モカ2 モカとエテルの出会い
「お友達になりましょう!」
突然声をかけられて少女は驚いたように立ち止まる。蜂蜜のような薄い金髪、誰もが振り返るようなお目にかかれない美少女。しかし彼女は一人で歩いていてどこか近寄りがたい雰囲気があった。話しかけないでくれとでもいうような、わずかに冷たい表情をしていたのだ。
そんなことがわかっているのかいないのか、全く空気を読まない雰囲気でモカは真正面からそう叫んだ。その様子に少女は戸惑った様子だ。
「え?」
「新入生挨拶聞いてたでしょ!? まずはお友達第一号はキミに決めた!」
「……なんで?」
「美人!」
自信満々にそう言うと、彼女は再び無表情に戻る。
「要するに、顔だけで友達になりたいってこと?」
「うん」
これまたあっさりと言い放ったその言葉に彼女は驚いた。普通こういう時はそんなことないよ、と取り繕ってくるものだ。そんな経験を何度も繰り返してきたのだがこんな返事は初めてだ。
「だって今日初めて会ったんだから、どんな人か知らないもん。顔が良いのはお得なことばっかりだよ!」
「例えば?」
「お菓子を買ったらおまけしてもらえる!」
どうやら本気で言っているらしく目をキラキラと輝かせて自信満々だ。しかしこれといって心が動く内容ではない。
「食べたくなかったら別にいらないでしょう。それに、それの何がいいの」
「なんでおまけしてくれると思う?」
「え……さあ?」
考えたこともない。いい人を装いたいなら別に顔の良し悪しでおまけをくれるとは思えない。客に良い顔をすることで再び来てもらう目的か、擦り寄ってくる材料なのだと思っていたが。
「笑って欲しいからでしょー! 美人が笑うとみんなが幸せになる!」
「え」
「おまけしてくれた人、絶対笑ってるじゃん」
たくさん食べられるほうがいいに決まってるじゃないか、とか。顔が良いやつと仲良くなったら自分もおまけがもらえるから、とか。そんなことを言われるのだろうと身構えていたが、モカの言う事は予想の斜め上なことばかりだ。
「笑う……」
「つまり僕は幸せをいつももらえるわけだよ。そのかわり僕も君にたくさん返すよ!」
「なに、を?」
なんだかもっと話していたくなる。言っている事はたいした内容ではないのに。他の人が言ったら何を言ってるんだろうと冷めた気持ちになるのに。自分の言ってる事はこの世の絶対的な真実だとでもいうように、モカは目を輝かせている。
「友情! それがめぐりめぐってみんなが幸せになる!」
「……」
一瞬辺りがしーんと静まりかえったが。
「ふ、ふふ。なにそれ」
口に手を当てて思わず笑ってしまっていた。その様子を見ていた周囲の人たちも笑いが沸き起こる。
「ほら! 美人が笑うとみんなが笑う!」
「い、今のは。ちょっと違うと思う、ふふ」
「え、じゃあ何?」
「バカみたいだから」
「えー!?」
ガーン! と背後に文字が書いてあるかのように目をまん丸にするモカ。しかし彼女は馬鹿にした様子はなく穏やかに微笑んだ。
「バカ正直。私もそんなバカになってみたい」
その言葉にモカはニカっと白い歯を見せて笑った。
「よろしく友達第一号! 名前は? あ、改めて自己紹介するけどボクはモカだよ!」
「私は……エテル」
「よろしくエテル! ようし、友達が一人できた」
そんな様子を周囲は暖かく見守っていた。
「ああああ! 猫耳と犬耳発見! モフモフさせてえええ!」
「あ、モカ」
突然走り出したモカをエテルは追いかける。




