かねて休み時間になった時ラムはシャロンに話しかけた。


「さっきの言葉を気にしてるんだったら、悩んでないで直接話しに行ったらどうだ」

「それは」

「話したくても話せなくなったら、一生後悔するよ」


 ラムの父が幼い頃亡くなっているのを知っているシャロンはハッとした様子だ。そしてうつむいて少し考えてからまっすぐラムを見つめる。


「今日、お父様と話してくる。今回のことを報告なんて絶対しないから」

「わかってる」


 そこだけはわかってほしくて必死に言ったつもりだったが、ラムは穏やかな表情で即答した。そのことにシャロンは目を丸くして眉をハの字にして笑う。


「ありがとう。今何か困ってる事はないか聞いてくるわ。考えてみたらここ一ヵ月ぐらいまともに会話してないかも」

「探りを入れるんじゃなくて、ちゃんと娘として話をしてくれ。君がお父上を心配してる気持ちは本当なんだから」

「うん。ありがと。あと、どんな話をしたとしても私の意思は変わらないからね」

「そこはちゃんと真剣に考えていいと思う。親子関係を取るのは大切なことだ。学校がどうのじゃなくて家族を大切に思う気持ちを大事にしてほしいのは僕の本心なんだよ」

「わかった、時間をかけてちゃんと考えるから」

「シャロンがどんな決断を下しても、別に二度と口をきかないとかそういうわけじゃない。考え方や立場の違いは人であれば誰でもある。そういうところを僕は尊敬してるんだ」

「そっか。そういうのもっと早く言ってよね、初めて聞いた」

「君の場合言ったらちょっと調子にのるからね」

「もう! ふふふ」


 穏やかな談笑が終わり次の授業が始まる鐘が鳴る。この授業が終われば今日の授業は全て終了だ。沈んだ表情から一変、どこが吹っ切れたような明るい表情のシャロンなラムも胸を撫で下ろす。先程言ったのは本心だ。家族を大切にしてほしい、という思いも。

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